正道のカルボナーラ
今夜の晩ごはん、カルボナーラ。適当な大きさに切ったブロックベーコンとにんにくのみじん切りを、弱火でじっくり炒めて油と香りを引き出す。強めの塩加減でパスタを茹で、その間にボウルにたまごを割りほぐし、粉チーズを思うさま振り入れてよく混ぜ合わせておく。パスタがアルデンテまでもうひと息、というタイミングで小房に切り分けたブロッコリーを投入し、ここからスピード勝負!パスタがアルデンテになったところで引き上げ、にんにくベーコンのフライパンに茹で汁少量と共に投入。全体をぐるぐるかき回して火を止め、すかさずたまごソースのボウルに移動させ、間髪入れず全体をごりごりとかき回し、たまごがトロリとなったところで皿に盛り付ける。仕上げに黒こしょうを振ってできあがり。
ちょっとアレンジしちゃいましたが、今夜は久しぶりのマンガ飯。鈴木小波さんの『ホクサイと飯さえあれば』3巻に登場する、「正道のカルボナーラ」を作ってみました。
美大に通う主人公・ブンちゃんが、大学の同級生(濃厚生クリームのカルボナーラを食べていた)に漫画家のアシスタントをしていることを話した際、「なんで美大入ったの?なんかさー、邪道ォ?」と揶揄されてブチ切れ、その怒りに任せて作った一品。カルボナーラの前にカラーボックスでキッチンカウンターを作るというDIYまでこなしているあたり、彼女の怒りの凄まじさがうかがえます。
カルボナーラと言えば生クリームが欠かせない、でも家でひとりぶん作るとなるとどうしても余ってしまう。レシピによってはたまごの卵黄のみを使いましょう、なんてことも謳われているもんだから、カルボナーラ後の冷蔵庫に生クリームのみならず、卵白まで余ることになる。その中途半端に余った食材の使い道に困るの不可避だったので(だって生クリームと卵白ですよ?どうしろと。お菓子作れない勢はそのまま飲むくらいしか思いつかねえよ)、自宅でカルボナーラ作ったことってなかった。
だから、このレシピにはソラモー胸が踊りましたね。これで勝つる!と。
というわけで、記憶の限りでは初めての自作カルボナーラ。たまごでコーティングされてとろみ感がついたパスタに、たっぷり使ったチーズとベーコンの旨みがしっかりまとわりついていて、とてもおいしい!パスタとベーコンのしょっぱさが、たまごでまろやかに中和されていて、ちょうどいい塩加減に仕上がっている。生クリームを使っていないせいか、お店で食べるものよりも口当たりは軽やかで、つるつるいける味。濃厚リッチなカルボ党の方には、ちょいと物足りないかもしれない……ですが、チーズのコクが程よいパンチを効かせているし、ブロックベーコンのゴロゴロ感も楽しめるので、あっさりしすぎというわけでもなく……ちょうどいいこってり具合という感じです。
作中のレシピにはブロッコリーは入らないのだけれど、野菜がにんにくしか摂れないのはいかがなものか……というお年頃なので、よしながふみさんの『きのう何食べた?』に登場するカルボナーラにならって飛び入り参加させてみた。ブロッコリーの甘みはベーコンの脂っけともチーズ味とも相性良好だし、ぽっくりした食感もうれしい。ピンク(ベーコン)と黄色(たまご)に緑みも加わるし……あっ!そらまめなんか入れて、少し甘口のスパークリングロゼワインなんぞを合わせたら、これはもう色合い的に「春のごちそうパスタ」と呼んでも何ら差し支えないのではないか……?来年の春は絶対作りたい(ので、忘れないようにここに記録しておきます)。ごちそうさまでした。
作中ではブンちゃんが「生クリームの入ったカルボナーラなど邪道ォォオオオ!!!!!!」と大ゴマで吠えているけれど、実際どっちが正道なのかなー。伊丹十三さんの『女たちよ!』に出てくるカルボにも、生クリームは入っていなかったっけ。やっぱ邪道なのかな、生クリーム入りは。
いやしかしだ、伊太利のみなさまはどっちが正道とか、あんま気にしてなさそう。おいしければ何でもヨシ!って言ってくれそうなイメージです。完全に個人的偏見ですが。
『ホクサイと飯さえあれば』は、飯テロまんがとして最近自分の本棚に加えたばかり。毎回出てくる料理はどれもたまらなくおいしそうで、作りたくてうずうずしている。鈴木小波さんの力強いタッチで描かれる個性派揃いのキャラクターたちも、とても魅力的。料理上手だけどちょっぴりコミュ障のケがあるブンちゃんが、おいしそうなごはんを通して周囲の人たちと親交を深めていく様子は、読んでいて非常に和む。そして、なにげにぐっと来る名言もあちこちに登場する。
4巻のあるエピソードでは、日本橋で鰹節店を営むブンちゃんの母方の祖父母が登場する。ブンちゃんが進級課題として制作した大作に触発されて、店番をほっぽりだして絵画に没頭するおじいちゃん。このおじいちゃん、お料理もするし自分の娘(ブンちゃんのお母さん)のために七段の雛飾りを作ったりするし、何かを作ることが大好きな人。そんなおじいちゃんに、ブンちゃんは「自分の将来の方向性がまだ見えてこない」という悩みを打ち明け、こんな風に尋ねるのです。
「ジジはなんで絵描きにならなかったの」と。
これに対し、おじいちゃんはニカッと笑ってこう答える。
「ここ日本橋はさ、五つの街道の出発点なのよ。でもさ、どっかの街道に決めちゃうことはねーよ。日光行く途中で、京都を目指したっていーんだよ。だからジジもそうしてんの」
「ジジは絵描きだよ。それに鰹節店の店主だし。おひなさま作っちゃうし、料理もするよ」
「いくつになっても、どこにでも行けんのよ」
全9巻にわたるストーリーの中でも、特に心に残っている場面です。自分もババと呼ばれる歳になっても、こういう気持ちを持ち続けていたいな。