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【ファジサポ日誌】128.一美和成の不在から考える ~第32節 水戸ホーリーホック vs ファジアーノ岡山 ~
山口○2-0、秋田●0-1、愛媛○3-0、水戸△0-0。
連勝できそうで連勝できない、プレーオフ圏内も全く安泰な状況ではなく、上位も含めて難敵との対戦を残すファジアーノにとって、サポーターにとってもモヤモヤする戦歴が続いています。
もう何シーズンも応援しているサポーター諸氏も多いので、恒例の終盤失速を予感する声もちらほらと聴こえてきます。J1昇格への期待の裏返しともいえる、そうした反応自体は仕方がないことであると筆者は思いますので、何とか不安の声を払拭していくようなチームの戦いぶりに期待したいです。
そうした戦いが出来るよう応援していくしかないのです。
何とかチームに「勝ち筋」を見出してほしいと願っています。
振り返ります。
1.試合結果&メンバー
岡山にとって久々のスコアレスドローとなりました。
順位自体は、岡山が得失点差でリードする仙台と勝点で並んだため4位をキープしたのですが、3位長崎との差は8ポイントに開き、やはり7位以下との勝点差がわずか3ポイント差に迫っていることを考えると、最近好調であったとはいえ14位の水戸相手のドローという結果については、負けに等しいものと言わざるを得ません。
そのように感じる一方で、この勝点1は改めて述べるまでもなく、GK(49)スベンド・ブローダーセンの驚異的なスーパーセーブ連発により得たものです。
攻撃が上手くいかない時は守備が助ける。そういう意味では攻守における補完関係は上手く機能していると言えるのかもしれません。
この勝点1が後々大きな意味を成すことを願い続けます。
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メンバーです。
岡山にはCF(22)一美和成の名前がありません。戦術的理由、コンディションいずれの理由によるのか測りかねますが、移籍加入後(22)一美が岡山の攻撃のキーマンであったことは間違いありません。
今節のレビューは彼が不在であった影響について自ずと触れていくことになります。
RWB(88)柳貴博も欠場しました。
彼に関しては最近数戦のパフォーマンスが最も良い時と比べると少々落ちていた印象もあります。
この試合を終えて、まだリーグ戦6試合を残す状況を考えますと、ここでリフレッシュさせた可能性も否定できません。
なお、こうした選手の動向については筆者は真相を求めませんので、情報提供は不要です。
RWBには(23)嵯峨理久が入りました。これに伴いWBのサブとしてレフティ(2)高木友也が久々にメンバー入りしました。
前節はCBの控えを置かないサブメンでしたが、今節は(5)柳育崇が控えます。
水戸の出方が注目でしたが、やはり最近結果を出していた3-4-2-1でした。岡山とはミラーゲームになります。
リーグ開幕当初のホームでの対戦時の水戸とは、体制、選手、サッカーの内容も全く異なります。別のチームと考えてよいでしょう。
ということで、筆者も事前に最近の水戸の試合を何試合か見ましたが、GKやCBの一部の選手には弱点があると踏んでいました。
しかし、この試合で水戸はこれらのポジションのメンバーをしっかり入れ替えてきました。
2.レビュー
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岡山の試合の入りは悪くはなく、序盤は最近勝利した山口戦や愛媛戦同様に、強いゴールキック、ロングボールから水戸のブロックを後方に追いやり、跳ね返しを水戸中盤~前線との間のスペースでCH(24)藤田息吹を中心に上手く回収出来ていました。
水戸の5-4ブロックは、同じシステムを採用していた前節の愛媛よりもタイトに見えましたが、岡山は自信を持って、狭いスペースにボール差し込み、両サイドのCBを中心に後方の選手の支援を受けながら、前線の選手がボックス内へと入り込んでいました。比較的シーズン当初の岡山の攻撃、とういうことは今シーズンのチームコンセプトに近い攻撃が出来ていたといえます。
ラストパス、クロス共にあとボール1個分合わせることが出来れば、コンマ数秒早く足を振れれば、水戸ゴールを陥れていた可能性は高かったように感じました。
しかし、前節愛媛戦と異なったのはこの時間にその「際」を制することが出来なかった、得点を奪うことが出来なかったことです。
よって、前掛かりになっている岡山は得点を奪えないまま、岡山のサッカーが本来持っているリスクそのままに、水戸のカウンターを徐々に受けるようになるのですが、序盤の岡山に関しては水戸のカウンターに対するネガトラもしっかりしており、大体が敵陣内での回収に成功していたといえます。
特にRST(39)早川隼平のファーストディフェンスがよく効いている場面も目立ちました。
しかし、前半の途中から得点を奪えない焦りからか、岡山各選手の前掛かりな「気持ち」はより一層プレーへと表れることになります。例えば(39)早川のボックス外からのシュートが、悉く対面する水戸の選手に当たる、縦の楔のパスに対する受け手のポジションが前方に向かい過ぎる傾向です。
こうしたプレーから、水戸のカウンター、そしてインターセプトを誘発する場面が増えていたといえます。
(1)一美不在の影響
上述しましたような試合の流れから(22)一美不在の影響を筆者は強く感じました。岡山の攻撃面から具体的なシーンを挙げて考えてみたいと思います。
まずは39分42秒~の場面です。この場面を起点に岡山の攻撃について考えられることは非常に多かったと筆者はみています。
