【向日葵は枯れていない!】26.ギラヴァンツ北九州 マッチレビュー ~第26節 vs 福島ユナイテッドFC ~
前節奈良戦のレビューで、今節からの3連戦(福島・今治・大宮)がギラヴァンツ北九州にとっての最初のヤマ場になると述べました。
なぜ、現在プレーオフ圏外の福島戦から?と思われるかもしれません。
その理由は前回のホーム戦での対戦レビューでも少々述べたのですが、今シーズンの福島のサッカーの水準が非常に高いとみているからなのです。
では、なぜそんなに水準が高いのに今の順位なのかというと、そこにも理由があると考えられる訳ですが、その点は本題ではないので、今回は触れません。
ギラヴァンツ北九州は、残念ながら5月3日YS横浜戦以来、14戦ぶりの敗戦を喫してしまいましたが、大事なのはこの敗戦から何を糧にしていくかです。
幸いにも次はホーム戦(今治戦)です。
チームもサポーターも既に前を向いているように見えます。
当然サッカー(リーグ戦)は1試合ごとに対戦相手が変わりますので、この福島戦の反省をそのまま今後に当てはめる訳にはいきませんが、今後のギラヴァンツを占う上で整理しておきたいポイントもいくつか見つかった試合でした。
振り返ります。
1.試合結果&メンバー
正直なところ、試合内容については完敗であったと感じました。
しかし、福島に均衡を破られる88分まで我慢した点は今シーズンの北九州らしい堅守を見せられたと思いますし、上手くいかないなりにゴールを奪うチャンスもつくれていました。
北九州としては、主導権を握る戦いを取り戻す修正、悪いなりに勝点を積み上げられる試合運びに向けての修正が求められます。
メンバーです。
福島は5,000人チャンレンジの集客試合で、限定ユニを着用しました。よって北九州は1stユニの着用となりました。
先発メンバーに関しては、最近は固定されています。
現段階でのベストメンバーということでしょう。
毎節変化があるのはリザーブのアタッカーの人選で、今節はMF(20)矢田旭、МF(30)高橋隆大、FW(9)平山駿の3人の組み合わせになりました。
この3枠に関しては、チーム内競争を促す意図により、増本監督も様々な選手にチャンスを与えているものと解釈していますが、裏を返せばどの選手も決め手に欠けるという現状なのかもしれません。
J1札幌から移籍加入、中断明けの前々節富山戦で早速デビューを果たし、ゴールの匂いを漂わせたFW(16)大森真吾は2試合続けてのメンバー外となりました。
福島はシステムこそ4-1-2-3と変わりませんが、前回2か月前のホームでの対戦時と比較しますと、先発メンバーでは5人が入れ替わっています。
この間、キャプテンを務めていたCB(4)堂鼻起暉がJ2いわきに引き抜かれました。一方でRSBはJ1新潟から加入した(15)森璃太が入りました。全体的に繋ぎを意識している点がよく伝わってくるメンバー構成です。
ホーム対戦時のレビューを貼っておきます。
今回のレビューとオーバーラップしながらお読みいただくと面白いかもしれません。
2.レビュー
(1)前進できない北九州
書き出しで上手くいかない試合と述べましたが、最も上手くいかなかったと感じましたのが、北九州の攻撃の生命線ともいえるサイドバックの前進、特にRSB(22)山脇樺織を封じられた点にあったと思います。
この点に触れる大前提として、最近の北九州の相手ペナルティエリア内への進入傾向を確認したいと思います。右サイドの進入起点が12、他クラブと比べましても顕著な傾向が出ているといえます。最近はチームとして意図してRSB(22)山脇樺織を高い位置に押し上げているようにみえます。
(22)山脇の中断明け2戦のヒートマップを見てみましょう。
中断明けの2戦は自陣でも比較的高い位置を取れていますし、敵陣内でのプレー頻度の高さも窺えます。
これが福島戦では、若干緑色の濃い部分の割合が自陣寄りであり、攻撃の起点となる黄色のポイントが自陣内に多く、福島陣内ではPAから遠ざけられていることがわかります。筆者はもっと自陣に緑色が偏ると予想していましたが、これは少々意外でした。(22)山脇自身は劣勢の中でも結構健闘していたのかもしれません。
もう少しデータをみてみます。
同じくSPORTERIAより「パスネットワーク図」です。
これも中断明けの富山戦から今節の福島戦までの3戦を並べてみました。
注目していただきたいのは、やはり(22)山脇の立ち位置です。福島戦は富山戦や奈良戦と比べると相手陣内へ進入出来ている時間帯が少ないといえます。
なお、福島戦の後半30分以降は(22)山脇が極端に高い位置を取っていますが、これは後半33分にRSH(29)高昇辰に代わりRCB(23)坂本翔を投入し3バック化、(22)山脇を意図して前に押し出したからです。増本監督もやはり(22)山脇に高い位置を取らせたかったということでしょう。
では、(22)山脇が高い位置を取れなかった原因は何であったのか?
