【ファジサポ日誌】132.真っ向勝負 ~第36節 横浜FC vs ファジアーノ岡山 マッチレビュー ~
プレーオフ進出残り3枠を巡っての4チームの争いは更に熾烈を極め、各チーム「いくら勝っても」差を拡げられない、縮められないという、まさに極限のリーグ終盤戦が展開されている。
私たちファジアーノ岡山の今節横浜FC戦は、プレーオフ争い全体の中でもポイントのひとつとなるゲームであり、おそらくライバル他チームも注目していたはずである。
首位横浜FC、一段階上の優勝争いを競っているチームであり、そして今節を勝てばJ1復帰が決定するという、彼らも絶対に勝ちたいシチュエーションであった。
しかも彼らは前節の仙台戦で0-3とまさかの敗戦を喫した後であり、今シーズンまだ連敗がないことを踏まえても、この試合では改めてネジを締め直してくることが予想された。リーグ最少失点を誇る堅守、ミラーゲームにより個の力量が試されることを踏まえても、岡山としては正直なところ簡単には勝ち筋を見出しにくいという状況ではあったと思う。
しかも横浜FCには2017シーズン以降勝利がない。
数々の痛い敗戦の記憶が蘇る。
しかし、私たち岡山はJ1昇格のために一歩も引けない状況である。勝たなくてはならない。
不安と闘争本能が同居する。
そんな週末を前にして、岡山公式はこのような動画を作成したのである。
振り返れば、木山体制により再びJ1昇格を本格的に目指し始めた2022シーズン以降、横浜FCにはその都度、岡山の前進を止められてきた。
2022シーズン第32節、岡山と首位横浜FCとの勝点差は9、残り試合数(12試合)を踏まえても岡山としては勝利して勝点差を6に縮めたいところであった。
そんな大事な6ポイントマッチの直前、岡山に激震が走った。
主力を中心に新型コロナウィルス陽性反応を示した選手が6人発生、濃厚接触者や累積警告等により出場できない選手を合わせると計9人が欠場となる非常事態に陥った。
岡山は更に陽性反応者が増える不安を抱えながら、ありったけの選手をかき集めて横浜へと出発したのだ。
このシーズンの夏に秋田から加入したばかりの(34)輪笠祐士(背番号は当時)が初先発するなど、急造イレブンで臨んだ岡山であったが、必死の戦いが功を奏したのか善戦する。しかし、なかなか1点をもぎとれない中、終盤71分岡山CKのチャンスから逆にカウンターを許し、横浜FC(7)山下諒也に決勝点となるループシュートを決められてしまった。
この試合は結果的に岡山のJ1自動昇格が遠のく節目の一戦となった。
そして、この試合で岡山がみせた弱点、ネガトラ(ネガティブトランジション)については、この先各対戦相手に狙われるようになるのであった。
岡山がJ1昇格を果たせなかった要因の一つが明らかとなったゲームであったといえる。
そして、前回のホーム戦である。
開幕から岡山は7戦無敗とスタートダッシュに成功したが、この試合では横浜FC(24)福森晃斗のプレースキックから3失点、初黒星を喫した。
落ちる直前で急速にブレーキが掛かる球質、最終ラインの背後に落とされるボールに岡山は大苦戦した。
そして、岡山は翌節のアウェイ愛媛戦でも同様のFKから失点し苦戦、負傷者続出が最大の要因であったとはいえ、岡山は今シーズン最初の低迷期へと入ってしまったのである。
悉く、横浜FCには岡山の勢いを止められてきたのだ。
今度は同じ轍は踏まない、そもそも横浜FCに関係なく岡山は負けられない状況、この煽り動画をアップした意図には、勝利のためにクラブの力だけではおそらく足りない。プラスα、すなわちサポーターの力が勝利に必要とのクラブからの訴えと筆者は解釈した。
この試合はエンドを変更して行われた。
2022シーズンには横浜FCの一員として、当時在籍していたミッチェル・デュークのシュートなど岡山の決定機を防ぎ、そして今シーズンは岡山の守護神として横浜FCの前に後塵を屈してしまったGK(49)スベンド・ブローダーセン、そして一昨シーズンの対戦ではこれも横浜FCの先発メンバーに名を連ねていたCH(14)田部井涼の発案であったらしい。
一昨シーズンの決勝弾、GK(35)堀田大暉(背番号は当時)の掌を弾き切ったほんの少しの勢いは、背後で応援するサポーターによってもたらされたのかもしれない。
後半、そんなサポーターたちに向かって横浜FCを攻めさせたくない。
彼らは三ッ沢のサポーターの力を知っている。
振り返ります。
1.試合結果&メンバー
絶対に勝たなくてはならない試合で岡山は見事勝利を収めました。
このカードでは今シーズン2度の対戦(リーグ戦・ルヴァン杯)で計10得点が生まれていますが、「盾×盾対戦」と呼ばれていたように、リーグ最少失点(横浜FC)と失点数2位(岡山)のチームの対戦とは思えないスコアとなりました。
