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【向日葵は枯れていない!】35.ギラヴァンツ北九州 マッチレビュー ~第35節 vs アスルクラロ沼津 ~

もぎ獲った1点、そこに至る過程を辿ると北九州は「勝利」を得るにふさわしい戦いが出来ていたと思います。
しかし、最後の最後で掴んでいた筈の勝点3が掌からこぼれてしまいました。

しかし、これもサッカーです。振り返ります。

1.試合結果&メンバー

北九州は、試合終盤87分にルーキーCF(18)渡邉颯太のリーグ戦初ゴールで均衡を破りますが、沼津もアディショナルタイム6分、ほぼラストプレーでCF(27)和田育が決め切り、痛み分けとなりました。

土壇場で勝点2を失った格好となった北九州でしたが、4試合ぶりの勝点を獲得、プレーオフ圏内との勝点差2という点を踏まえましても、チームは引き続き上を目指して戦える状況ですし、戦わなくてはならないと思います。

J3第35節 北九州-沼津 メンバー

メンバーです。

北九州は前節からの流れを反映したメンバー構成となりました。
注目されました出場停止CB(13)工藤孝太の代役は(24)前田紘基が務めることになりました。本来の序列であれば(4)長谷川光基なのでしょうが、メンバー外となっている点を踏まえますと、やはりコンディションに何らかの問題を抱えているものと思われます。

(24)前田は前々節FC大阪戦で3バックの一角として出場、最後は押し込まれてしまいましたが、慣れないポジションでの奮闘ぶりは伝わってくるものがありました。今節は4バックのCBになりますが、再びの健闘に期待が掛かります。

そして、RSB(22)山脇樺織が8試合ぶりの先発出場を果たしました。
右サイドからの推進力アップに期待がかかります。

沼津は前節からスタメン、サブ共に変更はありませんでした。
最近になりFW(20)川又堅碁が負傷離脱、負傷から復帰してきた選手もいますが、全体的な台所事情は苦しいように見えます。

2.レビュー

(1)静の沼津、動の北九州

全体的に沼津が動きをセーブした静かな前半であったと思います。

両チームの9~10月の成績を振り返りますと、北九州はご存知のとおり2勝0分6敗(9得点17失点)と急ブレーキが掛かってしまい、実は沼津も2勝2分4敗(6得点6失点)と低調なのです。

9月以降、下降線を辿っているチームは他にもあり、例えば自動昇格に向けて一時セーフティリードに入ったと思われていた2位今治は同期間3勝2分3敗(12得点10失点)と足踏み状態に入ってしまいました。

この3チームの共通項はハードワークが戦術の大前提にある点です。
夏場の消耗、蓄積疲労、9月以降も続く残暑などこうした外的要因が成績低下の一要因となっていることは、客観的にみても間違いないと考えています。

沼津は昨シーズンも9月以降に3勝10敗と大ブレーキが掛かってしまい、一時期自動昇格も狙えた順位は最終的に13位まで落ちてしまいました。

今シーズンの沼津も前述のように9月以降、勝点獲得ペースが落ちているのですが、最近は試合中に少々ペースを落としている時間帯があるように見えます。9月以降の各試合がロースコア勝負になっていることからもその様子が伝わってきます。

こうした沼津の抑え気味なボール運びに呼応して、北九州も自らハイプレス等のアクションを起こすというよりは、無駄な体力の消耗をセーブして、沼津が保持した際にはしっかり縦へのパスコースを消す、縦にボールを入れさせない守備をまず徹底していました。

19分16秒~の場面をみてみます。

J3第35節 北九州-沼津 19分16秒~

沼津は保持時にRSB(3)安在達弥が一列前に上がる3-4-3気味に可変します。これに対して北九州は4-4-2のブロックを形成しますが、SBを絞り気味に配置して、沼津最終ラインからの縦パスを徹底して通させない構えをつくっていました。

もちろんこうすると(3)安在やLIH(7)持井響太らがサイドで余るのですが、ここはLSH(29)高昇辰やRSH(17)岡野凛平がサイドのスペースに注意を払いながら縦コースを切っていました。

では、前半の北九州を「動」と表現するのはなぜなのか。
ボールを奪ってからの攻撃に積極性がみられたからです。

序盤から北九州は、シンプルながらボールを奪うと手数少なく(10)永井につけ、彼のポストプレーから決定機をつくっていました。

中が上手く通らないと踏んだ沼津は、北九州陣内ロストからの北九州のカウンターに警戒して、中を使わずに外周りのボール運び、またCF(9)中野誠也を狙ったロングボールを多用するよう変化します。

沼津としては前半そこまで無理しなくても良かったという側面がありますが、北九州としても沼津の攻撃を単純化したことでその対応が楽になった。その分、攻撃にエネルギーを割くことができたといったメリットは得られていたと思います。

前半、北九州の良かったと思えた攻撃を一つ採り上げます。

J3第35節 北九州-沼津 ~16分56秒

16分56秒、(17)岡野のヘディングシュートに繋がった場面です。
自陣右サイドで(14)井澤のパスを受けた(22)山脇がスピード豊かに前進、精度の高いグラウンダーのクロスで中央の(10)永井へ通します。
(10)永井の前には沼津の2CBが構えてシュートコースを消していますので、(10)永井がここで時間をつくります。それにしても相手CBと並走し、先に動きを止めるだけでプレースペースをつくってしまうこの(10)永井の動きは見事と思います。ここでドリブルを交えて時間をつくったことで(17)岡野がボックス内に入ってこれますし、LSH(29)高昇辰が中へ絞ったことで、(33)乾の攻め上がりも引き出しているのです。
よって(14)井澤がクロスを上げる段階ではボックスの中に4人がいる態勢をつくれています。
この前段階で(10)永井が単独でシュートを撃つよりも、得点の可能性が高まる攻撃を北九州は展開できているのです。

