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【向日葵は枯れていない!】32.ギラヴァンツ北九州 マッチレビュー ~第32節 vs ヴァンラーレ八戸 ~

初夏~盛夏にかけての13戦無敗から3連敗を喫したものの、ホーム岐阜戦で連敗をストップ、その後アウェイ岩手戦が敗戦、前節の相模原戦は快勝と再び波に乗れるかどうかの「際」にいる最近のギラヴァンツといえます。
残り試合も意識せざるを得なくなるシーズン終盤、チームの再加速をホンモノにするためにも「連勝」を達成したい今節であったと思います。
そういう意味では非常に痛い敗戦です。

振り返ります。

1.試合結果&メンバー

前半ビハインドとなったことで、勢いをもって試合に入りたかった後半開始早々に痛恨の2失点目を献上、北九州は戦術的にもメンタル的にも反撃体制を十分とれないまま、更に3失点目を喫し、完敗しました。

終始、八戸の良さが目立ちましたが、スコア、内容共に八戸は今シーズンベストゲームであったといえます。
八戸のシュートは14本に達しましたが、そのうちCKはたったの2本でした。いかにシュートを完結させたかが伝わってきます。

メンバーです。

J3第32節 北九州-八戸 メンバー

北九州は前節相模原戦と同じスタメンを組んできました。
サブメンバーもMF(8)若谷拓海がMF(30)高橋隆大に代わったのみとなりました。
「良い時はスタメンをいじるな」とはよく言われます。

また、八戸は3-1-4-2(非保持時5-3-2)で前節の相模原と同じシステムであったことが北九州のシステム、メンバー継続の理由のひとつであったのではないかと推察します。
その八戸も前節沼津戦(1-0)からスタメンに変化はありませんでした。

2.レビュー

多くのサポーターが感じてらっしゃるように八戸のハイプレスにやられた一戦です。ここで少し今シーズンの八戸の特長をおさらいしたいと思います。

今シーズンの八戸の攻撃が他チームと比べても突出したショートカウンターによって支えられていることがわかります(FootballLABより)。
当然、ショートカウンターの回数を増やすには敵陣でのボール奪取が必須となります。そこで八戸は前に人数を割くシステムを採用していますし、相手のパスコースを切って獲り切るプレスを遂行しているのです。

一方で、八戸のシュート決定率は8.5%(17位)と低くなっています(ちなみに北九州は8.2%)。シュート数が401本(8位)ということを踏まえると、決定力に課題があるともいえますし、シュートを数多く撃つことで得点力を確保しているともいえます。

八戸は今シーズン、対戦相手に関わらず「自分たちのサッカー」を展開していることから、今節も同様にねらいがはっきり出たサッカーを行っていたように見えました。

一方で北九州もこうした八戸の傾向は当然把握していた筈です。
ではなぜ八戸のハイプレス戦術に屈してしまったのか考えてみたいと思います。

序盤の北九州は八戸のプレスに対して自陣で無理に繋ごうとはせず、前線にロングボールを蹴り出しプレスを回避していました。ねらいは八戸陣内でセカンドを回収、ゴールへ迫るというものです。

しかし、この序盤から攻守において八戸の出足が北九州を明らかに上回りました。ロングボールからのセカンドを回収できない北九州は、少しずつ自陣から運ぶことで、相手陣内へ進入しようとしますが、ミドルゾーンから先へのパスの出し所がなく、後方へ戻すシーンが目立ち始めます。
ここを八戸に狙われます。

8分50秒、八戸の最初の決定機となったLWB(61)安藤由翔のヘディングシュートに至った場面(プロセス)をみてみます。

まずは北九州が後方にボールを戻した8分20秒の場面からみていきます。

J3第32節 北九州-八戸 8分20秒~

試合全体の流れが八戸に傾いた大きなシーンであったと考えます。

北九州自陣左サイドLSB(33)乾貴哉のスローインから浮き球のパスを自陣中央に下りたCF(10)永井龍が落として、北九州が右に展開、ハーフウェイ付近で八戸のハンドがとられ、FKからCH(34)高吉正真がRSB(23)坂本翔にパスを出した場面です。

まず、みていただきたいのが八戸の守備態勢です。
前述しましたように八戸は、出来るだけ相手陣内でボールを奪いたいと考えていますから、北九州陣内にボールを留め置きたい訳です。
よって、八戸陣内進入の動き、特にボールサイドにはしっかり人数を割いて、かつ浅いラインを敷いていることがわかります。

