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【向日葵は枯れていない!】38.ギラヴァンツ北九州 マッチレビュー ~第38節(最終節) vs Y.S.C.C.横浜 ~

ギラヴァンツ北九州、このクラブを取り巻く熱意は選手の足をもう一歩動かす力を持っている。
アウェイ三ッ沢から伝わるチャント、声援は完全にホームのそれであったし、北九州のパブリックビューイングでは多くのサポーターが戦況を見守った。

プレーオフ進出の可能性は物理的には残されていた。
しかし、現実的な条件ではない。
この一週間、サポーターからは「オレ(ワタシ)たちは諦めが悪いから」といった言葉もよく聞かれた。「諦めない!」という強い決意表明も素晴らしいことであるが、「諦めが悪い」というフレーズから今シーズンの北九州の意地を見せてやる、見せてくれという前向きな意気込みを筆者は感じた。

60位からのスタート、JFLの動向を気にしなくてはならない昨シーズン終盤と比べると、今この位置にいることの有り難さ、もちろんこのチームの目標はもっと上にあるが、自分たちの勝負を楽しめる幸せを味わえた最終節であったといえる。

チームとしては、少しでも可能性が残されているなら、その可能性を信じる人がいるなら、諦めずに戦わなくてはならない。
現実とプロとしての義務の狭間、試合後の永井龍のインタビューからはこの試合に立ち向かう難しさがあったことを個人的には感じ取った。

しかし、チームは愚直に大量得点での勝利を目指して戦ってくれた。
リスペクトに値する。

今シーズン、散々流れを持ってこれなかったアディショナルタイム、またか…の先にあった劇的勝利はチームの戦いぶりに対するご褒美であったのだろうか。

振り返ります。

1.試合結果&メンバー

先制して追いつかれ、突き放しては追いつかれるというYS横浜との相性の悪さも感じさせるゲーム展開でしたが、諦めなかった北九州はラストプレーで勝ち越し、2戦ぶりの勝利を飾りました。

ATでの勝ち越し勝利は実に今シーズン初のことでした。
北九州は7位でシーズンをフィニッシュ、6位FC大阪と同じ15勝をマーク、結果的に勝点差が2であったことを考えると、直接対決での逆転負けが余計に悔やまれる訳ですが、昨シーズンが最下位であったことを考えると「復活」への足掛かりを掴んだシーズンであったといえそうです。
今後、主力メンバーの流出をどの程度抑えられるかもポイントになりそうですが、そのことは一旦置いておきましょう。

一方、YS横浜は前節で19位が確定、来週から始まるJFL2位高知との入れ替え戦に臨みます。

J3第38節 YS横浜-北九州 メンバー

メンバーです。

北九州では、前節途中で負傷交代したキャプテンCH(14)井澤春輝が欠場しました。これまでも怪我に泣かされてきた選手だけに負傷の状態が心配されます。

CHには(6)藤原健介が入り、OMFに(17)岡野凛平、RSHには(8)若谷拓海が入ります。(8)若谷は5/6第13節(岐阜戦)以来の先発です。

全体的なメンバー構成についても注目していましたが、(14)井澤を除いては、ほぼベストメンバーでの構成となりました。
サブメンバーもこちらも久々のメンバー入りとなったMF(30)髙橋隆大など攻撃型の選手が数多く入ります。

チームとしてはあくまでもプレーオフ進出のために大量得点を狙う姿勢を貫いたといえるでしょう。

YS横浜はチームトップ8得点をマークしていたLIH(39)奥村晃司が出場停止、(10)山本凌太郎が2試合ぶりに先発します。
また、前節からはLWBを(32)松村航希から(33)橋本陸門に入れ替えてきました。

初期配置は3-1-4-2、今シーズンJ3で目立ったフォーメーションのひとつと言えます。

2.レビュー

(1)大量得点を目指した先に~前半~

両チームともアグレッシブな立ち上がりとなりました。
1分、CB(13)工藤孝太の縦へのフィードに詰めたYS横浜CF(14)脇坂峻人がそのまま持ち運び、ニアへシュート、これはGK(1)伊藤剛が体に当てて防ぎます。

しかし、北九州は中盤でのセカンドボール回収で優位に立ち、(8)若谷や(6)藤原がPA内外から積極的にシュートを放ちますが、YS横浜のシュートブロックに阻まれます。