北九州にとって(10)永井や(6)藤原が攻撃の中心であることは間違いないのですが、彼らの個人能力に頼るのみでは今後のチームの成長はありません。そういう意味ではSHと彼らが中に入ることによってSBの攻め上がり促す分厚い攻撃を行えていることは、北九州にとって明るい兆しであると感じました。

今の北九州にとってはSHの役割が多岐にわたる分、彼らのデキも生命線であると改めて感じました。

一方でこのシーンの(10)永井のような「時間をつくる」動きは、まだ他のFWでは出来ないという面もあります。今後の若手FWの成長課題と感じます。

惜しむらくはこのシュートも含めました前半11本のシュートを1本も決められなかった点です。(10)永井にしても(6)藤原にしても、序盤からフィニッシュの感覚が少しズレているという印象は持っていました。
だからこそ、(17)岡野のシュートは貴重でしたし、よく撃ち切っているのですが、相手GKが上回りましたね。

(2)動の沼津、粘りの北九州

後半に入り50分過ぎから徐々に沼津のギアが上がってきます。
保持時に左サイドに張る(7)持井らが内に切れ込んでくる動きを北九州はなかなか捕まえられません。

しかし、沼津保持時に4-4-2ブロックを敷いた北九州は、沼津のパスワークに対して休むことなく先のパスコースを消す、ボールホルダーに対して数的有利をつくることを焦れずに徹底してやれていたと思います。
よく沼津を対策、準備されていたと思いますし、チームワークの良さも伝わってきました。ボールの奪いどころとしては、沼津が外から内へ入れた時点を狙っていたと思います。奪い切れれば縦へカウンターを開始できます。
妥当な設定であったと感じました。

前半、多くの決定機を決められなかったという点では、北九州の選手たちに悔いが残ってもおかしくなかったのですが、後半に向けてしっかり切り替えて試合に臨めていると思いました。

沼津は68分にLWG(19)齋藤学らを投入、勝負を決めにきます。
明らかに沼津の出力は上がりましたが、北九州が最初の交代を行う78分までの約10分間、北九州の右サイドの守備はよく頑張っていたと感じました。

北九州の交代が遅めになっているという点は筆者も少々感じるところもあるのですが、この試合の後半に関しては守備のバランスが良かったことから、なかなか代えづらかった面はあったような気がしました。
それと、中盤でハードワークできる交代要員が1人、これは人材として必要と最近は考えています。

北九州は78分に(6)藤原に代えて(20)矢田旭、(10)永井に代えて(18)渡邉をセットで投入します。増本監督もオープンな時間帯になるまで待っていたようには見えました。

83分には自陣左側でボールを奪った(20)矢田が自ら持ち運び、右サイドへパスを通し、北九州の連続CKに繋げます。

そして、このチームとしての粘りが先制点に繋がりました。

二次攻撃がしっかり設計されていたと思います。
CH(34)高吉正真のクロスも正確でしたし、CB(50)杉山耕二の位置どり、落としどころも沼津の盲点を突いていたと思います。
そして、(18)渡邉のこのスペースへ飛び込む勇気です。
彼の「売り」はこのスペースへ飛び込む感覚と勇気なのだと改めて思いました。春先のカップ戦で早々にゴールを奪ったことを考えると、リーグ戦初ゴールまで時間も掛かってしまいましたが、まずリーグ戦初ゴールが生まれて良かったと思います。自信になることでしょう。

沼津が対戦相手ということもありましたが、中山雅史の「ゴンゴール」を思い出していました。

GK(27)田中悠也のユニを差し出すゴール裏サポーター、それを鼻血を出しながら掲げる(18)渡邉、スタンドから応える(27)田中(と(4)長谷川)、この試合の勝利に向けてまさに「一体感」が伝わってきました。

だからこそ勝ちたかったのですが。

北九州のクロージングそのものは、そんなに悪くはなかったと思ったのですが、強いていうなら前線でキープできる人が欲しかったとは思いました。
(18)渡邉がなかなか止血できず、急遽(16)大森真吾を入れなくてはならなかった点は誤算であったと思います。

しかし、同点ゴールについては筆者は沼津を称えるべきと考えます。
通常あの場面は、最後はクロス、浮き球です。
GKも上がっていた訳ですからね。
そこを恐らく本能的にショートパスで繋いでいる訳ですが、中山体制の沼津がずっと取り組んできたサッカーの本質があの緊迫した局面で出るのだと思いました。見事でした。

3.まとめ

レビューで述べてきましたとおり、北九州は勝利に値するサッカーはしていたと思います。1週間のトレーニングも含めて、その手応えはおそらく選手たちにもあり、崩れ落ちた(6)藤原の姿がそれを象徴していたと思いました。惜しむらくは前半で決め切れなかった、この点に尽きます。

しかし、これはお世辞ではなく、客観的にトンネルの出口が見えた気もしました。次は讃岐戦ですが、前回の対戦とは全く異なるチームになっています。北九州の攻撃力であれば、裏は返せる筈なので先に失点しないこと、この点に注意して戦ってほしいと思います。

あくまでも5連勝を狙いましょう。

今回もお読みいただきありがとうございました!

※敬称略

【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
岡山のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。

JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。

2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。

北九州大学(現:北九州市立大学)法学部出身
北九州は第二の故郷ということもあり、今シーズンからギラヴァンツ北九州もミニレビュー作成という形で追いかける。

鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。

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