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まず場面説明からなのですが、岡山CF(99)ルカオが水戸GK(25)富居大樹に戻されたボールに左から制限をかけて右に蹴らせて、CB(18)田上大地が読み良くセンターサークル付近で回収、水戸の選手間で受けにきた(24)藤田(息)にパスを出します。
岡山の奪還⇒攻撃への移行が高い位置で行えていた場面でした。
(24)藤田(息)は前線から下りてきた(99)ルカオに縦パスを入れましたが、これを水戸CB(5)楠本卓海がインターセプト、一気に前線のCF(22)久保征一郎に通し、水戸のカウンターとなりました。
この試合、同様のパターンから岡山がロスト、水戸のカウンター、決定機に繋がる場面が多かったと思いますので、代表例として採り上げました。
まず(24)藤田(息)がパスを出した(99)ルカオの状況ですが、背後に(5)楠本にピッタリとつかれており、インターセプトを狙われている状況にあります。もちろん(99)ルカオとしては(5)楠本を引き出す意図を持っているため、下りてきているのですが、結論から述べると(22)一美であればここはロストしなかった可能性が高かったのではないかと感じました。
(22)一美の最近数試合のプレーを観ていてそのように想像するのですが、おそらく(22)一美であればもっと大胆に明確に中盤方向まで下りてくるからです。おそらくマークについてくるCBから逃げながらスピードを維持して下りてくると思います。そしてボールを受けると、一度長めにボールを蹴って更に相手との距離感を保ちます。そこから逆方向に鋭くターンして前方の走り込むシャドーに縦パスを差し込んでいたと思います。
(22)一美の良さのひとつは、これらの一連のプレーを狭いエリアで非常に無駄なくコンパクトに出来る点にあります。
(9)グレイソンの場合は、同様のプレーを背後に敵を背負ったまま、ワンタッチでシャドーに難なく叩いていた点が驚異的であったのです。
(9)グレイソンと比べると(22)一美の場合は、縦へ出す、シャドーに叩くまでに少々手数を要するのですが、それでも一連のプレーの精度は明らかに高いのです。
岡山の攻撃のチームコンセプトを体現する上では最適な人材であったことがこうした場面からも浮き彫りになるのです。
ただ、こうしたプレーが多くなればなる程、チームのチャンスは増えますが、(22)一美自身はゴールから遠ざかる位置で仕事をすることになります。移籍後初ゴールがなかなか生まれないのはこうした要因によるものと筆者は考えています。
(22)一美はここから更にゴール前に走り込んで自ら得点するプレーにチャレンジしているという現状なのでしょう。
これが出来るようになれば、彼は「スペシャルな」センターフォワードに進化します。期待したいと思います。
こうしたことを述べていますと、改めて(9)グレイソンの凄さも際立ってくる訳です。
ここで誤解してはいけないのが、(22)一美の不在に関して、この試合に出場していた前線の選手たちが無策であったかといえば、決してそうではなかったということです。
まず(99)ルカオに関してですが、この試合もフルタイムでプレーしていたことからも状態の良さが伝わってきます。本来、得意ではないはずの中央で収める仕事も(99)ルカオなりに行えていたのです。
実際に背後のDFを剥がせそうなシーンもあったのですが、あくまでも「剥がせそう」で終わっているシーンも多かったと思います。
つまり、出来そうなので、周囲の選手もパスの第一選択を中央の(99)ルカオにしてしまう、そのような関係性がこの試合全体から読み取れてきました。
パスネットワーク図(SPORTERIAより)から(99)ルカオがパスを受ける位置に注目していただきたいのですが、前後半を通じて中央寄り(センターサークルのゾーン)であることがみえてきます。
一方で、今シーズンの(99)ルカオのベストパフォーマンスが発揮された試合と筆者が考えている第17節の仙台戦(4-1)をみてみます。
試合展開の違いはある訳ですが、水戸戦と比べると横幅を広く使ったプレーぶりがみてとれます。
試合が進むにつれて、特に終盤、岡山がCF(11)太田龍之介を投入して2トップにしたことから(99)ルカオは得意のサイドに流れるプレーも見せ始めますが、結果的にはもう少し早い時間帯からサイドに流れて、水戸の最終ラインに混乱を与えても良かったのではないかと感じています。
楔のパスを受ける仕事に関しては(39)早川も積極的に取り組んでいる様子がみられました。彼の個性が活きる仕事と筆者は考えているのですが、一方でチームとしてはシャドーとして積極的に裏に抜けるプレー、自ら決めるプレーを求められている様子が、試合中の彼に対する指示の様子など、これまでの試合からも伝わってくる部分があり、今回の水戸戦に関してはプレー選択に迷いがあるようにみられました。
では、この39分の場面で岡山はどのように攻撃するべきであったか、これも試合全体を通じては、全く出来ていない訳ではなかったのですが、図の黄色点線で示したように、フリーの(39)早川にパスを出す、そして(23)嵯峨を右のスペースに走らすボールを出すといった選択肢があったと思います。こうしたパスをもっと増やしても良かったと思います。
(88)柳(貴)とは異なり、(23)嵯峨の場合は前線で収め役になったり、ボックス内で仕留める仕事が得意な訳ではありません。彼の強みが発揮されるのは、やはりクロッサーとしての役割においてです。
その嵯峨がクロス0で試合を終えています。
彼自身のデキの問題もあったのかもしれませんが、彼の強みを活かすのであれば、もっと水戸の帰陣前にシンプルに3CB脇に差し込むボールを配球しても良かったと思います。
3CBの脇をねらう、これは鉄則ですし、逆に水戸は鉄則どおりに攻撃が出来ていたといえます。
話が少々逸れましたので元に戻します。
ではなぜ、(24)藤田(息)はこの場面で相手DFを背負っている(99)ルカオにパスを出したのか?