岡山の4得点は今シーズン2度目、逆に横浜FCは今シーズン初めて4失点を喫しました。一時、岡山は4-0と一方的にリードを奪いましたが、4点以上のリードを奪った試合というのも2022シーズンの第20節ホーム金沢戦(5-1)以来となりました。
豪快な勝ち方でしたが、一方でプレーオフ争いに関しては千葉、山形、仙台と全ての対象チームが勝利しましたので、前節に続き、またしても勝点は伸びるが順位に変動なしという状況になりました。
これだけハードワークをしても、気を抜けない戦いはまだまだ続くのです。
メンバーです。
お互い3-4-2-1のミラーゲームになりました。
堅守、手間をかけずに前へ運ぶ、サイドに強みがある等、指向するスタイルはよく似ている両チームです。
そうなると最後は、戦術の徹底度や個の質の差がモノを言う訳ですが、その点でも客観的にみれば横浜FCの方が若干上であると思いますし、その差が今の順位の差になっていると思います。
しかし、岡山は勝つことができました。当たり前ですが、この点はしっかり振り返りたいテーマです。
岡山はCH(24)藤田息吹がメンバー外となりました。前節いわき戦では、いわき最終ラインから縦につけるボールを中心に持ち前の読みの良さを活かして悉く回収していた(24)藤田(息)でしたので、同じく縦への楔のパスも数多く入れてくる横浜FC相手の欠場は痛かったと思います。
しかし、CHの一角には2年前に岡山初先発をこの三ッ沢で飾った(6)輪笠が入りました。これも何かの縁なのかもしれません。
「読み」の部分では(24)藤田(息)が上と筆者はみていますが、ボールの持ち運びという点は(6)輪笠に分があるとみていました。
サブには久々にFW(29)齋藤恵太が入りました。
彼をスタンバイさせているということは、自陣に退いてからのカウンターを想定していたという事かもしれません。岡山のゲームプランには後半、自陣に押し込まれる想定もあったと考えます。
横浜FCはCBのレギュラー(5)ガブリエウが出場停止による欠場、RCBには(3)中村拓海が入りました。
2.レビュー
ミラーゲームらしい攻防が目立った一戦でしたが、アタッキングサードへの進入という点では、横浜FCが特に後半優勢であったと思います。
しかし、岡山は数は少ないながらも自分たちの時間、ワンチャンスをモノにして4得点をマーク。この点を中心に今節は時系列でみていきたいと思います。
(1)均衡を破る 開始→18分
お互いに手数をかけずに前方へボールを送り、前にポイントをつくろうと陣地回復の応酬となった前半でした。
ロングボールの競り合い自体は若干横浜FCに分があったように見えましたが、セカンド、サードの回収においては岡山も優位に立てていたと思います。
これは岡山のFW(シャドー含む)ーMFーDFの3ラインが均等な距離感を保っていたことで、ボールを弾く先について、日々の練習で培ってきた味方同士の感覚的な予測が成り立っていたからであると推察します。
映像であれば、手前側、岡山の右サイドRST(27)木村太哉、RWB(15)本山遥、RCB(4)阿部海大の距離に注目していただければ分かりやすいと思います。
この距離感の維持を担っていたのがCB(18)田上大地によるラインコントロールで、チームが横浜FC陣内に進入すれば高いラインを維持出来ていました。
非常に重要なゲームの立ち上がりにおいて、岡山は自分たちのコンセプトである相手コートでのサッカーを表現する姿勢を臆することなく打ち出せていたといえます。
一方、横浜FCは岡山のボールホルダーが少しでも判断に躊躇すると襲いかかり、持ち前の鋭いカウンターに移行しようとします。
仙台戦の大敗を受けて臨んだ横浜FCでしたが、立ち上がりをみる限りはいつもどおりの戦いぶりを披露していたように見えました。
岡山にとって幸運であったのは、岡山のボールホルダーに対する横浜FCのアフター気味のチャレンジが悉くファールになっていた点です。
一方で正当なボディコンタクトに関しては流す判断が序盤から目立ちました。
それでも横浜FCは一度ボールを奪うと逆サイドに素早く展開します。左サイドLWB(14)中野嘉大をLCB(24)福森晃斗がサポート、LST(13)小川慶治朗がサイドに流れて、RST(78)ジョアン・パウロがボックス内に入る攻撃からは、一定の形として確立されている様がみてとれました。
岡山は左サイド(14)中野の単独突破に対しては(15)本山が1対1で負けることなく対応。序盤から岡山は個で負けない姿勢を強く打ち出せていました。
