【ファジサポ日誌】97.「変化」と「進化」の応酬~第4節 藤枝MYFC vs ファジアーノ岡山 マッチレビュー~
人、モノの移動が激しくなる3月後半に突入。思い思いに藤枝遠征に向かうファジサポさんたちの投稿がTLに流れ続けます。
昨シーズン、藤枝との対戦はアウェイ、ホーム共に苦いものでした。
「立ち位置の優位性」で勝負する藤枝に対して、「個で殴りにいきたい」岡山は殴れそうな距離に顔を出すものの、拳を突き上げた時にはもうそこにはいない藤枝に翻弄されました。
そして新シーズンの再戦。藤枝も岡山も、細部はともかく基本的なスタイル(システムのことではない)には変化がない序盤戦といえます。勝点の積み上げで差はついていますが、岡山としてはやはり簡単な相手ではありません。
お互い対策も進んでいると予想される中で、いかに昨シーズンからの変化と進化がこの試合を動かしたのか?
早速振り返りたいと思います。
1.試合結果&スタートメンバー
このXの投稿に全体的な感想のほとんどが詰まっているのですが、運ぶ・走る・戦うなどのサッカーの様々な要素に対して、両チームの選手が全力で取り組む素晴らしいゲームであったと思います。
一見バタバタしていた雰囲気もあったのですが、それは両リームの攻守の切り替えの速さによるものであったと感じました。速い中にも、随所に細部へのこだわりも詰まっていたように見えました。
また、イングランドから来日中のフィユー・ジェームス主審の判定やゲームコントロールはこの試合の「速さ」を損ねず、かつ一般観戦者にも分かりやすいもので、このゲームの価値を更に高めたものといえます。
何が良かったのか、観察した感想を以下に貼っておきます。
続いてメンバーです。
「超攻撃サッカー」を標榜する藤枝にとって、リーグ戦開幕から3戦勝利なしという結果もさることながら、開幕からノーゴールが続いている現状を打破したいと窺えるスタメン変更でした。
最大のポイントはRCBにRWBでの起用が多かった(22)久富良輔を起用してきたことでした。
藤枝のビルドアップはGKと2CBの3枚でスタートします。RCBはサイド高めに開き、RWBを高い位置に押し上げます。
藤枝の過去3戦を簡単に振り返ったところ、この開いたCBのところで捕まる、または有効なボールを出せずというシーンが散見されました。そこでこのRCBに本職CBではなく、より機動力が高い選手を配置することで、ビルドアップの出口を設けようとするねらいが感じとれたのです。
またLWBには加入2年目(昨シーズンは特別指定)の(24)永田貫太を抜擢してきました。藤枝の背番号「24」、そうです、昨シーズンの藤枝の看板「両翼」の一角を担った久保藤次郎(名古屋)の後輩なのです。
試合前の須藤監督のコメントでも(24)永田に対する高い期待が伝わってきます。
一方ベンチには両翼のもう一角MF(10)榎本啓吾が入ります。おそらく後半(24)永田と交代するプランと予想されましたが、そのタイミングはおそらく試合展開がオープンな状況、岡山としては彼が入るまでにはリードを奪っておきたいと思わせるメンバー構成でした。
岡山は出場停止のCB(18)田上大地が戻ってきました。DF(5)柳育崇は再びベンチで出番を待ちます。ここまで出場していない選手のコンディションアップも伝えられていますが、連戦の初戦、まずは今のメンバーで今のやり方でというところでしょう。岡山の点線は守備時ですが、この試合では両WBが明確に5バックを形成していました。ただし、藤枝がサイドでボールを持つと、ボールサイドのWBが前に出て最終ラインは4枚になる形であったと思います。
2.レビュー
全体的には試合時間が進むに連れて藤枝が攻勢を強めていったのですが、岡山もワンチャンスで決定機はつくれており、それが藤枝の「赤色」や「桃色」が連続しない理由になっています。シュートや決定機の数が多くなっていますが、お互い攻め切った、かつゴール前でしっかり守ったことを表しています。
(1)躍動した藤枝の右サイドと岡山の決定機逸
結果がついてこないチームとの対戦で苦戦する原因の一つに、相手がその原因に何らかの対策を施してくることが考えられます。
藤枝の序盤3戦における苦戦の原因は、前述しましたとおりビルドアップの最初で詰まるところにあったと考えられます。そこで藤枝はビルドアップの出口をつくるべく、右サイドをテコ入れしてきました。
前半藤枝のこの策が当たります。
8分はRWB(19)シマブク・カズヨシが中央に切り込み、逆サイドの(24)永田へ。須藤監督期待のフィニッシュに繋げます。これは右で(22)久富が持ち上がろうとしたことにより(19)シマブクが中に入っていけたことによるものです。
更に29分のシーンを振り返りたいと思います。
藤枝が中盤からGK(35)内山圭に戻し、ビルドアップをやり直します。
