【ファジサポ日誌】129.特殊な戦い~第33節 ファジアーノ岡山 vs V・ファーレン長崎 マッチレビュー~
土曜日の国立開催、清水-横浜FCはその雰囲気、試合内容共に素晴らしかった。まさに首位攻防戦の名にふさわしいゲームであったと思う。
この試合がドローに終わったことによって、2位横浜FC(勝点71)と4位岡山(勝点52)の差は19ポイントに拡大。仮に岡山がこの長崎戦に勝利したとしても勝点差は16ポイントには縮まるが、残り5試合での逆転は不可能(全勝でプラス15ポイント)となり、岡山のJ1自動昇格の可能性は完全に断たれた。
岡山としては対外的にも明確にプレーオフ進出、そして突破が目標となった。そんな状況での3位長崎戦、長崎とも既に8ポイントの勝点差があるが、長崎を2勝差圏内に捉えられるかのシックスポイントマッチであったこと、一方でプレーオフ圏を猛追する千葉や山形から確実に逃げるためには、勝点3をねらった勝負と、最低でも勝点1は得なくてはならないリスク管理の双方がチームには求められていたと思う。
振り返ります。
1.試合結果&メンバー
1-0、78分CKからCF(99)ルカオがヘッドで決めた1点を守り切り、2試合ぶりの勝利を掴みました。中断明けからなかなか得点を奪えず、調子が上向きとなっても持続できない岡山ですが、例年苦手としている終盤戦の成績として括ると、第29節以降のラスト10試合のうち前半戦を3勝1分1敗で乗り切ったことになります。
プレーオフのボーダーラインも気になる時期になってきました。
現在勝点50、8位いわきまでの最近5試合の勝点積み上げペースをみてみます。
(※左から今節終了時順位、チーム名、最近5試合の勝点、ラスト5試合を同ペースで積み上げた場合の最終勝点、今後の対戦相手)
4位 岡山 10ポイント 勝点65 甲府 いわき 横浜 藤枝 鹿児島
5位 仙台 8ポイント 勝点63 秋田 横浜 愛媛 熊本 大分
6位 千葉 12ポイント 勝点64 群馬 甲府 藤枝 長崎 山形
7位 山形 12ポイント 勝点63 山口 清水 熊本 水戸 千葉
8位 いわき 7ポイント 勝点57 藤枝 岡山 水戸 清水 群馬
まず、各チームとも残り5試合を全勝するイメージは、対戦相手を踏まえても湧きづらいと感じています(願うこととは別)。強いてその勢いを感じるのが、絶対エース小森飛絢を擁する千葉なのですが、最終節で山形との直接対決(山形ホーム)を控えている点が大きなポイントになりそうです。計算上は勝点63が妥当と思えますが、若干これより低くなる可能性も想像しています。
勝点63と仮定した場合、岡山は3勝、または2勝2分といった星勘定が成り立ちますが、相手はどこもクセモノ揃いです。これまでも、どのチームと対戦しても楽なゲームはなかったのですが…。
本題に戻します。メンバーです。
CF(22)一美和成、RWB(88)柳貴博は前節に続き欠場しました。
よって3トップは前節と同じメンバーですが、RWBには久々に(15)本山遥が入りました。
この起用意図は明確であったと思います。
相手によって柔軟に戦い方を変えてくる面もある長崎ですが、連勝している最近2試合はLSB(23)米田隼也の推進力を活かしたボール運びに特徴がみられました(SPORTERIAより)。
元々パスワークにこだわらないチームではありますが、この2試合では実際のボール運びも左サイドに奥行きを取る形が多く、今節も同様に攻撃してくる可能性が高かったといえます。
よって、スピードがあり、後方の広範なスペースのカバーが可能な(15)本山に手当てをさせたかったのだと思います。
そして、CHの一角も(14)田部井涼から(7)竹内涼に代えてきました。(14)田部井のコンディション面の問題もあったのかもしれませんが、彼のプレースキックを捨ててでも(7)竹内を起用する戦術的意図はあったように思えましたので、後ほど考えてみたいと思います。
(14)田部井がベンチから外れたことでCHの控えには(6)輪笠祐士が久々に入りました。
長崎はパスネットワーク図からもわかるように、CF(9)ファンマ・デルガドが2試合ぶりに先発出場しました。長崎のCFといえば(11)エジガル・ジュニオもいますが、第27節(8/17)を最後に1ヶ月以上欠場が続いています。
2.レビュー