この序盤、岡山がボールの奪い所としてチャレンジしている様子が伝わってきたのが横浜FC、CF(38)髙橋利樹にボールが入ったタイミングでした。岡山は最終ラインから、そして(6)輪笠らボランチを中心に前方、両サイドから3人で囲い込む場面が散見されたと思います。
これはチームとしての約束事であったかのように見えました。
18分、岡山の先制点はこうしたチームのねらいが嵌った形となりました。
このゴールは、(14)田部井のブレ球の惜しいFKが横浜FCゴールを襲った直後の横浜FCのゴールキックの場面、16分30秒前後からの流れが良かったと思います。
(13)小川を狙ったゴールキックに(4)阿部が完全に競り勝ち、不規則なバウンドとなったセカンドをCF(22)一美和成が難なく収めて2タッチで右前方の(27)木村へ出します。(27)木村はダイレクトで前方のスペース目がけて蹴ったボールが(24)福森に当たりタッチ外へ。難なく岡山は敵陣でマイボールを得ます。
(4)阿部が右前方の(27)木村へスローイン、(27)木村が相手を背にしながらワンタッチで後方スペースへ返します。アバウトな返しでしたが、ここに(6)輪笠が入ってきている点が大きかったと思います。ボックス手前のアタッキングサードに躊躇なく入っていける彼の良さが出ていたと思います。そして後方から上がってきた(14)田部井を経て左サイドへ展開、LCB(43)鈴木喜丈はボックス内へのグラウンダーのパスを送りますが、これを横浜FC、CB(2)ンドカ・ボニフェイスがクリア、クリアボールが(38)髙橋へ到達します。
横浜FCの強みのひとつがこうしたルーズなボールからの電光石火のカウンターであると思うのですが、(38)髙橋経由では絶対にやらさないという岡山の覚悟が伝わってきましたし、相手陣内での即時奪還をコンセプトに置く岡山の理想的な攻撃であったと思います。
(18)田上の手は確かに(38)髙橋の肩に掛かっているようには見えますし、主審の位置からも確認は出来そうなのですが、おそらく最初の接触が正当なコンタクトで、その後(38)髙橋が足を滑らせたようにもみえます。おそらくこの辺りの判断からノーファール判定になったものと推察します。(18)田上としては、相手CFとの個の勝負では絶対にやらさないとの気合いもあったと思いますが、序盤からの主審の判定傾向を踏まえた上でのプレー判断であったのかもしれません。
この(18)田上のプレーの凄いところが、これだけ激しいコンタクトからボールを奪っていますので、体勢が崩れかけているのですが、そこを立て直し、かつ横浜FC、CH(7)井上潮音を躱している点です。更にそこからの攻撃移行に関しては、ミスパスになりがちなところをまさかの斜めのスルーパスという選択が出来ているという点において「スペシャル」なプレーであったと思います。こうした大胆なプレーを大事な一戦で披露することが出来る、これが昇格経験なのだと教えてもらった気分になりました。
(18)田上のパスのねらいは当初(27)木村を右に反転させることであったのかもしれないと思っていましたが、17分7秒の場面ではボックス左手前から斜めへのランを開始する(19)岩渕をおそらく(18)田上は視認しており、また中央をCH(4)ユーリ・ララと(24)福森の2枚が塞ごうとしていることから、これは明らかに(19)岩渕の走り込むスペースをねらったパスであったと認識を改めました。
繰り返しになりますが、コンマ秒単位で変化する局面に対する(18)田上の切り替え、判断に畏怖すら感じました。
そしてこの狭いスペースへ走り込み、相手選手を交わしてゴールへ流し込む。これも(19)岩渕の持ち味が出たゴールであったと思います。
岡山は(4)阿部が後方をカバーしていたものの、一度横浜FCの網に掛かると一気に守備へと切り替えなくてはならない勝負どころの場面でしたが、怖れずに相手コートでのサッカーを完結させた素晴らしい先制点でした。
ゴール後(19)岩渕がゴール裏に走った点も良かったと思います。
アウェイの地において、一気にサポーターとの一体感が増したのではないでしょうか。冷静なキャプテン(7)竹内が(18)田上を荒々しく称えていた点も印象的でした。彼のプレーの凄さを瞬時に理解したのでしょう。
J1にも相手コートでの即時奪還を掲げるチームは数多くあります。
彼らの凄い点は、即時奪還後の攻撃の形、崩しの形にも想像性が溢れている点です(神戸のサッカーをみていてもそう思う)。そういう意味では、このゴールは少々J1の香りが漂うものであったと思います。
(2)凌ぐ 19分→31分