岡山は藤枝の右サイドで獲り切る構えです。
岡山の想定どおり、藤枝右サイド(22)久富にボールが出て、LWB(17)末吉塁が厳しくプレスにいきますが、(22)久富はサイド際にパスを通し(19)シマブクとのワンツーで1レーン内に侵入します。ここには岡山CH(24)藤田息吹が後方からプレッシャーをかけ、(17)末吉もプレスバックしますが及ばず、ボールは藤枝シャドー(14)中川風希へ。
一気に中央に侵入しミドルシュートを放ちました。
岡山のプレスが決して甘くはなかったと思うのですが、(22)久富の技術の高さと(19)シマブクとの関係性の良さが光ったシーンでした。
この藤枝右サイドが特に前半、岡山としては厄介でした。岡山が藤枝右サイドに人数を割くと、逆サイドの(24)永田に出されてしまいます。
開幕戦のレビューでは岡山の横幅圧縮の話を少ししましたが、このようにピッチを広く使われると一気に後手に回ってしまうという弱点は抱えています。
SPORTERIAさんのパスネットワーク図でも前半藤枝の「右肩上がり」の様子がよく伝わってきます。
一方で岡山が前半優勢であったのは中央の攻防でした。ここは両CH(24)藤田と(14)田部井涼が藤枝両CHに対して勝てていたこともありますし、岡山の中盤の構成が流動的で藤枝が捕まえにくかったという点も影響しています。
それでは前述藤枝の29分のチャンスの前、28分の岡山の決定機に繋がったシーンを振り返ります。
この28~29分の攻防は非常に印象に残りました。
図が非常にごちゃごちゃしているのですが、これも岡山の中盤、中央での優位性を示しています。
岡山の保持時です。
LCB(43)鈴木喜丈が「喜丈ロール未遂」の末、中央でボールを持ったところから最終的に岡山が決定機を迎える流れです。
注目していただきたいのが、岡山のパス回しです。10秒程度の間にCF(9)グレイソンに収まるまで都合7本のパスが回っています。
このパス回しに関与しているのが(43)鈴木→(4)阿部→(88)柳(貴)→(27)木村→(18)田上→(4)阿部→(27)木村→(9)グレイソンの6人になるのですが、この間ボランチの2人(24)藤田と(14)田部井がボールに触っていないのです。
中盤でのパス回しながら、ボランチにボールが入らない。この点は藤枝の中盤での守りにくさに繋がっていたと思います。そしてこれだけ時間をかける目的は、自分たちの時間をつくることと(9)グレイソンに良い形でボールを預けることにあると思います。このような意図した保持を藤枝相手に出来るようになったのが、今シーズンの岡山の進化の一つであり、昨シーズンからの継続性であるのです。ミラーゲームと一部で言われていたこの試合に岡山が提示した「進化」と「変化」であったといえます。
もちろん、これだけの密集地帯でボールを保持していますと被カウンターのリスクも生じるのですが、この点については(24)藤田のオフザボールの動きが藤枝を引きつけ、味方のパスコースをつくっていました。密集ながらより安全なパス回しが可能となっていたのです。
更にこの場面、パスを受けた(9)グレイソンは藤枝の3人に囲まれますが、ここに至るまでの時間で準備が出来ているので難なくボールを収めるのです。3人に囲まれるのであれば「四方のうち一方向」には出口が出来ると言わんばかりに、左で控える(17)末吉にパスを出します。
この(17)末吉のクロスが裏に抜けたシャドー(19)岩渕弘人に合えばという場面でしたが、スライディングで防いだのも(22)久富でした。
今の岡山の3トップにおいて、シャドーの大きな役割の一つはまさに「ストライカー」です。ここまで4戦、(19)岩渕と(27)木村の特に前半の決定機逸は岡山の課題の一つですし、今後解消されなければならないポイントといえます。
(19)岩渕に関しては印象に過ぎませんが、シュートコースの感覚を測っているような素振りは感じられますので、何となく時間の問題という気はしています。少なくとも何らかのイメージとねらいを持って足を振っているように見えますので、待望の移籍後初ゴールももう少しなのかなと思っています。(19)岩渕にしましても(27)木村にしましても、守備面やボールキープ面、(19)岩渕に関してはプレースキッカーとしての貢献も大きく、単純に他の選手に代えれば良いというものでもありません。
(2)後半劣勢の理由
前半の決定機、そして後半開始当初の決定機をモノに出来なかったことで、後半途中から藤枝攻勢、岡山守勢の恐れていた展開となってしまいましたが、この展開に至った要因として気になった出来事が別にありましたので、ここで挙げたいと思います。
それは後半開始早々45分、藤枝LCB(3)鈴木翔太の負傷退場です。
