強がりはよせよ・・・は弱い自分を自覚しているから・・・
世迷言
怜子
浅い眠り・・・
小生は自衛隊を退官する際
総員の見送り・・・800名の在職者うち
手を離せない当直員などのほか
ほとんどの隊員が見送りしてくれる
壮大なセレモニーで
「自分の好きな曲を選んで良い」
という制度に乗っかって・・・
さんざん迷いに迷って・・・
「ヘッドライトテールライト」
を選びました。
現職自衛官ではなくなるのは誕生日の午前0時です。
退職儀式の瞬間
本当は「元海上自衛官」です。
およそ200メートルほどに並んだ同僚や後輩・上司が
整列している前を・・・花束をもらって
指揮官へ敬礼したあと・・・進みはじめると
「ヘッドライトテールライト」が
ちょうどよい音量で流れ始めます。
短い曲だと・・・
終端まで到達する前に終わってしまうので
一曲が長めの中島みゆきの楽曲は
定年退官行事の音楽として利用する方が若干おられます。
小官程度の木端でも・・・握手を求めてくれる人
すこしだけ涙目になって・・・多分演技ですが
その中を音楽に合わせて・・・静々と進んでいくうちに
不覚ながら少しだけ涙腺が緩み・・・敬礼しながら進んでいるので
拭き取れない水分が左の目じりから・・・・最初で最後の体験です。
海上自衛隊は帽振れという儀式で
定年退官や満期除隊・転勤者などを見送る
風習があり・・・過去17回転勤している
小官は・・・何度も何度も様々な職場から見送られ
たくさんの同僚を見送りました。
見送った中には・・・・
不慮の事故で亡くなった
棺もあります。
小官程度の
誰のお役にも立てなかった・・・普通の自衛官には
三十三年間の在職中に一度の紛争や戦争も起きず・・・
「災害派遣以外は自衛官の本務としてお役に立つ瞬間がなかった」
その思いが・・・平和な日本が続いている証です。
役立てないことが誇らしいというのは
不思議な感情です。
災害派遣では不覚にも
悲しくて情けなくて・・・
阪神大震災で・・・まだ20代の若造だった小官は
思わず涙がコボレました。
「そんな姿を被災者に見せてはいけない」
と先輩に叱責され・・・激励されました。
弱っちい自衛官なんて国民は当然望みません。
そして・・・
サリンにしろ地震や津波の現場へ立っても
動ぜず・・・・それが自衛官の外見の姿です。
小官は船の火災で半分死にかかって
なんとか生きながらえましたが
自分の状況が意外と冷静に見えたことは
「自分が強くなったからではなく・・・
弱い自分を認識し・・・弱さと向き合って・・・
怖れから逃げ出さない信念だけは失わなかったから・・・」
だと思います。
まったくもってきれいごとです。
どなたにも理解を求めません・・・恥ずかしいだけです。
小官の本質は「弱い」まま幾分も変化がありません。
「弱い自分でもたくさんの仲間やつらい訓練を経て・・・
何とかなる!」
その確信が・・・・
本当に弱いまま現役を終えた小官を
支えた心柱だと思います。
ヘッドライトテールライトが八割がた終了し
整列の後端へ到達したあと。
くるっと踵を返して回れ右すると・・・
音楽は鳴りやみ・・・
庁舎の車寄せにおられる指揮官へ
挙手の敬礼をすると・・・
号令官が
「帽振れーーー!」と
掛け声をかけます。
参列者が一斉に右手に帽子をもって
大きく頭の上で帽子を回すと
小官も同様に二回大きく帽子を振り・・・
深々と大きくお辞儀をすると
また目じりから漏水が発生しました。
定年退官は人生初の出来事で
今まで千人近く見送った最後に
自分の番が回ってきただけ・・・です。
ホットして・・・無事でよかったと心底思いました。
同年同月同日に入隊した200名近い同期の
半分以上は途中で消えました。
様々な理由の中には病死や自死なども含まれます。
しかし同期には殉職者がおりません。
それが平和であったという証です。
小生が一番好きな中島みゆきの曲は
「強がりはよせよ」です。
理由は不明です。
昨日の記事で👇
白井梅さまから
コメントをいただき・・・・
強がりの小生の旅はまだ終わっていない・・・
と認識をあたらにしました。
弱さは幾分も解消していないからです・・・
弱いからこそ・・・
無事に自衛官の職務を終えて・・・
「お役に立てなかった」という
安堵した自分を思い出しました。
多くの後輩諸官の皆様は
日本やアジア・世界の平和のために
「日本をきちんと守っている」存在として
日夜勤務に励んでおります。
災害派遣や民生協力・・・雪まつりの雪像製作など
でお役に立つ存在で・・・・あって
もうひとつの「侵略者との対峙」
という場面ではお役に立つ機会が起きないことを
心底願います。
「有事に備え訓練は怠りない」それは自衛隊の使命ですが
「有事が起きて・・・自衛隊が出動する」
その場面でお役に立つ機会は永久に訪れないことが
自衛隊が日本に存在する意義です。
自衛官のイメージは
「好戦的で強い人間」なのかもしれませんが・・・
小官も含め好戦的な人間はほとんどおらず
多くの自衛官は
「自分の様々な弱さと向き合い克服しようと努力する者」です。
自衛隊が沖縄に駐屯すると
戦争を誘発する
と考える方がおられるのは
日本が自由な社会だから仕方がないのですが・・・
戦争は起きて欲しくないと必死に願い
そのために備えを怠らない・・・・
そしてそれを語らない無口な自衛官が
「自由な日本の社会を守るために・・・」
毎日・いざという時のために訓練を続けています。