【ファジサポ日誌】136.強さの秘密は~J1昇格プレーオフ1回戦 モンテディオ山形 vs ファジアーノ岡山 ミニプレビュー ~
強い、これは間違いない事実です。
12/1(日)に控えたJ1昇格プレーオフ1回戦の相手、モンテディオ山形のゲームを可能な限り視聴しましたが、なかなか隙が見当たらなかったというのが正直な感想です。
岡山が対戦したのが、8/3の第25節(△1-1)でしたが、山形はその後12勝1敗の快進撃をみせてシーズンフィニッシュ、4位に滑り込んできました。
その立役者がFW(90)ディサロ燦シルヴァーノとMF(88)土居聖真といった夏マーケットの補強組であることも間違いないのですが、彼らの果たす役割も含めて、山形のサッカーの今を事前に知ることが、私たちサポーターにとっても応援の目安と言いますか、気持ちを整理する材料になると思い、ミニレビューを作成してみることにしました。
一応、ミニレビューと題しましたが、山形について考えた内容が9割です。
1.山形のボール運びを考える
まず、時間帯別パスネットワーク図を並べてみます(SPORTERIAより)。
岡山が対戦した第25節と、筆者が視聴した最近4戦を比べてみますと、明らかな違いがあることに気づきます。
左右のバランスです。
岡山との対戦時はRSH(42)イサカ・ゼインを中心とした右サイドからの攻撃が機能していた山形でしたが、最近は左右万遍なく攻撃出来ていることがわかります。
筆者が知る限り(山形の試合をいつもて観ている訳ではないので事実誤認はあるかもしれませんが)、渡邉晋監督の理想は両サイドからのサイドアタックで、両サイドから出来るだけ「均質」に攻撃するチャンレンジを開幕から続けていたと思います。
ところが、右サイドに関しては開幕から機能するも、左サイドからのアタックが上手くいかない。この点の改善に時間を要していたのがシーズン序盤の低迷に繋がる一因であったとみています。
それが、機能している右からの進入に一旦サイドアタックを集約し、LSHは中に入っていく仕事に役割分担していたのが、岡山との対戦もあったシーズン中盤付近で、ここで成績が安定してきます。
そして、最近は改めて両サイドからのアタックにチャレンジ、左サイドからの進入も効果的になっているのがシーズン終盤戦の姿であると捉えています。
両サイドからアタック出来ているという点では渡邉監督の理想とするサッカーの完成形に近づいているのかもしれません。
この大きな流れについては、継続的に山形のサッカーを観ている方の見解とは異なるかもしれません。
左サイドのメンバーをLSB(6)山田拓巳、LSH(25)國分伸太郎と固定できるようになった点も大きいのですが、この左サイドのアタックに関しては(90)ディサロの果たす役割が非常に大きいと感じています。
2.ディサロと土居の役割
(90)ディサロの初期配置は4-2-3-1のワントップですので、山形の保持時には前線中央にいるのが本来のCFの立ち位置ですが、(90)ディサロの場合は少々異なります。まず全体的な動きからみていきましょう。
最終戦、千葉戦のヒートマップです。
攻撃方向よりも自陣の方でのヒートマップが濃くなるCFというのはあまり見かけません。偽CFと呼んでも差し支えはないでしょう。
それでいてゴールも量産している訳ですから、一言で述べますと脅威です。
渡邉監督のサッカーが立ち位置で勝負するというのも、よく言われる特長なのですが、(90)ディサロや後に述べます(88)土居が山形にもたらした最大の効果は、立ち位置における優位性を山形にもたらしたことであると思います。
山形自陣からのビルドアップの際に、(7)高江麗央や(8)小西雄大といったCHが消されている時に下りて受ける動きはもちろんのこと、敵陣でのサイドアタックで味方を手厚くサポートするのです。
視聴した試合を総合して山形のビルドアップからの前進を想定してみました。相手のシステムによる噛み合わせの違いはありますが、概ねどの試合でもやっていることは同じであったと思います。
山形のビルドアップに対して、ボランチがCB脇に下りて受ける。
守備側はそれぞれのプレーヤーにプレッシャーをかけてサイドに誘導しています。こうした場面でハーフウェイライン付近に(90)ディサロが下りて、SBを一枚飛ばすことで相手サイドプレーヤーの裏を取ったり、ボールが入った味方SBの内レーンに入ってサポートする動きが目立っていました。ボールが入った(90)ディサロは大体ワンタッチで1レーン内、外を走る味方に出します。
当初の山形の左からのサイドアタックはサイドプレーヤーの独力に頼るところもあったと思うのですが、現在は(90)ディサロがサイドに流れることでサイドで優位性をつくり、彼を追い越す動きを使いながらサイドを攻略していく。山形が左サイドからも攻撃出来るようになった理由には、この形とその派生形の成熟があるのです。
そしてこの(90)ディサロの動きに連動しているのが(88)土居です。
土居も(90)ディサロ同様にサイドアタックをサポートします。
5-4-1ブロックを敷いている相手に対して、サイドに運ぶ。サイド一杯に張っている(42)イサカにボールが入ると、相手LWBが寄せます。この時(88)土居がPA脇に相手LCBを引き付けて、PA内に(42)イサカの進入スペースをつくっています。ボールを受けた(88)土居もワンタッチで出すので、シンプルですが(42)イサカに繋がり決定機になります。