YS横浜の非保持時は主に両WBが下がる5-3-2のコンパクトなローブロックを敷いていました。
序盤のシュートブロックからも分かるとおり、北九州の積極的な出足を想定してボールサイドに人数を掛ける守りを重視していたように見えました。

北九州はこのコンパクトな陣形のライン間に積極的にボールを差し込む一方で、YS横浜の陣形を拡げようと試みます。

そのひとつがYS横浜陣内右サイドで奥行きを取ろうとしていたいことであり、もうひとつが7分55秒~8分0秒にみられる自陣左サイドを使ったビルドアップから右にサイドチェンジをするやり方です。

YS横浜の最近3試合の被進入傾向をみましても、サイドを起点にPA内に進入されるケースが多いことが分かります。
両WBの裏が狙われるケースもありますし、WBが最終ラインに下がった際に、下がった後のスペースへのカバーが遅れているといった傾向が想像できます。北九州はYS横浜のサイド奥、ポケット進入にねらいを持っていました。

ゴールシーンも含めた前半の大きな決定機は、こうしたサイドの攻略により生まれたものといえます。

まずは先制点の場面です。

J3第38節 YS横浜-北九州 13分北九州先制の場面

図ではYS横浜の守備の動きを簡略しています。
序盤から積極的にゴールを狙っていた北九州ですが、決して無茶をしていた訳ではなく、YS横浜のブロックが整っている時は無理せず自陣に戻していました。
この場面では(6)藤原がYS横浜のプレスを引きつけ、CB(50)杉山耕二へと戻します。戻すことによりYS横浜を更に引き出します。

このタイミングで内レーン(側)へ縦パスを差し込むのが今シーズンの北九州の攻撃パターンのひとつでしたが、この試合ではこの縦パスをSHに受けさせるのではなく、トップ下の(17)岡野やCF(10)永井龍がサイドに流れながら受けるケースが多かったと思います。
そして、この場面の(8)若谷のようにSHはサイドに張り、ボールの逃げ道をつくっていました。

このサイドに人を集める形がこの試合では約束事になっているように見えました。こうするとRSB(22)山脇樺織の立ち位置を前に持ってくることが出来ます。

そして(8)若谷がサイド前方へのスペースへ(22)山脇を走らせたことで、YS横浜LWB(33)橋本は、(17)岡野について行ったLCB(3)藤原拓也が空けた内レーンをカバーしながら(22)山脇についていくことになり、戻りが完全に遅れた(3)藤原との間に広いスペースが生じます。

このスペースに一目散に走っていたのがCH(34)高吉正真で、GKの視野外から飛び込む(10)永井へドンピシャのクロスを送ることが出来ていました。

北九州の攻撃が上手くいかない時は、両CBからの縦パスが通らないという現象がよくみられていましたが、SHが受け手ではなく、サイドに張り、逃げ道をつくることで、ボールを奪われるリスクを減らす、そしてSBを前向きに相手陣内へ進入させるという効果を得られた素晴らしい攻撃でした。

更に17分(17)岡野のシュートに至った場面は、同様のコンセプトから左サイドを攻略した流れから生まれました。

J3第38節 YS横浜-北九州 16分北九州の決定機

ここも先程と同様にYS横浜の守備の動きは簡略しています。

北九州自陣からのビルドアップでしたが、今度は(13)工藤が自陣から縦パスを入れます。これをSHが受けるのではなく(10)永井がYS横浜RCB(2)花房稔を引き出しながら、サイドに張るLSH(29)高昇辰へとワンタッチで出す形です。

この場面ではいったん後方に下げて(6)藤原のドリブルで前進に成功した訳ですが、その動きに連動して(17)岡野が一気にゴール前へと詰めました。残念ながらゴールに至らなかったのは(2)花房の戻りが速かったのと、GK(82)後東尚輝のファインセーブによるものです。
(17)岡野は狭いスペースでワンタッチでよくコントロールしたと思います。枠内にも飛ばしていますし、良いシュートでした。

一方でこのゴールが決まっていれば、この試合は北九州のワンサイドゲームになっていた可能性もあり、現実に大量得点を奪う展開も有り得たと思いました。試合の流れ全体を決定づける重要なシーンでした。

