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初めて触れるシリア文学『酸っぱいブドウ/はりねずみ』

何かとバタバタしていて、noteちょっとお久しぶりです。
前回アップしたこの
『断絶(Severance)』- 著者:リン・マー(Ling Ma)さん

を読んだことをきっかけに認識した白水社のシリーズ、複数の国の本が和訳されていることを知りました。私の個人的な感覚だと、日本で和訳されている海外文学と言えばたぶん英語が大多数だと思うし、それ以外となると、欧米系言語、韓国・中国語辺りが多いんじゃないか、というざっくりした印象なんだけれども。
どうせならあまり馴染みのない国の本を読んでみよう!と手に取ってみたのが、こちら。

『酸っぱいブドウ/はりねずみ(エクス・リブリス)(Sour Grapes/The Hedgehog)』- 著者:ザカリーヤー・ターミル(Zakaria Tamer)さん

…シリアの作家さんの本!元言語は、アラビア語。これは私、初めての分野です。
シリアと聞いてすぐさま思い浮かぶのは、いつか見たニュース映像や記事で触れるような、内戦や難民のこと、ジャーナリストの身に起こった凄惨なことなど、きな臭いどころかまさに実弾の飛び交う世界のイメージ。

中東出身の知人は多少いるものの、彼らはシリア難民ではないし、戦争のようなセンシティブな話で意見交換をできるような関係性でもない。
なので、私はシリアに関してほぼ完全に無知なんだぞと認識した上で臨んでみました。

その前に。その国のこと、人や文化も全く知らないところの文学を初めて読むというのが久々の経験だったのだけど、これってもし逆の立場だったらどうだろう、と考えてみる。
日本のことを全く知らない外国人が、初めて日本の作家の本を読んでみる場合。
「おおなるほど、これが日本か」と、それぞれの読者の頭の中に広がる日本像や日本人像は、読む作家さんによっても相当違うはず。例えば山田詠美さんの小説の世界観と、司馬遼太郎さんの小説のそれなんて、もはや異文化・異空間でしょう笑。

そもそも、1冊の本を読んだところでその国や人のことがわかる、なんてのは幻想なのであって。そこら辺は、変に先入観を持たないように気をつけよう、と前もって心構えをしておいたつもり、なんだけど。。。


寓話の連続する不思議な本だった

相変わらずろくにあらすじも読まずに突入したところ、社会風刺やメタファーをふんだんに含んだ寓話の短編集である前半と、ちょっとだけ長めのお話の後半の二部構成でした。初っ端から、突飛な設定や予想のつかない人々の行動があまりに想定外すぎて戸惑い。

一体どこまでがシリアでの一般的な社会通念で、どこからが風刺やメタファーなのか分からなかったり、物語で何を表現したかったのかすら読み取れない話も多かったり。いつか解決するのかしら?と戸惑いながら読み進めているうちに、分からないまま終わってしまいました(苦笑)。何ならタイトルの意味も読了してもわからん(いやほんと何なのこれ)。

作家プロフィールとあとがきから察せられる内情

でもこれら、あとがきを読んである程度腑に落ちました。どうやら、表現の自由が少なく、言論統制もあるシリア国内で、社会風刺や批判的な発信をすることは例え小説でも許されないとのこと。著者はシリア出身作家の中ではかなり有名な方らしいけれど(ごめんなさい存じ上げなかった)、シリア国内での作家活動が難しくなりイギリスに移住されているとのことで、それって実質、亡命みたいなものよね。

つまり、体制や社会批判・風刺になるような核心に迫ろうとすればするほど、メタファーが増していくことになるわけで。それを私みたいな門外漢がいきなり読んでも混乱するだけだったわけだよなぁ、と。

多様性って、なんだろね

作中、どうしてもいち女性として読むからか、女性の扱いが酷い場面が多い印象を持ちました。「女性の人権って、聞いたことある?」ってもし話しかけてみたとしたら、一笑に付されるどころか怒って斬りつけて来そうな男性登場人物もたくさん出てきました。これが一体どこまでメタファーなのか…さすがに盛ってるところも多いんじゃない?とも思う、というか信じたいけれど。

昨今の現実世界のニュースでも、ヒジャブの被り方がきちんとしてなくてけしからんって殺された女性とか、駆け落ちしようとした女性が親族によって名誉のために殺されたとか、女性は運転禁止とか、学校に行かせてもらえないとか…。日本に入ってくる情報は、センセーショナルなものがやっぱり目立つ。

日本だってまだまだ構造的な男尊女卑が根深い社会なんだけれども、何と言うか、日本国内で知り得る中東(シリアを含む)の男尊女卑感って、レベル違いというか土俵違いというか、女性の身の危険どころか命の危険度合いが段違いな感じは、する。

でも、少なくとも私が知っているイスラム圏出身のご家族たちは夫婦仲きょうだい仲も良さそうだし、お互いを尊重し合っている様子も窺える。(こういう話の時に、イスラム圏ってたくさんあるのにひとまとめにしちゃうのも良くないと思うものの。)
試しにちょっとシリアの街が内戦でメチャクチャになる前の写真をググってみても、とても美しい景色がたくさん出てきて、楽しそうな人たちが写っているわけです。

こういう本と、こういう多面的な現実とのギャップの実態は一体何なのか、私には判別が付かない。

ということは、ほんの1冊本を読んだところで、シリアのことも、その他のイスラム圏(国や地域によってもそのキャラクターは全然違うよね)のことも、私はやっぱり全然分かってないんだな、と改めて思うわけです。当たり前なんだけど。

私はサッカーに1ミリも興味がないのでワールドカップのこともほとんど知らずにスルーしてたけど、ヨーロッパ各国はカタール開催についてボイコット状態だったようですね。主に移民労働者への人権侵害についてだったみたいだけれど、セクシャル・マイノリティーへの人権侵害や、女性への人権侵害にも抗議、みたいに発展した動きもあったそうで。

でも、もしも相撲のワールドカップが突然開催されたとしたら、日本で正式な(?)力士には男性しかなれなくて、土俵の上に立つのも男性しか許されないことは、人権侵害だ!ってことで欧米諸国から言語道断でボイコットされるんだろうか。
男性限定の力士や土俵が良いか悪いかは置いといて。そういう決まりに辿り着いた歴史や文化としての認識を理解した上での批判や改革でなく、いきなりボイコットされるのは、それはそれで複雑な気持ちになる気もする。

やっぱりまずは、知らないってことを知ることだ

ええと…風呂敷を広げすぎて話の着地点がどんどん見えなくなって困っているのですが(誰か助けて笑)。今回何気なくこの本を読んでみたことで改めて認識したのは、馴染みのない国や文化について、その国に行ったこともそこ出身の人と接したこともないまま、分かった気になるのはやっぱりダメだよな、ということでした。

結論がどこだか全然わからないけれど、むしろ書けば書くほど迷子になっちゃったけど、そうやって曲がりなりにも考えていくことって、大切な気がするんです。

面白い!という感覚は全く無かったけれど(ごめんなさい)、久々にこんなに頭の中がぐるぐるするきっかけになったという意味では、良い本だったかと思います。
内戦のように素人が現地入りするには明らかな危険が回避できるのであれば、いつかシリアも含め訪れて自分の目で見てみたいです。

乱文にお付き合いくださった方、ありがとうございました!(おじぎ)

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