北九州としては(23)坂本にパスを出した(34)高吉がもっと積極的に前方スペースへ飛び出し(赤字)、味方と連携してこのハイラインを突破出来れば一気に北九州のチャンスになる場面でしたが、数的不利の状況、開始まもない時間帯を考えると、この局面で無理をする必要はなく、後方へボールを戻した判断自体は妥当なものと考えます。

この場面には北九州のゲームプランもみてとれました。
八戸が浅いラインを敷いているのに対して、北九州のCB(50)杉山耕二、(13)工藤孝太は低めにラインを設定しています。
また(23)坂本に戻すよう指示を出しているように見えるCH(14)井澤春輝は自身もパスを受けられる状況のようにみえましたが、後方に戻した後の逆サイドへの展開とそのカバーに備えた移動を開始していました。

北九州は、八戸の守備の特長を踏まえた上で、少なくとも前半は八戸を引き込みセーフティに裏をとるねらいであったことが見えてきます。

しかし、計算外であったのが後方に戻した後の北九州の展開でした。
GK(31)大谷幸輝から(13)工藤がパスを受けた段階で、LSH(17)岡野凛平は裏に抜けようとします。

しかし、(13)工藤がロングフィードを蹴る体制に入る前に八戸RCB(19)加藤慎太郎のプレスが迫ってきたことから縦へのグラウンダーのパスに切り替えたのだと思います。この状況を(17)岡野も瞬時に察知し、自陣に戻るのですが、一度裏抜けの動きを入れていた分、戻りが遅れ、八戸のハイプレスに掛かってしまったのです。
こうした状況を計算に入れていた(14)井澤のカバー、(33)乾のサポートもあり、北九州は再びマイボールにしますが、今度は中央へ出したボールを八戸に奪われ、ドリブルから右に展開RWB(18)音泉翔眞のクロスに繋がったのでした。

試合全体を通じて、北九州の2CBは本当はもっと八戸の裏にフィードしたかったのだと思います。そのために奥行きをとっている訳ですが、その奥行きをとる前に八戸のハイプレスに襲いかかられてしまったというのが真相であると思います。
また相手のCBである(19)加藤の積極的に前に出てくる動きに戸惑った面もあったのかもしれません。
この後も北九州は(19)加藤の「偽サイドCB」的動きに翻弄されます。

また、この後のクロスを上げられる場面に関しては(17)岡野の守備対応にも脆さがあったように見えました。やはり左サイドでは見える景色が異なるのか、足の使い方も逆になるのか、守備対応時のぎこちなさは否定できませんでした。
総合的には右サイドから中央で使うべき選手という印象も改めて持ちました。

おそらく八戸に「やれる」という自信を与えてしまったシーンでした。この後、北九州には自陣でリスクが高い繋ぎを選択する場面が増えてしまうのですが、これも八戸のプレスを受け切れず、取り敢えず近い位置にいる選手にパスを出していたというのが真相かもしれません。

八戸戦のボールロスト位置(SPORTERIAより)。敵陣のみならず自陣右サイド、中央寄りでも多くなっていることからも、八戸のハイプレスに苦戦した様子がわかる。

それでも前半をスコアレスで折り返せれば、終盤の失点が多い八戸の傾向を踏まえても、北九州に勝機はあったと思います。
しかし、この前半で我慢ができませんでした。

J3第32節 北九州-八戸

28分、八戸にPKを献上した場面です。
ボックス内八戸の3枚に対して、北九州は(33)乾を外に出して(14)井澤がカバーする4-2ブロックを形成出来ています。

陣形は間違っていないと思います。
しかし、ここも(17)岡野があっさり1対1で抜かれてしまい、ワンツーでボックス内への進入を許してしまいました。仕組みは簡単なのですが(33)乾の反応も少し遅れてしまいました。

これも攻撃時に最終ラインのRCB(19)加藤まで使ってボールサイドに人数を掛けたことがPK奪取に繋がった場面といえます。そして改めて、北九州の選手たちの反応の鈍さも感じました。やはり疲労の色を感じます。