攻勢、守勢の色分けという部分では、他の試合ではあまり見られない程、岡山攻勢の時間が続きました。
長崎はワンチャンスを確実に決める力を持っており、試合内容に関わらず勝点を稼いできましたので、守勢の時間がいくら長くても関係ないようにも思えるのですが、ここで前回のアウェイ対戦時の「分布図」をみてみます。
雨天の中、岡山が長崎の猛攻をひたすら跳ね返したことで印象に残っているサポーターも多いと思います。
いくらワンチャンスを決め切る長崎とはいえ、きっちりと攻撃が機能している時は「赤色」の攻勢の時間が5~10分と続く訳です。
そう考えますと、今節の岡山は対長崎という面において、前回対戦時よりも一定の進歩を遂げたと評価しても良いのではないでしょうか。
では、その進歩について具体的にみていきます。
(1)左サイドの封鎖
最近の傾向どおり、序盤の長崎はGK(21)若原智哉のゴールキックから岡山陣内左サイドに当てたボールをLSB(23)米田を中心に回収させ岡山を押し込もうとしますが、この(23)米田に対して(15)本山が激しいチャージで応酬、まず長崎のねらいであったと思われる左サイド(岡山右サイド)への展開に対して強く牽制します。
更に岡山の攻撃時には(99)ルカオが前節水戸戦よりも、同サイドに流れる回数が序盤より多くなっており、この動きが長崎の左からの攻略を消極的なものにしていたといえます。
図で表すと以下のようなイメージになります。
まず(23)米田を(15)本山が封鎖する(①)。そして奪った岡山ボールは右サイドに流れる(99)ルカオへ渡る(②)。(99)ルカオを警戒して(23)米田も前に出て行きにくくなるという関係性です。
この際に外せないポイントは(99)ルカオが長崎CB(5)田中隼人を引き出していることです。(5)田中が引き出されることで、岡山RST(39)早川隼平とLST(19)岩渕弘人へは、それぞれCB(4)ヴァウドとRSB(44)青木義孝がスライドして対応します。
こうなると岡山LWB(17)末吉塁の前方には広いスペースが出来る訳です。序盤、この(17)末吉の突破を中心とした岡山の攻勢は、このような基本構造から生まれていたと考えます。
もちろん、長崎も左サイドの手当てを行おうとするのですが、岡山の(15)本山の起用や(99)ルカオの流れ方が計算外であったのかもしれません。岡山左サイドからの攻撃の手当てを誰が中心で行うのか曖昧になっていたとように見えました。
(2)長崎ボールの誘導
今度は長崎保持時の最終ラインからのボールの動かし方に対する岡山の動きをみてみます。これも岡山のやり方が嵌っていたといえます。
(22)一美不在ということで、岡山前線からのプレスがどうなるのか、この試合の注目点の一つでした。
そこで岡山は(99)ルカオの守備時の役割を限定的にしていたと思います。それは長崎のアンカー(17)秋野央樹を背中で消すというよりはマンマークのような形で消したことです。
こうなるとGKと両CBの3枚から始まる長崎のビルドアップに対して、岡山はシャドーの2枚で対応しなくてはいけなくなるのですが、長崎の最終ラインでのパス交換が比較的近い距離で行われていたこともあり、主に(39)早川が(5)田中と(21)若原の双方にしっかりしたプレッシャーを掛けられていました。またこのプレッシャーも内を切りながらなので、自ずと長崎ボールは自陣に位置取るSBへと出されます。
ここに岡山のWBが思い切ってチャージに行っており、その裏のスペースを狙う長崎はSBが岡山のWBを直接剥がすというよりは、内のレーンへ下りてきたIHやシャドー、右サイドで言えば(7)マルコス.ギレリュメや(6)マテウス.ジョズスに出し、岡山のWBの裏のスペースを彼らのドリブルや一気の裏抜けで突こうとしていました。
長崎の前節までのドリブル指数は64.17と圧倒的1位なのですが、(FootballLABより)SBがあまり高い位置を取らないのは、おそらく相手のサイドプレーヤーを引き出して、裏にドリブルスペースをつくるためと思われます。
この長崎のねらいに素早く対応出来ていたのが、(7)竹内と(24)藤田息吹の岡山両CHで、これも激しいチャージからボール奪取に成功、岡山の長崎陣内での回収に繋がっていたといえます。
実はメンバーの項目で述べました(7)竹内の起用はこの守備を徹底させるためであったと考えます。