先制点を奪われた横浜FCは一気にテンポアップ。小気味良いパス交換から岡山陣内に進入しますが、岡山も素早いトランジションからチャンスを与えません。そして、岡山はロングボールで相手陣内に起点をつくると変わらずセカンドの回収で優位に立ちます。
この時間帯の特長は横浜FCもビルドアップにより前進を図っていた点です。しかし、中央のボランチ(7)井上に対しては(22)一美がしっかりパスコースを消す、つくことによって、そこから縦への前進を許しません。
もう1人のボランチ(4)ユーリ・ララは一段上に上がる、岡山最終ラインとボランチの中間や右サイドに張るなど、岡山としては少々嫌なポジションをとっていましたが、横浜FCから彼を使う気配はあまり感じ取れませんでした。
かなり左からの攻撃に固執していた印象があります。
おそらく(4)阿部の背後をとるスカウティングがあったと推測するのですが、このサイドに関しては(15)本山のトランジション、(27)木村のプレスバックがとにかく速く、かつ中央へのルートは(6)輪笠が遮断しているので、このサイドからは序盤同様なかなか前進できません。
そこで右サイド、RCB(3)中村から縦につけるトライも始めるのですが、ここも(14)田部井や(43)鈴木がカット、有効に前へ運べません。
それならばと、今度は(3)中村からRWB(8)山根永遠を走らせるフィードを送ります。岡山LWB(17)末吉塁との1対1で上回ろうとする算段です。
これは有効で一発でCKの獲得に成功しました。22分30秒過ぎの場面です。(24)福森という絶対的なキッカーを擁する横浜FCとしてはこれで良い訳です。
ここから27分過ぎまでの約5分間、岡山は(24)福森からのCKを中心に、自陣で張りつくことになります。この時間帯に失点しなかったことが、この試合の流れの大きなポイントになったと考えます。
岡山は(24)福森からのCKをゾーンではなく、マンツーマンで守ります。大きな工夫であったと思います。
横浜FCの狙いは手薄になりがちなニアで、このゾーンでは横浜FCもしっかりフリックしてくるのですが、岡山はやはりマンツーマンで付いている分、そこから先へはボールに触らせませんでした。
若干、二次攻撃への詰めが甘いシーンもありましたが、GK(49)ブローダーセンの反応にも余裕がありましたし、チームとして横浜FCのセットプレーをよく研究している様子も伝わってきました。
約5分続いた横浜FCのセットプレーの連続と二次攻撃を高い集中力で凌いだ岡山でしたが、一難去ってまた一難、大ピンチを迎えます。
岡山自陣左サイドからのクリアボールを跳ね返され、PA右角で受けた(78)ジョアン・パウロに(43)鈴木がファール、直接FKを与えてしまいます。(78)ジョアン・パウロも意図的にファールをもらいにいった雰囲気はありました。
(24)福森としては絶好の位置からのFKとなりました。
岡山がニアに誘導しているようにみえたのでしょうか。(24)福森の狙いはファーでしたが、曲げ切れず岡山として事無きを得ました。
岡山としてはこの約11分の間に同点に追いつかれなかったことは大きく、これでリードを保ったまま前半を終えるというゲームプランも現実的なものになっていったと推測します。
(3)最高な追加点 32分→前半終了
この時間帯の岡山の守備の良かった点は、5-4-1のローブロックではなく、ミドルブロックを敷いていた点です。1点リードを保持するという観点であればローブロックでも良さそうでしたが、自陣ゴールに近いポイントでファールしたくないという意識がゲームプランとしてもそうでしょうし、この前の時間帯からも感じ取る部分があったのでしょう。リードの保持が大前提ながらも、横浜FCに隙があれば追加点を奪うねらいもあったと思います。
横浜FCは5-4ブロックの左サイド中盤脇をドリブルにより前進を試みますが、前者の動きに対しては陣形全体でローブロックに移行しながらも、完全に引き込むのではなく、30mライン進入後ぐらいのタイミングで(15)本山がチャレンジ、ここで時間をつくることで最終ラインを上げさせることに成功していたと思います。
また、34分のように(24)福森からのロングフィードを用いて一気に前線にポイントをつくる動きも見せますが、これも(18)田上と(43)鈴木がしっかり警戒していました。ボールを拾った(18)田上はドリブルで中盤まで前進、マッチアップしていた(38)髙橋が後方から倒し警告を受けます。(38)髙橋の表情からも(18)田上の対応に苦戦している様子が見受けられました。
しかし、35分過ぎからはここまで述べてきましたように上下動を繰り返していた岡山の選手たちから疲れが見え始めます。各ポジションでプレスが掛からなくなり、横浜FCに自陣深くへとボールを運ばれます。