それはCFに当ててシャドーが追い越す「縦に速い」攻撃が岡山のチームコンセプトであるからです。
チームコンセプトに各選手が忠実にプレーをした結果、却って水戸の守備に的を絞らせてしまい、数多くの水戸のカウンターに繋がったと考えます。
おそらく(22)一美がいれば、この縦に速い攻撃を完結出来ていた可能性はもう少し上がったのかもしれませんが、この日の各選手が(22)一美の不在をカバーしようと頑張った結果、もう少しで崩せそうな惜しいシーンも見られ、そのことが却ってチームを中央突破に固執させたのかもしれません。
(22)一美不在からここまで岡山の攻撃について考えてみましたが、いったんこの日のLST(19)岩渕弘人について考えてみたいと思います。
(2)岩渕の孤立
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時間が遡りますが、25分43秒~の場面です。
岡山の保持から水戸陣内右サイドで(23)嵯峨がボールを持ち(19)岩渕へパスをつけます。パスを受けた(19)岩渕は左横(体の向きでは後方)の岡山の選手が誰もいないスペースにヒールパスを出してしまいます。
(39)早川が慌ててサポートに入りますが、水戸CH(10)前田椋介に回収されてしまいました。
(19)岩渕は後方からの走り込みに期待していたのかと思います。そういう意味ではこの試合では(24)藤田(息)やCH(14)田部井涼との呼吸が今ひとつという場面も多く感じられました。
同じ3-4-2-1を採用している横浜FCの試合をみていますと、このような場面でボランチの(4)ユーリ・ララが走り込んできます。
おそらく今の岡山に不足しているのは(24)藤田(息)や(41)田部井のパスを出した後、またはオフザボールからの前線へのランなのだと思いました。しかし、これも全く出来ていない訳ではないですし、山口戦以降は寧ろ積極性が伝わってきていますので、頑張ってもう一ギア上げてもらいたいと思っています。
そして、こうした(19)岩渕のアイデアを引き取るプレーすらも(22)一美は下りてこなしていたなと記憶しているのです。
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一美と岩渕の距離感
この試合では、まさにこのゾーンでの岡山のロストが多く、主に(19)岩渕の孤立が原因になっていたと思います。(22)一美不在の余波はこんな点にも現れていたのかもしれません。
3.まとめ
さて、この試合は終盤の岡山のふるまい方が妥当であったのかや、(49)ブローダーセンのスーパーセーブについても触れたいところであるのですが、筆者のレビューは論点抽出型な上に、今節はここで力尽きましたので、他のレビューを参考にしていただきたいと思います。
選手も監督も、チーム全体は努力をしていると筆者は思います。
その証に、今節は欠場者が出ましたが、各選手のコンディションも安定し始め、当初チームが目指していたサッカーを出来るようになってきています。
しかし、得点を奪うという面においてはやや手数が多い仕組みであるため、得点の局面で細かい精度や攻撃全体ではより一層のスピードを求められる仕組みでもあると感じています。
今回のレビューで述べてきましたように、試合状況に応じて柔軟に攻撃方法を選択してほしいとも思うのですが、岡山の選手は皆、(サッカーのプレーの面において)愚直で真面目な選手が多いので、チームコンセプトに忠実であり、その姿勢が却って結果が出ない要因になっているのかもしれません。
しかし、一度ゴールが決まれば絶賛されるであろう攻撃ともいえます。「攻撃スタイル」を長年構築出来なかった岡山において、若干個の能力に依存がちではありますが、結果を求めながら築き上げようとしている木山監督のチャレンジの凄さ、そして困難さを最近になりようやく筆者も理解できるようになった気がします。
ですから、今のチャレンジをやり切ってほしいとも思いますし、チームがあと少しの精度、スピードを出せるよう応援していきたいとも思うのです。
そして、そのためには(22)一美の力が必要なのです。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
※敬称略
【自己紹介】雉球応援人(きじたまおうえんびと)
地元のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。
鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。