実はシンプルな理由であったと思います。
対面の福島LSB(28)鈴直樹の圧に屈したからと考えます。
福島(28)鈴のヒートマップと福島のパスネットワーク図です。
4バックのサイドバックである(28)鈴がまるで攻撃的なWBのように北九州陣内で高い位置を取り続けていることがわかります。
福島はおそらく(22)山脇を最初から封じるため「ガチンコ勝負」を挑んできたといえるのです。
今の北九州にとって(22)山脇の前進不能(オーバーな表現ですが)はチーム全体の攻撃停滞を現すといっても過言ではありません。
以前のレビューでも取り上げましたが(22)山脇が高い位置を取る目的のひとつは、(22)山脇へのパスラインを相手に消させて、逆に最終ラインからRSH(29)高昇辰への縦の道筋をつくることにあります。
福島はアンカーシステムを採用、自ずとアンカー脇にはスペースが出来ますので、北九州の前進とは相性が良い筈なのです。
しかし、福島の(28)鈴は直線的に北九州陣内の(22)山脇に強烈なプレッシャーをかけると、CB(50)杉山耕二にボールを戻させます。すると(22)山脇のチェックはLWG(10)森晃大に任せ、自身は(50)杉山からの縦パスを受ける(29)高昇辰へ、アンカー(30)加藤匠人らと挟み込むようにプレッシャーをかけるのです。
北九州の右サイドからの前進は、表現が悪いかもしれませんが、(28)鈴の「番犬」のようなチェックに封じられていたといえます。
では、強みである右サイドからの前進を封じられた北九州が成す術もなかったのかというと、そういう訳でもなく、特にCH(6)藤原健介が最終ラインからボールを引き取った後は、右がダメなら左と、アンカーの左脇に良いタイミングで入り込んでくるLSH(21)牛之濱拓へスルーパスを通すなど、左サイドへの展開、そしてCF(10)永井龍やOMF(17)岡野凛平らのリターンにより前進を図っていました。福島の攻撃と比べると散発ではありましたが、福島陣内でのセットプレーも含めて効果的なシュートを放つ場面もありました。
34分(6)藤原のグラウンダーのFKから放った(50)杉山のシュートは福島GK(1)吉丸絢梓の逆を突きましたが、動き直した(1)吉丸に辛うじてセーブされました。たらればになりますが、苦しいながらも先制出来ていれば、またこの試合も異なる展開になっていたかもしれません。
北九州の対処法として、左サイドからつくっていくやり方は間違っていなかったと思いますが、もうひとつ、(28)鈴が飛び出してきた裏のスペースにロングボールを入れて、(29)高昇辰や(17)岡野を走らせるというやり方もあったかもしれません。この点は今後右サイドを封じられた時に、どのように攻撃方法の幅を広げていくのか注目したいと思います。
それでも前半の北九州にとって、福島に押し込まれる展開はGK(27)田中悠也のビッグセーブ連発に助けられたとはいえ、想定の範囲内であったと思います。そして、この(28)鈴の動きに代表されるように、福島の各選手は前半から飛ばしていました。ホームでの対戦もそうでしたし、その後の試合でも福島には後半の運動量低下から劣勢に陥る試合がありました。
北九州にとっては勝負は後半であったと思います。
しかし、この日の福島は違いました。結論から述べますと後半も落ちませんでした。サッカーなのでいわゆる「相手待ち」も立派な戦術であり、北九州の戦い方が誤っていたとは思えませんが、この点は大きな誤算であったといえます。
北九州が満員チャレンジに挑んだ富山戦と同様、この日の福島は観客数新記録を狙った5,000人チャレンジデーでした。やはり、こういうイベントは選手を発奮させるものであり、普段以上のエネルギーを出させるのではないかと福島の選手たちのプレーぶりを見て感じました。
そして、福島は長距離移動があったものの、先週の讃岐戦が試合前に中止なっていたことも見逃せません。この夏場1試合やるのとやらないのとでは大違いであると思います。偶然かもしれませんが、今節では讃岐も岩手相手に非常に良い内容で勝利しました。前節の順延がコンディション面で福島に与えた影響はあったと思います。