(17)末吉がサイドを攻め上がる際に(14)田部井はボックス近くまでサポートに入ります。そうした左サイドの攻撃関与が(14)田部井の特長であり、本人もそれをセールスポイントにしています。
しかし、長崎が相手となると、岡山が攻撃を完結出来ず切り替えた際に、前述したような守備面でのサポートが遅れる可能性があります。
そこで今節は(7)竹内を起用して、左サイドの攻略は(17)末吉とLCB(43)鈴木喜丈に任せ、(7)竹内の攻撃関与は後方支援に止めさせて、長崎カウンターに備えて中盤寄りのポジションをキープさせていたのだと思うのです。
この項目についてもう少し補足すると、岡山前線からのプレスにより(21)若原のゴールキックのコントロールを狂わせていた点も岡山優勢の流れをつくる上で大きかったと思います。
そして、(99)ルカオが稀に前へプレスに行き、(17)秋野にボールを通された時は、数は少なかったですが長崎は攻撃を完結できていました。
通常は、アンカーを消されてたらIH、長崎の(35)安部大晴や(7)M.ギリェルメが下りて受けそうなものなのですが、前半はほとんどそのような動きはなかったと思います(後半は(35)安部が下りるシーンも)。
長崎にとっては攻撃に備えてポジションをキープすることが重視されていると感じました。
(3)岡山の攻勢キープ
一方、岡山の攻勢に関してもそのキープが続いた理由がありました。
長崎は非保持時に4-4-2のミドルブロックを敷いていましたが、(9)ファンマと(6)M.ジェズスの前線2枚がほぼ守備をしていないので、岡山の最終ライン3枚は容易く長崎の第一ラインを突破出来ていました。
まず、これが大きかったと思います。
そこからRCB(4)阿部海大や(43)鈴木喜丈はいつものように、ドリブル、パス交換で前進。そしてCB(18)田上大地はヨルディ・バイスを彷彿とさせる対角線フィードを決めるのでした。
ということで、岡山のロストはほとんどが長崎ボックス内、またその周辺に限定された訳です。ここまで極端な傾向も珍しいと感じました。
(4)決め切るためには…
こうなりますと、岡山は決め切るだけになるのですが、もうご存知のようにこれがなかなか出来ない。ゴールまであと1mを決め切れないのです。
少し前と比べますと、ボックスの中の誰もいないエリアにボールが送られるというシーンは減ってきているという印象もあります。
徐々に攻撃の細部も改善される中、あとはシュートを対面の相手にぶつけない、足を振るスペースをつくるという工夫が必要となります。
本稿の最初で、千葉の話を少ししましたが、小森のゴールシーンをみていると彼に獲らせるために他のメンバーがお膳立てをした跡がみえるゴールも結構あります。今節は愛媛戦でしたが、勝ち越しゴールとなった2点目はこぼれ球をミート出来たことが良かったと思うのですが、周囲の選手が愛媛の最終ラインを引きつけて少しラインを下げさせている。そして少し後方に構えた小森に足を振るスペースが出来ていたの大きいと思いました。
岡山の場合、少しずつ改善はされていますが、ボックスに入る人数が重視されているので、みんなが同じようにゴール前で直線上に構えているシーンも多くみられます。それ自体が悪いことではなく、山口戦のルカオの2点目のような速い配球や、アーリークロスであれば効果的なのでしょうが、岡山はゴールに近い位置まで進入していくので、やはりそういうボールは少なくなります。それであれば、全員でゴールを奪うという考え方もいいのですが、やはり獲る人を決めてその人を如何にボックス内でフリーにするのかを考えたらいいのかなと、あくまで素人考えですが、そのように思うのです。
(5)決勝点からみえたこと
実はそういう考え方が少し見えた決勝点と感じたのですが、後半全体の入りから振り返ってみたいと思います。
最初岡山が長崎陣内に押し込みCKを獲得しますが、(39)早川のキックの精度が前半と比べると明らかに落ちます。先発した時は大体60分前後で交代している(39)早川ですが、前半に見せていたようなハイプレスをこなしながら、アイデアや精度を維持しながら攻撃に関与するという点が少し課題になっているようにも見えます。
しかし、これこそが本当の武者修行であると思います。まだまだシーズン中に成長しているところを魅せてくれると信じています。