しかし、横浜FCもボックス手前でのパス、クロスのタイミングが味方と合わずに決定機を迎えるまでには至りません。
岡山はローブロックを組みますが、苦しい時間帯ながらもしっかり網を掛けてボールを奪う姿勢をキープします。
岡山のブロックを崩せない横浜FCはボールをハーフウェイラインまで上がってきた最終ラインに戻し、(3)中村からボックス内に走り込む(13)小川に精度の高いフィードを送りますが、ここは(4)阿部が冷静にシュートコースを消し、(13)小川のシュートもヒットせず(49)ブローダーセンの真正面へと転がります。
岡山の振る舞いが素晴らしかった点としては、このゴールキックをアバウトに前へ蹴り出すのではなく、横浜FCのトランジションの隙をついて(43)鈴木に持ち運ばせて(19)岩渕のフィニッシュに確実に繋げた点でした。両者のこの攻防からも、リードの保持と追加点への、双方への意識がバランスよく保たれている岡山のメンタル面での安定性も強く伝わってきました。
岡山は(27)木村が右サイドだけではなく、左サイドにも顔を出し、中央に(19)岩渕や(22)一美を残した状態で上がってきた(17)末吉をサポート、繰り返しになりますが岡山は追加点への意欲を失ってはいなかったのです。(27)木村は41分にも横浜FC、GK(21)市川暉記へ厳しくチャージ、ロングフィードを許しませんでした。
44分には岡山陣内中央に持ち運ぶ(24)福森に(19)岩渕がプレスバックでボールを奪い、持ち運んだ流れから(27)木村がシュート。枠を外れたシュートに対して、「枠に撃てよ、弾いたボールを俺が詰めるんだから!(推測)」と言わんばかりの(19)岩渕の悔しがりようからも、岡山の選手からはまるで後半終盤を迎えたような気迫が伝わってくるのです。
しかし、前線へ運ぼうとする気迫がついに岡山の追加点を生みます。
(※難波さんの投稿からお借りします。)
まず、このCKは、岡山自陣深い位置からボックス内へ進入しようとする(7)井上のドリブルを(6)輪笠がノーファールで防ぎ、岡山が攻撃へと移行し得たものでした。
このプロセスが素晴らしかったと思います。
横浜FCはマンツーマンでついていましたが、(4)阿部や(18)田上へのマークが強かったように見えました。
(22)一美はマークにつく(14)中野を外に巻いて(2)ンドカの前で高い打点からの落としを披露、ゴール前で(19)岩渕が相手を引きつける中、マークをふりほどいた(43)鈴木がプッシュします。
30分過ぎから追加点への執念をみせながらも、1点リードでもゲームプランとしては上出来であったであろう岡山にとって後半への戦いに向けて勇気となる追加点であったと思います。このセットプレーは各選手がマンマークにつく横浜FCの選手たちに個の強さで上回った場面であったといえます。
特に(22)一美は序盤から横浜FCの各DFを背にしながら、安定したポストプレーを披露、精度の高い落としをシャドーやWBに供給していました。このCK獲得に至る自陣での(2)ンドカを背にしたポストプレー、(19)岩渕への落としも同様です。
前半全体を振り返りますと、横浜FCの攻撃は主に①左サイドを崩す、②中央へロングフィードの交互の繰り返しになっており、岡山としては守備予測がやりやすかった。
そして、(15)本山や(27)木村を中心とした岡山右サイドの守備が横浜FC左サイドからの攻撃を上回った。
更には横浜FC(38)髙橋に岡山が(18)田上を中心に厳しく対応出来た点が、岡山優位のゲーム展開に繋がった大きな要因であったと考えます。
(4)相手と味方の力を使った一美の初ゴール 後半開始→47分
2点差をつけられた横浜FCは、1時間早く試合がスタートした長崎が勝利したこともあり(長崎4-1鹿児島)、この時点での横浜FCと3位長崎の勝点差は5となりました。横浜FCがこの試合で昇格を決めるためには、勝利以外に方法はなくなりました。
また2点ビハインドという展開も踏まえて、横浜FCは後半開始から(13)小川に代えてMF(10)カプリーニを投入します。(10)カプリー二が右のシャドー、(78)ジョアン・パウロが左のシャドーへとポジションを移します。
これにより、横浜FCは前半ほとんど見せていなかった岡山陣内右からの崩しに着手。(10)カプリー二は(43)鈴木の前方スペースで(43)鈴木を引き出しながらパスを受け、岡山の出方を探ります。
岡山としては不気味な立ち上がりでしたが、まだ序盤ということもあり、横浜FCが(10)カプリー二に多くボールを触らせようと集中してボールを集めていたことから、岡山(14)田部井は彼に縦パスが入ったところでプレッシャーを掛け、こぼれ球を鈴木が横浜FCボランチ脇にポジションをとる(22)一美へフィードします。