藤枝にとっては貴重なレフティの1人を失ったことになります。
交代で右利きの(4)中川創が入ったのですが、この交代がきっかけとなり藤枝のビルドアップに大きな変化が生じました。
藤枝のFPでもう1人のレフティであるCH(26)西矢健人が(3)鈴木のいた位置まで下りてきてビルドアップに関与するようになったのです。
この変化は前章で示しました「時間帯別パスネットワーク図」での(26)西矢の立ち位置の変化をご覧いただければわかりやすいと思います。
(26)西矢が低い位置から長めのフィードを左右に散らすことによって、岡山の前線のプレスを確実に回避、中盤中央で優勢に立っていた岡山のボール運びを無効化する効果があったと考えます。先制したかった岡山にとってはこの藤枝の「変化」は大きな誤算であったのではないでしょうか。
藤枝は63分満を持して(10)榎本を投入します。
投入後いきなり決定機をつくり、岡山としては昨シーズンのアウェイ戦で右サイドの攻略を許し連続失点した悪夢が甦ります。
(10)榎本と同時に投入されたMF(8)浅倉廉も(24)藤田や(41)田部井の運動量が落ちた中央を縦に推進。試合は一気に藤枝の攻勢となります。
この残り30分、岡山はGK(49)スベンド・ブローダーセンを中心に最後を「やらさない」守備を披露します。
開幕から4戦目、いよいよ(49)ブローダーセンの出番らしい出番がやってきたのです。この日の(49)ブローダーセンは前述しました藤枝(14)中川のミドルにも触っており、守備範囲の広さと反応の鋭さをみせていましたが、この押し込まれた場面では至近距離での反応、判断、相手フィニッシャーとの駆け引きでも鋭さをみせてくれました。もちろんDF陣も誰一人ボールウォッチャーになることなく、ボールへ人へ寄せることを怠らなかったのです。藤枝のフィニッシュが勢いのまま撃っている点にも助けられましたが、新シーズンの岡山の新たな進化を確認することが出来ました。
更に岡山に昨シーズンからの成長を感じたのは、劣勢ながらもマイボールになれば丁寧に繋ぎ保持することを心がけていた点です。
この試合でのブローダーセンのパス数は21本、前節山口戦が10本、同じように後半押し込まれたいわき戦は7本(退場者が出た影響はあったが)ですので、前々節からは3倍、前節からは約2倍に増加しています。
そして実に21本中20本が成功しています。このマイボールを簡単に放棄しない姿勢こそが、最後のゴールを呼び込んだきっかけになったのではないかと筆者は感じています。
(3)丁寧さを失わなかった決勝点
ハーフウェイライン付近まで持ち上がった(18)田上から(43)鈴木が「喜丈ロール」を発動します。ここまで述べてきましたように、藤枝の右サイドの攻勢により、岡山の左サイドの攻撃は(17)末吉の単騎で完結する場面も多く、(43)鈴木の深い位置までの関与はあまり見られませんでした。その分、藤枝の各選手にとって(43)鈴木の動きは意表を突くものになったのかもしれません。特筆すべきは(43)鈴木から(9)グレイソンへの縦パス、そして(9)グレイソンの落としも非常に丁寧であったことです。(9)グレイソンに至っては(10)田中のシュートコースを空けるために必死でよけています。
心身共に疲労のピークを迎えているであろうゲーム最終盤において、このような丁寧な試合運びが出来るようになった点も大きな岡山の進化です。
この丁寧なお膳立てを(10)田中が勢いそのままに豪快に決めます。その後の(43)鈴木の「ダメ押し」にも気持ちが籠っていました。
3.まとめ
以上、藤枝戦を振り返りました。
押し込む藤枝、跳ね返す岡山という構図の中、お互いに地上戦において「変化」と「進化」を魅せながら攻防を繰り返した好ゲームであったと思います。
まさに「蹴球都市」藤枝にふさわしいゲームとなったような気もします。
この極上なエンターテイメント、もっと多くのサッカーファン、Jリーグファンに知ってほしいところです。
岡山としては、開幕から4戦の相手は全て下馬評が高かったチームではありません。しかし、各相手のその後の試合ぶり、各試合内容をみていましても、決して簡単な相手ではなかったことがわかります。
ある程度、自信を持ってもよいのではないでしょうか?
そして、次対戦する時は同じようには勝てないと思います。岡山の更なる進化にも期待します。
今回もお読みいただきありがとうございました!
※敬称略
【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
地元のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。
鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。