長崎も49分にキーマンである(17)秋野のマークが外れたことから、彼を経由してLWG(19)澤田崇のシュートに繋がります。
その後、(99)ルカオがボックス内でオーバーヘッドパス、こぼれ球が岡山の決定機になる等、改めて試合が動きそうな雰囲気が出てきます。
岡山は項目(2)で述べました長崎SBへ誘導されたボールに対して、両WBが自重気味なポジションを取るようになります。試合の流れや各選手の運動量の低下、そして1点獲れれば勝てるが、獲れなくても最低スコアレスドローに持ち込むというリスク管理であったと感じました。
では勝点3を取ることに消極的であったかというとそうでもなく、前からのプレスを緩めることもなく、あくまでも高い位置での回収を目指していた振る舞いからも勝点3への意欲は失っていなかったように見えました。
ここで効いていたのが58分(39)早川に代わって投入された(33)神谷でした。
(33)神谷の守備、攻撃双方のスタッツですが、32分の出場でありながら、こぼれ球を2度奪取している、そして18本中14本のパスに成功していることからも岡山の長崎陣内でのプレー維持に大きな貢献をしていたことがわかります。
プレーエリアも独特で(39)早川がポジションを維持していたのに対して、(33)神谷は両サイドでプレーをしている時間が長かったことがわかります。おそらくこれは(99)ルカオに前半よりも中でプレーさせる意図があったからだと考えます。
こうした(33)神谷の働きをきっかけとして岡山は60分台から再び明確な攻勢へと転じます。(39)早川に代わりプレースキックも担当しますが、(39)早川と比べると球速は落ちるものの、いわゆる相手が嫌がるエリアへ蹴るキックは徐々に岡山の得点への薫りへと変わっていくのです。
ゴール期待値の変化からも(33)神谷投入の効果はみてとれます。
そして78分、ついに待望の先制点が決まります。
ここまでニアも含めて様々なコースに蹴る、ショートコーナーを入れると工夫をしていた岡山でしたが、長崎(4)ヴァウドを中心に悉く跳ね返されていました。そこで(43)鈴木と(33)神谷の相談があったようです。
(43)鈴木がニアで触った分、長崎のCBも反応できませんでしたね。長崎守備陣の視野から消えるポジション取りも光りました。
ゴールを決めるって誰かが囮にならなくてはならない、そういう事なのだと思いました。素人考えですが、これは流れの中でも同じなのかもしれません。
3.まとめ
試合前の高校生ダンスイベント、GATE9での応援練習など、サポーターも含めた一丸となった取り組みが決勝ゴールをねじ込んだ力になったのかもしれない、長崎スタジアムシティには負けるかもしれないが、Cスタにもそれには負けない結集力がある。そしてその結集力が呼び込んだ勝利であったと思います。
戦術的には、今回これだけ長崎のことを書いたように、相手をみながらサッカーをしていた岡山の姿があり、その点は心強かったと思いました。
一方で、今回の長崎は少々特殊であったとも思いました。
これが今の長崎の2位とも離れている、しかし4位とも離れていたという微妙な立ち位置、つまりコンディション維持が大前提となったサッカーであったのかなとも思えるのです。
例えば、(11)E.ジュニオが居ればまた異なる展開になっていたとも思いますし、そういう意味ではアウェイで対戦した時の長崎の方が真の姿に近いと筆者は感じています。
もし今節が仮の長崎の姿であったなら、そのチームから1点しか獲れなかったことはまだまだ課題ですし、再戦した時は今度のようにはいかないでしょう。
岡山としては4バック、両サイドバックが上がるビルドアップを行う長崎との相性が良かったという面もあり、今後3バックのチームと対戦する際はまた今回とは異なるプレス方法も検討しなくてはなりません。
いずれにしましても、この1勝がプレーオフ戦線に大きな意味をもたらしたことは間違いなさそうです。
※敬称略
【自己紹介】雉球応援人(きじたまおうえんびと)
地元のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。
鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。