反転した(22)一美がドリブルでサイドに流れながら横浜FC陣内へ進入、最終的に4人に囲まれる場面がありながらも、中央に進出、シュートを撃つことが出来た要因には(19)岩渕のランがあったように思えます。
46分12秒のシーンがポイントであったと思います。
(22)一美の意図はサイドで起点をつくることであったと思います。
横浜FC(3)中村は縦を切り、(2)ンドカは中を警戒する。
対応としては何も問題ないと思います。
そして(22)一美にプレッシャーを掛けるのは後方外から迫る(8)山根ですので、ここで(7)井上が(22)一美にプレス、(8)山根と挟み込むことが出来ていれば横浜FCはボールを奪えていたかもしれません。
しかし、この時(7)井上は中央を走ってくる(19)岩渕を警戒し(2)ンドカに左後方のスペースに注意するよう指示を送っているように見えます。この動作が入ったことによって(7)井上の(22)一美への対応がワンテンポ遅れているのです。そして(2)ンドカは(19)岩渕の斜め外へのコースを警戒したことにより、(22)一美に中央へのドリブルスペースが生まれたのです。
(19)岩渕が先制点で見せたダイアゴナルランがこの場面で効いているのです。
それでも横浜FCは(24)福森がスライドすることで、(22)一美のシュートコースを消すことが出来る可能性もあったのですが、ここは(27)木村が右に開いたことで(24)福森を外に引っ張り出しているのです。
こうして(22)一美の前には「モーゼの十戒の海割」のようにシュートコースが生まれます。
ゴールに対して、若干右に開き気味な姿勢から右足を振る、過去のゴール動画から個人的に(22)一美が最も威力あるシュートを撃てる体勢になっていたと思います。
横っ飛びしたGK(21)市川の掌の前でバウンドさせるあたりも見事でした。
先制点でみせた(18)田上にも言えることなのですが、コンマ数秒単位で変わる局面に柔軟に頭と体が対応した素晴らしい動きで、前節いわき戦で最多のシュートを放った(22)一美の意欲が生んだゴールといえます。
筆者個人としては、(22)一美は劣勢の中でもゴール意欲を失わないタフな選手と認識していました。そのきっかけとなりましたのが、かの有名な2019シーズン最終戦、オルンガが8ゴールを決めた柏-京都戦です。
前半既に4失点を喫し、J1昇格へ非常に厳しい状況に陥っていた京都でしたが、ここで京都唯一のゴールに繋がった鋭いシュートを放ったのがこの試合にも出場していた一美であったのです。
こうしたサッカー選手として諦めない姿勢も岡山フロントが彼を欲しがった理由の一つであると考えますが、ストライカーの存在が大きくピックアップされている今回のプレーオフ争い、J1昇格争いにおいて(19)岩渕と共に更にストライカーとしての存在感を増してほしいと願っています。
(5)緩めない岡山 48分→55分
3点リードとなり、岡山の出方が注目されましたが、まだ後半開始当初ということもあり、基本的には前から行く、前へ運ぶという攻撃姿勢を維持した点は良かったと思います。
横浜FCのボール運びは再び左サイドが中心となります。
おそらく点差が開いたことで、右の(10)カプリー二により決定機に絡ませたい、そのために左から展開したいという意図があったと推察します。
しかし、前半からこのサイドでは岡山が優勢。5-4ブロックで引っ掛けたボールを再び前線へ。(27)木村のシュートに繋げてCKを獲得します。
このCKから横浜FCはロングカウンターに入るのですが、この後の(6)輪笠の素早いトランジションから自陣で横浜FCの攻撃を切った働きには痺れました。
2年前のゲームを知る選手も少なくなった岡山において(6)輪笠がこのゲームに出場した価値は非常に大きいものであったと感じさせてくれました。
この後の(6)輪笠は4点目のCK獲得に繋がるシュートを放ちますが、まさに「ボックス トゥ ボックス」の動きを体現していたといえます。
あれから2年、昨シーズンはアンカーとして時折辛酸を舐めることがあり、今シーズンは好調ながらも出番が限られる中、そのプレーは間違いなく成長し続けているのです。
さて、そんな(6)輪笠の成長から獲得したCKでしたが、キッカー(14)田部井の雰囲気には鬼気迫るものを感じました。
2点目のCKも高い所から落ちてくる彼らしい球質でしたが、このCKは今までの(14)田部井にみられないスピードが加わっていたと思います。