一方、北九州はおそらく台風の影響も考慮した移動であったと推察します。
おそらく、監督も選手もそれを言い訳にはしないと思いますが、この試合に関してはコンディション面も大きく影響したと考えます。
(2)前進を許した北九州
もう一点、この試合で見逃せなかったポイントは福島のビルドアップに対して、北九州が十分制限を掛けられなかった点にあったと思います。
福島のビルドアップのモデルです。
両SBは高い位置を取るので、GK(1)吉丸と2CBの3枚に対して、北九州は(10)永井、(29)高昇辰、(21)牛之濱、または(17)岡野の3枚で、福島のアンカーと両IHを消す算段であったと思います。
しかし、この試合では予想以上にLIH(14)大関友翔が最終ラインまで下りてきて、積極的にビルドアップの起点になっていました。
(14)大関が下りたことで北九州とは4対3の数的有利を得られます。
北九州の前線3人はあえてなのか、この福島の最終ラインにプレスをあまり仕掛けませんでした。数的不利なので無理をしなかったのか、それとも疑似カウンター的な動きと感じたのか、この点は少々不明ですが、プレスにいかなかったことで、結果的に(14)大関から精度の高いパスが何本も北九州陣内に通されてしまいました。
この前線からの守備が上手くいかなかったことも敗因の一つと考えます。
それにしましても、(28)鈴だけではなく、この(14)大関の奮迅ぶりも目立ちました。
福島の決勝ゴールのシーンですが、(14)大関のボックス内への進入から始まり、ボックス内で2度も細かくショートパスを繋がれると、いくら最後が堅い北九州の守備とはいえ、持ち堪えることが出来ませんでした。
このチャンスメイクした(14)大関がビルドアップからゴール前まで中央の全ての局面で効果的なプレーを魅せていたことは脅威ともいえます。
91本のパスに対して81本の成功、それでいてラストパス4本、ヒートマップは自陣寄りという、なかなかJ3ではお目にかかれないスタッツ、データであったと思います。対戦相手ながら見事であったと思います。
3.まとめ
以上、福島戦をまとめました。
今回は福島を褒める記載が多くなったのですが、それだけ福島のデキ(北九州の良さを消す戦術、後半落ちない運動量)が素晴らしかったと思います。
北九州としては上手くいかないなりのサッカーは見せれていた面もあり、最終盤に先制点を奪われた後も諦めず、決定機をつくった粘りなどは評価したいところですが、やはり更に良いチームに成長するためにこういうチームにハードワークで負けないことや、攻撃のバリエーションを増やしていく点などについては、これからで良いので徐々に身につけてほしいと思います。
北九州が徐々に(6)藤原のチームになっているのと同様、福島は(14)大関のチームになっていると感じた一戦でした。チームのスタイルが深化していくと同時にキーマンの存在感も自然と増していくものなのかもしれません。
次節は今治です。どうでしょうか?相手の良さを消すというよりは、自分たちの良さを出してくるチームのようにも思えます。
前線からの守備をもう一度しっかり整理したいところです。
今回もお読みいただきありがとうございました!
※敬称略
【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
岡山のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。
北九州大学(現:北九州市立大学)法学部出身
北九州は第二の故郷ということもあり、今シーズンからギラヴァンツ北九州もミニレビュー作成という形で追いかける。
鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。