徳島からレンタル中のGK(82)後東ですが、ポジショニングに優れた良いキーパーとの印象が残りました。徳島はこういうタイプのキーパーが多い気がします。

さて、今シーズン(17)岡野が放ったシュートは21本。ゴールはアウェイ今治戦の1得点でした。数字のみを見れば決定力不足が課題ともいえるのですが、シーズン通じて良い形で良いシュートを撃っているという印象はずっと残っており、きっかけを掴めば、シャドーストライカーとして一気にブレイクする可能性も感じています。是非、来シーズンも北九州でプレーしてほしいものです。

なかなか追加点が生まれそうで生まれない北九州でしたが、やはり決定機を逃し続けていると失点してしまいます。サッカーの神様は正直です。

YS横浜の斜めのショートパスを多用したビルドアップが上手かった面はありますが、北九州はプレスを躱され中央経由で右に展開されます。LWB(33)橋本と(22)山脇の1対1になります。(34)高吉がシュートコースを消そうとはしていましたが、シュートブロックも出来なかった点は反省点になるでしょう。(8)若谷の寄せ、サポートが甘かった点もあったと思います。

先ほどのYS横浜の被進入傾向と比較しても、北九州は被進入回数自体が少なく、前線のプレスを含めた未然の守備対応がしっかり出来ていることを現すデータともいえます。
ですので、数少ない局面の対応の甘さから失点してしまう場面が目立ったことは本当にもったいなかったと思います。来シーズンに向けての修正点になるでしょう。

(2)苦しい時は運べ~後半~

後半開始から北九州は、(8)若谷に代えてMF(20)矢田旭を投入します。
後半も前半同様北九州はYS陣内へ主に右から果敢に攻め込みます。
CKを複数回得る中で、(6)藤原のキックから(10)永井がニアで合わせるなど、今シーズン得意としていた形でゴールに迫りますが、やはりGK(82)後東のファインセーブに阻まれます。
決め切れないと相手に流れが渡るというのは前半同様で、60分過ぎからはYS横浜も反撃開始、北九州が自陣に押し込まれる展開も増えてきます。

苦しくなりかけたゲーム展開を引き戻したのは、交代出場(20)矢田による持ち運びでした。

それでは一時勝ち越しとなった2点目を振り返ります。

LSB(33)乾貴哉からのパスをやはり(10)永井がワンタッチで後方をサポートする(20)矢田に出すのですが、ここで運んだことにより、(29)高昇辰に裏を取らすことが出来たと思います。
(20)矢田は54分にもドリブルで自ら運ぼうとしており、その姿勢が繋がった追加点といえます。この交代策は的中しました。

開幕戦はスタメン出場も、その試合で負傷していまい、戦線離脱を余儀なくされた(20)矢田でしたが、やはりその技術が輝くのは前線での起用ということなのかもしれません。

また、ゴールを決めた(29)高昇辰は今シーズン6ゴール目となりました。前節での決定機逸は本人にとっても悔しいものになった筈です。
シーズン中に取り返すことが出来て良かったと思います。

この時(29)高昇辰はゴール裏には行かず、すぐ自陣へと戻っていきました。63分の段階でまだ北九州は昇格を諦めていなかったのです。

この勝ち越しゴールが生まれた直後の64分にYS横浜PA内左右の揺さぶりから同点の決定機を迎えましたが、ここは(50)杉山がゴール手前でクリア、ガッツポーズを魅せます。増本監督もスコアが動いた後の5分間の集中を説いていますが、まさにそれを体現するプレーでした。

全体的に勝利にふさわしい振る舞いを見せていた北九州でしたが、90分を迎えるまでにその(50)杉山のヘディングシュートも含めて決定機が4回ありました。しかし、1回も決めることが出来ない、今度は2点差に拡げられないことにより、少々不気味な雰囲気が漂ってきていたように思います。

クロージングに関しては、CB(4)長谷川光基の投入、前から規制を掛ける、出来るだけ前へポイントをつくると采配、プレーの双方で出来る限りの努力は行っていたように見えました。
失点シーンもゴール脇へのクロスを(50)杉山が渾身の力でクリアしているのですが、ひびきSS出身(15)冨士田康人がダイレクトで撃てる位置にいってしまいました。

