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究極の癒し?『絶望名言』

時々聴いているオーバー・ザ・サンのバックナンバーに、こんなエピソードがありました。番組MCパートナーでもあり、気心の知れたお友達同士でもあるジェーン・スーさんと堀井美香さんが、ある日一緒に大型書店に行き、小一時間ぐらい自由行動をしたと。

すると、お互い興味関心が見事にバラバラで、そこそこ長時間いたにも関わらず、同じ棚ですれ違うことすら無かったそう。もちろん、選んだ本もバラバラ。え、そんな本あったっけ!?ってとても楽しそうでした。

そこで堀井さんがチョイスしたうちの一冊が、こちら。

『絶望名言』- 製作者:頭木弘樹さん、川野宇一さん、根田知世乙さん、NHK<ラジオ深夜便>制作班の方々

ぜ、絶望名言!?表紙カバーに抜粋されている「名言」だけでも、既に異彩を放っている。

「明けない夜もある」あ…明けないんか…!
「無能、あらゆる点で、しかも完璧に。」か、完璧に…!?
「絶え間のない悲しみ、ただもう悲しみの連続」えええっ…。

番組冒頭の元気で楽しい雰囲気下では、スーさんはやはり、表紙からしてあまりのネガティブさに逆にケラケラ笑っていたし、私も「何それ!?しかもそんな奇抜な内容でNHK!?気になる!」と思ったので、読んでみました。


失恋に効くのは、ポジティブソング?

皆さんは過去に、ダメージの大きい失恋をしたことがあるでしょうか。少しだけ落ち着いて、気晴らしに音楽でも聴こうという時。求めていたのは、果たして前向きなポジティブソングだったでしょうか。

違う。そんな時は、ゴリゴリの失恋ソングをひたすらヘビーローテして、歌詞に無茶苦茶感情移入し、そうだよそうなんだよ何で私の気持ちわかるのよ!!今の私のために歌ってくれてるとしか思えないぃぃぃぃ!!うえーーーん!!!

で、ひとしきり悲しみ、心の中で喚きまくり、もう涙も一滴も出ないぞってぐらい泣ききって、放心。一旦そこまで至ると、今度は憑き物が取れたかのような冷静な心境に辿り着き、また段々周りが見えるようになってくる。
ポジティブソングの歌詞が入ってくるのは、私はやっとそこからでした。

さて、では絶望は。絶望の原因は人それぞれ。失恋だけでなく、例えば病気、怪我、失業、死別、被災、事故、離別…。こうやって文字で羅列するだけでも、しんどい気持ちが差し込んでくる事柄ばかり。

この本の前書きで頭木さんは、こう言います。

絶望したときに、救いとなったのは、明るい言葉ではなく、絶望の言葉でした。

P.4「はじめに」より

頭木さん曰く、失恋には失恋ソング、絶望には絶望名言なんですって。なるほど。

著名人たちの絶望「名言」集

この本は、NHK「ラジオ深夜便」という番組のいちコーナーを書籍化したものでした。

番組(つまりこの本)では、頭木さんと川野さんの対話を通して、著名人の著作、発言、書簡などから「絶望名言」を各回でピックアップし、その言葉が搾り出された経緯を詳しく解説しています。

発信者はどなたも、錚々たるラインナップです。カフカ、ドストエフスキー、シェークスピアなど海外作家ばかりかと思いきや、太宰治、芥川龍之介、向田邦子、川端康成、宮沢賢治のような日本の作家や脚本家も、はたまたベートーヴェン(音楽家)やゴッホ(画家)まで。

後世に脈々とその名が知れ渡り、偉人と言える人物たちが、どんな時にどんな絶望を経験し、それを言語化していったのか。「絶望」という観点にフォーカスを当てつつも、伝記を読むような感覚も伴い、ああ、どの人物も確かに同じこの世に生きていたんだ、という証を知る経験にもなりました。

絶望した時も、していない時にも

進行のお二人も大病を経験されて、それぞれの絶望体験も随所で語られています。

noteでこんな紹介ばかりだと、さぞかし深刻で読み進めるのもしんどい本なんじゃないかと思われてしまうかも知れないけれど、そうでもなかったんです。

白状すると、正直、個人的には辛いページもありました。その単語、読むだけでも辛いな、とか。色々ね。そりゃ、人の絶望エピソードが詰め込まれた本だから、各人にとってそういう場面があってもおかしくない。そんなところは休み休み読みました。

でも全体としては、お二人や著名人たちの絶望に沿い、絶望を想像し(もちろん想像を絶するものも多々ある)ながらも、どこかに希望が繋がる会話に光が見出されるというか。気づいたら、読者である自分も、いつの間にかどこか深いところが癒やされていることに気付きました。

絶望した時のこの本は、きっともっと染みると思います。読みながら少しずつでも気持ちを紐解いていくと、暗闇からの突破口に繋がることもあるかも知れません。

ただ、本書でも言われている通り、心が元気な時こそ、完全に絶望してしまう前にこういう言葉たちを心のどこか片隅にでも置いておけるだけでも、逆説的ですが生きる力の源のひとつになるような気がします。

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