ところで幽霊になりたい
コンテンツとして一定の人気を誇っているジャンルのひとつとしてホラーというものがある。
人間の狂気といった精神面から迫るものも多くあるが、今回はそのなかでも主に霊や怪物による一種の災害じみた現象について考えてみたい。
そもそも、わたしは心霊現象に対して懐疑的である。
個人的体験がないし、「だれかの友達の親戚に起こった」みたいな伝聞が多く、被害者本人に出会ったことがない(後述するが一人だけいる)。
説明のつかない現象をすべて霊や神のせいにするのも不誠実だし、霊がいたと仮定した場合に、向こうがこちらをよく思っていないように振る舞ってくるのはそのせいなのでは?とすら思う。
あいつら、ずるくない?
テレビや映画、小説なんかに霊が登場する場合、これはわたしが無知ゆえかもしれないが、手助けをしてくれたとか幸福を運んできたとかいった話はほとんど聞かない。
多くの場合、人に不幸をもたらしたり、最悪の場合には殺されてしまう。いや、殺されるのはまだいい方かも知れない。中途半端に精神を壊されて人間生活が立ち行かなくなるような事態が一番嫌かもしれない。
仮に幽霊に備わった能力として、すべてを呪い殺す力を持つのであれば全人類殺してしまえばいいのにそうしない理由を聞かせてほしいし、自分の領域に入ったものだけを殺しているのであればあまりに身勝手だ。
対抗手段はないに等しく、逃げるしかない。祈りも塩も何らかのアイテムでも防げないケースが圧倒的に多い。逃げてもどこまでも追ってくる場合すらある。
そう、幽霊ってめちゃくちゃ強いのである。
理不尽なほどにめちゃくちゃ強いのである。
それってずるくない?
じゃあこっちも幽霊になればいいじゃん
それでわからないのが、例えば幽霊に殺されてしまった誰かのその後である。そのまま幽霊になって仕返しすればいいじゃない、と思ってしまうのである。
目の前に幽霊がいて、物理的にしろ精神的にしろ人間を殺害できてしまえているのであれば、やられた側に同じことができないなんてことある?
幽霊同士は争ってはいけないとか、そうしたルールがあるのならまた話は変わってくるが、もしもわたしが呪い殺されたとしたら、一番に考えたいことはもちろん呪い返す方法だ。
え、何、もしかして幽霊になるには免許か何かあって、免許取得待ち状態の霊体が大量にあったりするのかしら。恨みや後悔が数値化されたり、面接で如何に人を呪いたいか熱弁を振るったりするのかね。
「わたしはこれこれこういう理由で大変に人を恨んでおり、幽霊として現世に出現を許された際にはきっと怪談に残るほどの災害を起こしてみせます」
いやいや、そのまま死んでおいてください。
でもそうなると現実社会の友人関係や仕事のように、この幽霊の話は聞いておいたほうがいいとか、あの幽霊を知らないのはモグリだとか、いつまでにこの書類を仕上げなければならないとか、怖そうに見えると評判のメイク術や衣装が販売されていたりするかもしれない。
「人間として生きていた頃のように普通に会話しちゃいけないよ」
「昼間はなるべく出ないようにね」
「最も怖い、うなり方・登場方法講座はこちら」
なんてのもあるのかね。
寿命とかなさそうだし、飲食も必要としてないイメージあるし、なんなら昼間寝てるのかな~とか、夜だけ出てきて好きに驚かせたり、人殺ししてりゃいいんだとしたら、あれ、生きてるより死んで幽霊になったほうが断然お得??
映画やお話に出てくる幽霊は超々エリートで、それ以外はよくわからない状態だったりするのか?
幽霊に会ってみたくてやったこと
それで幽霊にぜひ会ってみたいのである。話を聞きたいのである。興味がありまくって困っているのである。
そうするとわたしは行動的になり、西に「出る」と評判の廃病院があれば足繁く通ってみたし、東に地元で有名な御札がびっしりと貼られた民家があれば出向いて札をはぎ唾を吐き、唯一直接心霊体験をしたという友人の家に出向いては盛り塩を蹴り倒して「さあ、話をしよう!」と両手を広げて朝まで待ってみたこともある。
結果、わたしは霊に会えていないし、話も聞けていない。
ここまで積極的に行動して会えなかったのだから「いないんじゃないか」と懐疑的にならざるを得ない。
霊体験はすべて錯覚や精神疾患の類ではないか?フィルムカメラが廃れて心霊写真が殆どなくなったのは何故か?
というか本当にいるのならもっと現実社会に影響を及ぼしていなければおかしいのでは?なんでそんなに控えめなん?そのくせ出てきたら人殺すとかメンヘラの極みすぎるだろ、などなど考えてしまう。
ある夜の夢
たぶん夢なのだが、ただ一回だけそれっぽい経験をしたことがある。
夜、横になっていてふと目を開けると天井に黒いモヤがもぞもぞと蠢いている。そいつにとって天井が地面なのかわからないが、直感的にこちら側にジャンプして来ようとしているのがわかった。
やつは何度目かのトライでついにわたしの耳元までやってきて
「久しぶり」
そう言って耳の中へと消えていったのである。
たぶん夢なのだ。
目が覚めたときに、お腹周りだけビシャビシャに汗をかいていた以外に変化はない。
当時の職場に出社したときに普段話しかけてこないような人からまで「大丈夫?なんか顔色が悪いよ」と言われたがその程度だ。
単純に体調が悪かったという可能性を捨てきれず、夢なのだと結論づけた。
これまでの人生でとんと幸福に思えることもなく、自分を客観視してみたときにわりかし不幸、孤独といったワードが似合う人生を送っている気がするが、これがもしあの夜のモヤによるものだとしたら、わたしは絶対にやつを許さない。
なんとしてでも幽霊免許を取得し、いの一番にあのモヤを探し出し、「久しぶり」と言って入ってやり、小一時間説教をし、何故わたしをこんな目に合わせたのか聞き出し、それから全く無関係の人間を憂さ晴らしに殺して回るのだ。
なんだってやってみせる。こんなにポジティブなことがあろうか。いや、ない。
幽霊になる方法、大募集中
現在、ほんの一部の関わりのある人間以外にはまるで幽霊のように思えるかもしれない生活をしているが、それは望んだ姿の幽霊ではない。
悲しい比喩として幽霊のようである生活をしているだけなのだ。あ、すみません泣きそうです。
わたしは幽霊になりたい。今のところ方法は不明だ。
もし身近に話の分かる幽霊の知り合いがいらっしゃるどこかのあなた、ぜひとも紹介してほしい。
金はないが、命は出すぞ。
すぐに呪ってくるような幽霊は募集していないので来ないでください。
最後に一首。
・幽霊がいるとしたならならない理由はどこにあるか教えて