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【ファジサポ日誌】103.シンプルは単調に非ず~第10節 ブラウブリッツ秋田 vs ファジアーノ岡山 マッチレビュー~

昨シーズンは4月末GWに組まれたアウェイ秋田戦。
筆者は遠征しましたが、みちのくの遅い春を体感する旅から早や一年、時間の経過は早いものです。
昨年の試合も後半終了間際に得たPKをバイスが沈めての辛勝でした。
試合内容そのものは非常に渋いものであったと記憶しています。

今の木山監督のチームも含めて、歴代岡山のチームスタイルは比較的オーソドックスなつくりになる傾向はあり、攻撃にしろ守備にしろいわゆる「特化」したタイプのチームには苦戦してきた記憶があります。

言うまでもなく秋田もそんな特化型のチームであり、ましてや今シーズンはここまで好調でした。一方、岡山は最近2戦で1分1敗と低調傾向にあり、筆者は簡単な試合にはならないだろうと予想はしていました。

そういう意味では勝点1を積み上げられた点は収穫なのですが、この試合の結果によりJ1自動昇格に必要な勝点積み上げペースが1試合平均2を下回った点(19÷10=1.9)は押さえておかなくてはなりません。
つまりこの試合に関しては勝点3を得るためにはどうすれば良かったのか?を考える必要があるのです。

1.試合結果&メンバー

ということで、スコアレスドローとなりました。
筆者の感覚的な部分で述べますと、昨シーズンの秋田との対戦と比べて強度、スピードの両面で両チームともレベルアップしていたと思います。
岡山としては、秋田の決定力不足に助けられながらも最近2戦で5失点していた守備の改善はみられたと思いました。

続きましてメンバーです。

J2第10節 秋田-岡山 メンバー

この岡山のスタメンをみた時に、筆者はまず好感を持ちました。
CBに(5)柳育崇ではなく(18)田上大地を起用したこと、そしてCHの一角に(44)仙波大志を起用した点についてです。

つまりパワー勝負では一日の長がある秋田に対して、同じようにパワーで張り合うのではなく、ST(8)ガブリエル・シャビエルも含めて、技術とアイデアで違いを生み出せる人選であったからです。

メンバー全体を見渡しますとMF(6)輪笠祐士、(19)岩渕弘人と少しずつ怪我人が戻ってきた点もポジティブな材料です。
そしてこの試合ではサブGKにルーキー(21)川上康平が抜擢されました。練習を見学されているサポーターの間では好調が目立つとの感想もあり、これは実力によるメンバー抜擢と感じました。

2.レビュー

J2第10節 秋田-岡山 時間帯別攻勢・守勢分布図

岡山のメンバーに期待を抱きながらも、実際はゲーム全体を通して秋田の強い攻勢を受け続けることになりました。
この「時間帯別攻勢・守勢分布図」は、相手陣内のアタッキングサード(30mライン)にどれだけ有効に侵入出来たかを筆者が目視で確認、判断しているものです。
よって、秋田の攻勢(赤色)が目立っているということは、秋田が岡山陣内に放り込んだ後のボールを有効に保持出来ていたということを示しているのです。

(1)セカンドボールが生まれない

岡山の秋田戦スタッツリーダーです。
異変に気づかれましたか?
こぼれ球奪取数トップが、CH(24)藤田息吹ではなく(44)仙波なのです。(24)藤田の守備スタッツもみてみましょう(SPORTERIAさんより)。

普段であれば5~8回は記録するこぼれ球奪取数がわずか2回しかありませんでした。大きな異変といえます。
これまでの試合の(24)藤田のこぼれ球奪取のシチュエーションを思い出しますと、浮き球の落下点を瞬時に正確に予測し、足元に吸い付くように収める場面が印象的です。
一見、ロングボールを多用する秋田とは相性が良さそうに見えるのですが、こうした(24)藤田の強みのひとつがこの秋田戦では発揮されませんでした。

その原因は秋田がロングボールを前線の選手に当てるのではなく、岡山陣内のスペース、特に3バック脇やボックス内ポケットに送っていたことにあります。前線の選手にポストプレーをさせないので、岡山にはそもそも、セカンドボール回収の機会が訪れなかったのです。

このことはボールを奪取した(24)藤田を攻撃の起点(「起点」は曖昧で好きな言葉ではないのですが、この場合明確なので使います。)としていた岡山にとって、試合全体を通じて攻撃回数が限られた大きな要因にもなっているのです。

これもSPORTERIAさんから、秋田のエリア間パス図です。パスの矢印自体が浮かび上がらない秋田の傾向がよく現れていますが、その中において岡山3バック脇、サイドのスペースに送り込んだボールにCFが追いつき、後方のSHまたはSBと頻繁にパス交換している様子が想像できます。

この秋田のやり方自体は、これまでと何も変わらないのですが、今年に関しては、スペースに送り込むボールの精度とスペースに走り込む選手のスピード、走り込んだ選手がスペースでボールキープする技術が格段に上がっているようにみえました。

岡山もたまに前方の人ではなくスペースへボールを送り込みますが、たいていがゴールラインを割ってしまいます。難しい技術といえますが、秋田は徹底して特定の技術を磨いているといえます。