それでもGK(31)大谷幸輝は八戸CF(11)佐々木快のキックを体には当てましたが、無情にもそのままゴールイン。正直なところツキもないと思いました。

攻撃時に一気に人数をかけて攻めてくる。
特に前述しました八戸(19)加藤の攻め上がりは北九州にとって脅威となります。

この勝負を決定づけた3点目は、八戸が自陣からロングボールを送って北九州陣内に押し込んでいる間に(19)加藤が最終ラインからスルスルとボックス内にまで進入していたのです。
2点差の状況でこのような攻撃をする必要性は全くないのですが、これを行うということは攻撃時には3CBのうち1人は上がっていく約束事が八戸にあるということなのでしょう。このゴール場面で(33)乾の対応からも北九州の選手たちは、開始早々の2失点目でかなりショックを受けていた様子が伝わってきました。

映像開始の45分58秒の画面左下LWB(61)安藤が左サイドに張って(23)坂本を引き出し、そのスペースを埋められないままLIH(9)永田一真に使われたところで勝負ありでした。

幅を使った八戸のシンプルながら効果的な攻撃でしたが、前半、八戸のサイドからの進入に甘さを見せた北九州が、後半サイドにしっかり人を出してくることを見込んでいたかのような八戸のゴールでした。
4バックの相手に対して5レーンのギャップをしっかり使うお手本のような攻撃で、ここまで鮮やかに決められてしまうと、北九州としては打つ手なしとの印象も少々持ってしまいます。

しかし、各局面をみますと北九州各選手の寄せの甘さ、スライドの遅さ、1対1での間合いの悪さは感じます。前節の相模原戦ではみられなかった部分で、繰り返しになりますが、やはりこのシーンからも北九州の各選手のコンディションの悪さも感じてしまいます。

後半の北九州のゲームプランは明確であったと思います。速攻を狙える時は八戸3CBの脇を狙う、八戸が5-3-2ブロックをつくった時は中盤脇のスペースを使うことであったと思います。
そうすることで八戸の最終ラインを下げさせ、ボックス内に良質のクロスを供給することにあったと思います。

八戸GK(1)飯田雅浩のファインセーブに防がれましたが、58分の(17)岡野の決定機はそうした北九州の立て直しが実りかけた場面でした。
しかし、この後のCKもそうなのですが、北九州は八戸の最終ラインの高さ、強さを終始上回ることは出来ませんでした。
これはMF(6)藤原健介を投入後も変わることはありませんでした。

3.まとめ

以上、八戸戦をまとめました。
北九州としては辛い試合展開になってしまいました。

しかし、敗因は明確です。
まず、相模原戦と比べて見た目にも各選手のコンディションが悪かったと思います。
そして相手のプレスをいなす技術もさることながら、奥行きをとるパスを含めて、パススピードや選手のスライド等のポジションチェンジが遅かったことも、八戸のハイプレスを誘発した要因と考えます。この点についてはコンディションの回復によりある程度修正できると推測します。
また、スタメン修正の必要性を感じました。

(17)岡野がポイントになった試合と個人的には感じましたが、やはり彼は右か中央、そしてLSHにはMF21)牛之濱拓の先発がしっくりくるように思いました。

相手の裏を突くなど大きな展開を正確に行うという点では(6)藤原健介の力も最初から必要です。
そしてRSB(22)山脇樺織の復帰も待たれます。今節のように5レーンをしっかり使ってくるチームに対しては、途中からでも3バックに変更しマッチアップ体制に持ち込む必要性もありそうです。彼がいればそうしたシステム変更も可能になります。

全体的なゲームプラン自体は間違ってなかったと感じました。ただそれを発揮できる状況になかったのだと思います。状態の悪さによりトランジションで後れをとったことから、リスクを掛けて攻めてくる相手を受けきれなかった。そのリスクを十分に突けなかったということでしょう。

八戸に関しては、メンバーからも石崎監督が富山時代にやりたかったサッカーの完成形と感じました。富山では戦術浸透に時間が掛かり、途中解任されてしまいましたが、今の八戸は志垣前監督が指揮していた頃からハイプレス指向であったこと、そしてじっくり種を蒔ける環境にあったことが、最近の好調に繋がっていると思いました。

プレーオフで再戦する可能性はあると思います。
この悔しさを忘れないようにしたいものです。

今回もお読みいただきありがとうございました!

※敬称略

【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
岡山のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。

JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。

2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。

北九州大学(現:北九州市立大学)法学部出身
北九州は第二の故郷ということもあり、今シーズンからギラヴァンツ北九州もミニレビュー作成という形で追いかける。

鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。

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