これは相手陣内に押し込んだ際のサイド攻略なのですが、5レーンをしっかり使いながらサイドで優位に立つ動きを(90)ディサロ、(88)土居の双方が行っていると考えていただいてよいでしょう。
更に彼らの中央ゾーンでの立ち位置も相手中盤とDFラインの間、そしてそのもう一つ下りたところを行ったり来たりしていおり、相手としては非常に捕まえにくいのです。
(88)土居の場合は最終ラインを押し下げるだけ押し下げて、クロスやパスが入る瞬間に一歩、二歩下がりスペースをつくる。この動きに手を妬いているチームも多かったです。
以上、(90)ディサロと(88)土居の立ち位置、動きの一部について述べてみましたが、前半からこれだけ動き回ると当然後半はペースダウンします。そこで投入されるのがFW(36)高橋潤也とFW(41)後藤優介の2人です。(90)ディサロや(88)土居ほど複雑な立ち位置は取らないものの、この2人が常に縦関係になり前線にポイントを作り直す働きが、終盤の山形の攻撃力が落ちない要因になっているのです。
3.山形の守備について
ここで山形の守備について考えてみましょう。
終盤4戦の中でも実は変化があり、中を締める、最後をやらさない守備へのこだわりをみせてきています。
山形の前線からのプレスは相手によって、その頻度、強度を変えているフシもあり、出方を観察する必要もありそうですが、基本的には(90)ディサロのファーストディフェンスに(88)土居が連動し中を締める形であると思います。
特長的なのはサイドに出された際にSBが背後を気にせず前に出てくる点です。よってサイドは取りやすいのですが、その代わりに中で跳ね返す用意をしっかりしている点です。終盤になってからの傾向であると思います。
一方で、当日の山形の天候にもよりますが、山形の芝はボールが走りやすいので、単にサイド奥のスペースを狙ったロングボールは流れやすい傾向があります。チームにも押さえてほしい点です。
おそらく、群馬からCB(22)城和隼颯を獲得した意図はこの最後をやらさない守備の構築にあったものと考えます。
プレーオフを意識して、とにかく最後をやらさない意識が高まっている一方で、出来るだけ高い位置で奪いたいという意識も垣間見える守り方という側面も見逃せません。
実は山形の敵陣ポゼッション指数は昨シーズンが「44」とリーグ下位であったのですが、今シーズンは「53」と大幅に指数が上がっています(FootballLABより)。
自陣ポゼッションは「63→65」と相変わらず高い数値を維持していることからも、以前よりも即時奪還を含めた敵陣での奪取、保持に力を入れていることがわかります。
では中央で強固な守備を構築出来ているのかというと、試合結果のみをみれば出来ていると言えるのですが、まだ構築途上という印象も残りました。
例えば、熊本は結構最終ラインの裏を取っていました。チャンスはつくれているのですが、最後はGK(1)後藤雅明の頑張りで得点を防がれている印象も残りました。
視聴した4戦のうち、最終節の千葉戦は前半に千葉に退場者が出てワンサイドゲームになった影響が出ていますが、それ以外の3戦は全て相手の方のゴール期待値が上回っているのです。
つまり、相手チームにはゴールに迫れるチャンスは必ず生じるといえます。
4.岡山は如何に戦うか
中盤の構成力、パスの精度、前線でのアイデア、いずれも実力では山形の方が上回っていると筆者はみています。
リーグ戦終了後、すぐの対戦でなく良かったと思っています。
日程は間違いなく岡山に味方しています。
岡山の戦い方はおそらくここでも「自分たちの良さ」を出すことであり、「相手コートでの戦い」を貫くのだと予想します。それで良いと思います。
おそらく山形陣内に進入する機会は相応にあると思います。
この時に決め切れるか、決められなくても即時奪還出来るかポイントになります。即時奪還については、山形CB(5)安部崇士がボールを持った際が狙いではないかと考えます。彼の左から内を切りながら後方へボールを戻させる、そこに連動してプレスに行けるかが勝負です。
また、(90)ディサロや(88)土居のサイドに張り出す動きについては追い越す動きを捕まえる方が効果的かもしれません。これは水戸など上手くやれていたチームもありました。
山形がこの2人を起用してサイドアタックを行うということは自然と逆サイドの選手は中へと入ってきます。ボールを奪ったら素早く逆サイドに展開してピッチを広く使うカウンターも効果的でしょう。
全体的にはお互いに運動量を求められるサッカーになるでしょう。
後半、選手交代で中間スペースにポイントをつくる山形に対して岡山の2CHがついていけるか、この辺りは(15)本山遥の起用法も含めて考えたいところです。逆に岡山は(99)ルカオや(11)太田龍之介、またはそれ以外の選手が前線でポイントをつくれるか、まさに勝負どころになりそうですね。
今回もお読みいただき、ありがとうございました!
※敬称略
【自己紹介】雉球応援人(きじたまおうえんびと)
地元のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。
鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。