試合前は尊敬する横浜FC中村俊輔コーチと挨拶を交わしたと現地組の皆さまの投稿から知った(14)田部井でしたが、進化しているのはその闘争心のみならずキックそのものでもあります。16分にもあわやゴールインというFKを見せてくれましたが、相手の嫌な所に落とすボールが増えてきたように思います。これはひょっとしたらMF(33)神谷優太のキックの影響を受けているのかなと想像していました。
横浜FC守備陣からは今度はニアの(4)阿部を意識している様子が伝わってきたのですが、ニアでもファーでもなくその中間、中央寄りのスペースに(18)田上が突っ込んでくるというセットプレーでした。
ここではスペースの後方で(27)木村が(2)ンドカと(3)中村の2人をブロックしていたことが効いていたように見えました。
逆に言えば、横浜FCとしてはこの2人のポジションが被ってしまった点は痛く、(5)ガブリエウ不在の影響はこの場面で少し出たのかなという印象は持ちました。
(6)長きにわたるクロージング 56分→終了
55分という早い時間帯で岡山としては異例の4点リードという展開。岡山としてもこの先を如何に戦うのかという点は、判断の難しいところであったと思います。
木山監督も試合後のコメントで4点リード後の振る舞いについては経験不足と述べています。
横浜FCはまさかの4点ビハインドを受けて、開き直った面はあったと思います。ゲームは再びお互い非保持時にはしっかりとしたブロックを形成。改めてミラーゲームが強調されることになりました。
互いに落ち着いた流れでゲームを行えている点は、岡山にとっても無駄な消耗を避けることができ、好都合であったといえます。
ところが57分過ぎから岡山が横浜FC陣内でボールを持てたこと、ひょっとしたらボールを持たされてしまったのかもしれませんが、このことにより、岡山は5点目を獲りにいきます。獲りに行くこと自体は悪くないことなのですが、スコアイーブン時と同様に右サイドにコンパクトな陣形を敷いたため、割と岡山の左がオープンな状態になってしまいます。
ここを横浜FCに何度か狙われますが、当初は(17)末吉のトランジションの素早さで事無きを得ていました。
しかし、61分(17)末吉が左サイドでボールをキープ、右足側でのボールコントロールをミスしたところを(8)山根に奪われカウンターを許します。交代直後のCF(9)櫻川ソロモンを経由し、再び(8)山根へ。スライディングした(43)鈴木を躱され(8)山根は(49)ブローダーセンとの1対1を制します。
おそらく岡山が反省すべきはこの失点の仕方であったと思います。
ちょうどこの2~3分前から前線の(27)木村らの運動量が目に見えて落ち始め、その前の段階でも何度か横浜FCに裏返されそうになっていました。ところが岡山はこれまで同様に全体で前掛かりになってしまっていました。攻撃の分厚さは削っても、もう少しピッチを広く使い、最終ラインを下げても良かったのかもしれません。
つまりは同じコンセプトで戦い続けてしまったという点が課題であったと思います。
このゴールの直後に岡山は(19)岩渕に代えてMF(33)神谷優太を、(43)鈴木に代えてCB(5)柳育崇を投入します。
この交代自体は悪くないものと考えます。
おそらく4点リードの時点で木山監督には古傷を持つ(43)鈴木や(19)岩渕を休ませる考えがあった筈です。
しかし、出来れば4点リードの状態でスイッチ、チームに「構える」メッセージを伝えられれば良かったと思います。
(5)柳(育)は(43)鈴木がいたLCBにそのまま入ります。
彼を中央に配置し(9)櫻川に当たらせ、(18)田上をLCBに移す策もあったかもしれませんが、この日の(18)田上のデキを考えますとそのまま中央でプレーさせた方が良いと考えるのもごく自然な判断と考えます。
63分過ぎから岡山は(27)木村を中心に前からのプレスが掛からなくなります。一方で、横浜FCは交代出場のボランチ(34)小倉陽太が頻繁に前線に顔を出すことにより(10)カプリー二が中盤~前線で自由に動きます。こうした構図により、横浜FCがボールを持つ、岡山を押し込む展開へとゲームの大勢は変化していきます。
岡山としては、選手の運動量や交代策を踏まえても押し込まれること自体は許容していたと思いますが、最初の失点からわずか7分で2失点目を喫した点は計算外であったと思います。
69分、2失点目の局面に関しては(5)柳(育)がクロスに反応してしまい、背後のカプリー二をフリーにしてしまったことが原因といえます。
やはり、あのゾーンで(10)カプリー二をフリーにするとまず決められます。しかし、横浜FCとの人数関係を踏まえてもその前にマイボールを右サイドから持ち運ぶ必要があったのかという点は修正してほしい部分です。