このシンプルな仕組みが機能したことにより秋田の攻勢がもたらされたのですが、岡山の選手にそれ程、慌てたり極端に苦しむ様子はみられませんでした。

試合全体を通してCKを取られ過ぎてはいましたが、これも相手DFが出てきたらあっさり当ててCKを獲る秋田の仕組みによるものですし、時折放たれる強烈なミドルに対してもFPがしっかりシュートコースを限定出来ていたように見えました。GK(49)スペンド・ブローダーセンの好セーブに助けられましたが、RCB(4)阿部海大など秋田のサッカーをよく知る選手たちの経験値も好影響であったのか、自陣への進入を許しながらも淡々と対応していた岡山の様子からこうした展開はある程度許容出来ていたともいえます。

また、秋田の攻撃が最終局面でファールとなる傾向も岡山の最終ラインに落ち着きをもたらしていたと思います。

岡山は前々節、前節とセットプレーで計4失点。連戦が途切れた今週はセットプレーの守備にかなりの時間を割いていたとの情報もありました。
CKに関しては若干マンマーク気味で、最近狙われ気味であったCF(9)グレイソンや途中出場の(99)ルカオらがしっかり跳ね返していた点は練習の成果といえます。

一方でFKに関しては、高い位置、ゾーンでの守りと仕組みは変わっておらず、24分秋田LSH(29)佐藤大樹にGK(49)ブローダーセンからファーに遠ざかるボールを送り込まれ、難なく折り返されます。秋田、CF(10)小松蓮の決定機逸に助けられましたが、FKの守備に関しては正直なところ不安は払拭できませんでした。

しかし、セットプレーのみではなく、岡山の守備全体の感度は非常に高かったといえます。このゲームにおいて失点は絶対に許さないという覚悟は伝わってきました。

しかし、この強すぎる「守備マインド」が勝ちにいくという点ではどのように作用したのか…。この点は後ほど触れます。

秋田の攻撃最終局面でファールが多かった、そしてフィニッシュの精度を欠いたことで、逆に岡山には多くのゴールキックがもたらされます。

次は岡山の自陣からの攻撃について振り返ります。

(2)シンプルは単調に非ず

岡山は試合開始当初からGK(49)ブローダーセンからのゴールキックで一気に秋田陣内への進出を試みていました。しかし、このキックと前線の(9)グレイソンやLST(29)齋藤恵太とは呼吸が合わず、また収められずマイボールをキープ出来ませんでした。
まずこの点が痛かったと思います。

ちなみに秋田のGK(31)圍謙太郎のゴールキックはサイド際の狭いスペースを狙ってしっかり残していました。これは見事な精度でした。

前線でボールが収まらないとみるや、岡山は20分過ぎから最終ラインからの繋ぎに方向転換します。
結論から述べてしまいますと、岡山は様々なボール運びが出来る点が強みのはずなのですが、試合展開をみながらボール運びの方法を選択する判断が非常に拙い、また各選手の認識の統一が徹底されていない点が大きな弱点であると考えます。
この試合、岡山はボールを保持できる優位さを自ら放棄してしまう戦いぶりに終始していたと思います。
それは最終ラインが、ボールを受けに動く(24)藤田や(44)仙波になかなかパスを出せなかったことからみてとれました。もちろん、この2人の背後には秋田の選手たちが狙いを定めてはいたのですが、逆に捉えるならボールを受けた岡山のボランチが、プレスを仕掛ける秋田の選手を剥がすことが出来れば、岡山のチャンスになる訳です。この勝負をまず岡山は放棄し、セーフティなパス回しに終始していたのです。勝点1は必然であったといえる訳です。
CB(18)田上にはそうした縦パス、地上戦の起点となる期待があった訳ですが、その(18)田上が組み立て面においては非常に消極的であったと思います。
おそらくその理由は明確で、前節愛媛戦でのパスミスが失点に繋がったこと、そして前述しましたチーム全体の強すぎる守備マインドが攻撃リスクをとる戦い方を岡山の選手から失わせていたのではないかと筆者は考えるのです。

この試合、攻撃に関しては秋田の横圧縮に対する反対サイドスペースの活用不足や、後半投入された(27)木村太哉や(19)岩渕弘人の働きなど論点は他にもあったのですが、そもそも岡山前半の攻撃面での消極的な振る舞いにより試合の大勢は決してしまったと思ったのです。

試合中、木山監督は攻撃面について「シンプルにと」いう指示を頻繁に送っていました。しかし、おそらく攻撃の方法について整理出来ていない、統一されていない岡山の選手たちが表現する攻撃は「シンプル」というよりは「単調」であったといえます。

対して秋田は岡山と比べますと出来ることに限りはあったと思います。しかし、その限られた方法を磨き突き詰め、選手全員で統一して戦っています。
この試合に関していえば、皮肉にも「シンプル」に戦ったいたのは秋田であったのです。

3.まとめ

今回は筆者としては珍しく辛口なレビューとなりましたが、今一度今シーズンのチームがどういうスタイルで臨むのか?いったん整理する必要はあると思いました。おそらく1-0で勝つチームを目指していた訳ではないと筆者は推測しています。2-1、3-2で勝ち切るチームを目指していたのではないでしょうか?
なんとなく今の岡山は1-0の勝ちの味を憶えてしまって、最小限のリスクで得点を奪おうとしているチームに見えるのです。

マインドの転換を求めます。

今回もお読みいただきありがとうございました!

※敬称略

【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
地元のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。

JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。

2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。

鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。


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