(4)長谷川と(33)乾の2人でブロックにいくもその間をボールが抜けていく、(1)伊藤はこの2人がブラインドになって一歩も動けずと、どうしても上手くいかないものです。

しかし、個人的にはそれまでの決定機を決められるかどうかという点がかなり重要であると考えています。2点差にして相手の戦意を喪失させるのと、1点差のままで何とかなると思わせるのとでは全然相手の攻撃のクオリティも変わってくる筈です。
これだけ気合いを入れて臨んだ最終戦でも悪癖が繰り返される。
これも来シーズンに向けて、大きな課題になります。

しかし、ATはこの時点でまだ3分ほど残っており、ここで北九州の選手たちが諦めなかったことは、素直に来シーズンに繋がる大きな収穫であったと思います。

この3分間もどちらかと言えば、北九州の選手の一部に動揺がみられ、YS横浜に3点目を献上しそうになっていましたが、自陣から(20)矢田が冷静にボールを引き取り、(29)高昇辰へ。ここで運んで時間をつくったことで交代出場MF(30)髙橋の追い越す動き、ゴールを決めた(33)乾らが上がる時間を稼げたと思います。
自陣から前に繋いだ、丁寧にプレーしたことが再度の勝ち越しゴールを生んだのかもしれません。

3.まとめ

以上、最終節YS横浜戦を振り返りました。
劇的な結果に終わりましたが、一年を通じた北九州の攻守両面の課題と、その解決に向けたヒントの双方が現れた試合であったと思います。

劇的なゴールにも関わらず北九州の選手たちからは派手に喜ぶ姿はみられませんでした。結果的に昇格には届かなかったかもしれませんが、大量得失点差で勝利するというタスクを成し遂げられなかったことによる悔しさと筆者は想像します。

それで良いと思います。最初に述べましたように戦力の入れ代わりはあると思いますが、増本北九州はまだ発展途上です。本当の歓喜は来シーズンにとっておきましょう。

4.感謝を込めて

さて、最初はミニレビューという形でスタートしましたギラヴァンツ北九州マッチレビュー「向日葵は枯れていない!」、リーグ戦全38試合を書き終えることが出来ました。
これは一重に読者の皆さまのコメントや労わり、励まし、そして何と言ってもギラヴァンツ北九州の頑張りが筆者の力になったことによるものです。

ご存知のように私は岡山在住のファジアーノ岡山サポでもあります。
自分自身の中心軸は岡山にあります。
結局、今シーズンは1試合も現地観戦が出来ない立場にありながら戦術を中心に述べさせていただきました。

まず、このスタイルを受け入れてくださった北九州のサポーターの皆さまに感謝いたします。

そもそも筆者がなぜ北九州のマッチレビューを書こうと思ったのか、そのきっかけがこちらの小林伸二前監督の記事でした。

5年間続いた小林体制に功罪両面があったことを後に知ることになるのですが、「名監督」小林伸二を以ってしても抗い難いリーグ格差とその影響に直面するクラブの現状、それらを地方市民クラブの限界と戦っている岡山の姿と重ね合わせてみた時に、若きフロント、若き監督、若い選手たちで這い上がろうとしている北九州の姿は自ずと私の応援対象となったのでした。

そして筆者の応援スタイルの主要部分がまさにレビューの作成にあたります。筆者は戦術を知ること、ゲームをレビューすることは応援の一部であり、現場への想像力を深めること、最終的にはクラブへのリスペクトを深めることであると考えています。

地場の商店、飲食店、喫茶店などが街から消えて行き、大手チェーン、量販店にとって代わられる昨今、Jクラブはその街のアイデンティティを感じ取りながら人々が集える貴重な場なのです。

一サポーターに過ぎない筆者が出来ることは限られますが、この灯を北九州であっても岡山であっても、また他の地域であっても消してはならないと考えています。その盛り上がりに少しでもお役に立てる間は、マッチレビューを続けていきたいと考えています。

これからもよろしくお願いいたします。

今回もお読みいただきありがとうございました!

※敬称略

【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
岡山のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。

JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。

2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。

北九州大学(現:北九州市立大学)法学部出身
北九州は第二の故郷ということもあり、今シーズンからギラヴァンツ北九州もミニレビュー作成という形で追いかける。

鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。

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