この前に岡山は(99)ルカオを投入しており、単純に(99)ルカオを走らすボールでも良かったような気がするのですが、右サイドの(27)木村がこの時点ではほとんど走れなくなる程に消耗していたことから、後方の選手たちには自分たちで持ち運びたいという意識が強くなっていたのかもしれません。
ここまでのレビューで何度も(27)木村の名前を出してきました。それだけ前半から走り回った証でもあるのですが、少なくともこの日のベンチには彼の代えになりそうな選手がいなかったと思います。3点リードという点も踏まえて、木山監督も出来るだけ引っ張ろうとしたのかもしれません。
この段階で(29)齋藤恵太投入という選択肢もあったのかもしれませんが、試合時間がまだ長く残っていることを考えますと、前線の選手のアクシデントに備える必要性や万が一追いつかれた時に勝ち越す攻め手を残しておきたいという判断もあったと推察します。
しかし、横浜FCの強さを感じさせる2点目でした。岡山にはまだ2点のリードがありますが、わずか10分ほどの間に2得点を返した横浜FCに再び自信が蘇ったことは間違いありません。
ここからは80分台に突入する約10分の間に横浜FCに3点目が入るかどうかの勝負であったと思います。多くの岡山サポもそう思ったかもしれませんが、3点目が生まれていたらおそらく同点に追いつかれていた、ひょっとしたら逆転まであったと筆者は感じていました。
端的に述べますなら、これが自動昇格を争うチームの強さであるのでしょう。
横浜FCは70分に(38)髙橋に代えてCF(15)伊藤翔を投入。決め切る部分で勝負に出ます。
74分にはこの(15)伊藤がこぼれ球に反応し枠内にシュートも、ここは(18)田上がブロック、そして75分にはボックス内からシュートを撃ちますが枠外へと外れます。
この時間以降に関しては、残り時間と岡山の守備のデキを踏まえても、岡山側に何とか逃げ切れるかな?という感覚が芽生え始めたと思います。
(15)伊藤の2本のシュートがこの試合の勝負の分かれ目、分水嶺であったような気がします。スコア上は一時岡山のワンサイドゲームとなったのですが、勝負が完全に決したのは後半残りの15分を迎えてからでした。
やはり横浜FCから勝利するのことは簡単ではなかったのです。
3.まとめ
さて、今回は長きにわたりレビューしてきましたが、このままずっと味わっていたい、書き続けたい不思議なゲームでした。
この試合の勝敗を分けたもの、それは「意外性」であったのかもしれません。
横浜FCが前節の敗戦を受けて、自分たちのサッカーにこだわってきた分、岡山としてはその傾向を読みやすかった、研究が当たったという側面はあったかもしれません。
一方で横浜FCは、岡山がチームとして、選手個人としてまだ見せていなかった「奥行き」に困惑したのかもしれません。
前節いわき戦のレビューで岡山の最終盤に向けての残された伸びしろに期待したい旨を述べましたが、チームは期待以上の成長度を見せてくれています。
しかし、岡山はまだ何も成し得ていません。
これまで同様、この試合においても横浜FCは岡山に課題を与えてくれました。岡山はこの修正内容をポジティブな材料として消化しなくてはなりません。
一サポーターの私も次なる戦いへ進んでいかなくてはなりません。
岡山にとっては得点を奪うという長らくの課題について、ゴールを奪える自信や確信めいたものが生まれそうな、今後の戦いにも影響を及ぼす大きな一戦であったと思います。
J1昇格へ向けても最高潮のムードを迎えつつあり、大きな目標を持っているものとして、残り2戦を戦える点は対戦相手のモチベーションを踏まえても有利に働きそうです。
チームが一戦ごとに課題を克服し、進化している点も頼もしいです。
一方で、岡山のサッカーは球際を制してこそという点もクローズアップされました。これを一度裏返されると結果は全く異なるものになると点も踏まえておくべきでしょう。そういう意味では2失点は良い薬にしていかなくてはなりません。
次の藤枝戦も昨シーズンからの相性、試合内容を踏まえても決して楽な戦いにはならないと思います。まず、この試合で活躍した選手たちのコンディションがしっかり維持されること、そして押し込んだ際にやり切る覚悟、それを後押しする応援が大事になります。
勝ちましょう!
少々長くなりましたが、今回もお読みいただき、ありがとうございました。
※敬称略
【自己紹介】雉球応援人(きじたまおうえんびと)
地元のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。
鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。