大根のさやを売る。野菜の常識にとらわれない売り方
中小企業診断士のフクダです。
先日、浦和にある地産地消セレクトショップ「ECCOLA」を訪れたところ、さいたまヨーロッパ野菜研究会の「カーボロネロの蕾(つぼみ)」が売られていました。
カーボロネロはキャベツの仲間ですが、春になると小さな菜の花状の蕾をつけます。小松菜や白菜、ケールなどのアブラナ科の野菜も、この時期一斉に花をつけます。
それぞれ少しづつ味が違っていて美味しいのですが、なかでもカーボロネロの蕾は旨味と甘味が強く、レストランの方々にも人気です。
少し前まで、こういった「本来は売らない部位の野菜」は、農家だけが食べていて一般には出回らないものでしたが、最近では工夫して直売所などで販売する生産者が増えています。
浅野さんの畑で受けた衝撃
千葉県八街市にある、エコファームアサノの浅野さんをご存知でしょうか。
全国のトップシェフ達がこぞって浅野さんの野菜を求めることで知られていて、NHKの「プロフェッショナル」などでも取り上げられた、業界内ではレジェンド的な存在です。
2014年5月、私が事務局を務める「さいたまヨーロッパ野菜研究会」の生産者メンバーと一緒に、浅野さんの畑を見学させていただきました。その時の衝撃は今も忘れられません。
そら豆の花も葉も食べる
ファーベという、西洋種のそら豆の畑に着くと、浅野さんはそら豆の若葉をちぎって食べさせてくれました。葉っぱも、そら豆の味がする! さらに花も。そら豆の香りだ!
浅野さんは、シェフ達の要望に応じて、そら豆の実だけでなく花や葉も商品として出荷していました。
さらに、収穫期がとっくに過ぎた大根の畑へ。
白い花が咲いて、菜の花のようなサヤもついています。そのサヤと、中の小さな実も食べさせてくれました。鼻を抜けるピリッとした辛味、大根の味だ!
和食のお店で、ブリの照り焼きなどに、大根のサヤを添えて出すそうです。
同行した生産者は、「普通の農家が大根の花なんか咲かせていたら、あそこのウチは頭がおかしくなったのか?って近所から言われる…」と驚いていました。
売り物にならないサイズも、雑草も「商品」
ジャガイモも、普通は商品にならないような小さいサイズのジャガイモを「ビーンズポテト」と名付けて売っていました。言われてみれば、肉料理の付け合せに丁度いいサイズです。
さらに驚いたのは、鉢植えの花として一般的なベゴニアの花や、雑草のカタバミまで「商品」としてレストランに出荷していたこと。ベゴニアの花は鮮やかな赤で酸味があり、デザートなどに使われるそうです。カタバミもレモンのような酸味があり、サラダのアクセントになるとか。
もちろん、野菜によっては有毒だったり食べられない部位もありますし、普段食べない部分を売るには農薬などの問題もありますが、浅野さんはそういったことも知り尽くして野菜を売っていました。もはや野菜というより浅野さんの「作品」です。
市場に出ている形の野菜だけを売らなくていいんだ、農業って思っていたよりずっと自由だな、と思いました。
レストランからの意外な注文
その後、レストランとの付き合いが深まるにつれて、シェフたちから意外なリクエストが来るようになりました。
「いちじくの葉が欲しい」(肉などを包んで焼き、香りを移すそうです)
「ぶどうの若葉が欲しい」(中東などでは肉を包んで煮込み料理にします)
「さやえんとうのつるが欲しい」(サラダなどに使います)
「カボチャの若葉が欲しい」(イタリアでは煮込んで食べるそうです)
決して大量ではありませんが、「こんなものまで売れるんだ!」という驚きと、世界では実にいろんなモノを食べているのだなあ、という興味を感じました。
意外、という意味では、日本では「実」を食べることが一般的なズッキーニも、イタリアでは花をよく食べます。エディブルフラワー的な飾りではなく、大きな花弁で肉やチーズを包み、「野菜」として食べます。
この花ズッキーニは、初夏のヨロ研名物でもあり、人気野菜の一つです。
裏メニューを出す面白さ
生産者と話していると、「商品としては出さないけれど、農家では食べている」という裏メニュー的な部位が結構あります。
冒頭の白菜や小松菜の蕾のほかには、ねぎ坊主(花が開く前の蕾。天ぷらにする)、長期熟成させてしわしわになったジャガイモ(見た目は悪いが糖度は上がっている)など。収穫期が短かったり、説明しないと売りにくかったりして、なかなか商品として出回りにくいものです。
食べ物ではありませんが、徳島の「葉っぱビジネス」で有名な「いろどり」のように、野山の草花を「つまもの」として売るビジネスもあります。
大量出荷してビジネスになるような作物は多くないものの、野菜の常識にとらわずに、「えっ、こんな食べ方もあるんだ!」というサプライズを提供していくのも、農業の差別化・ブランディングのひとつだと考えています。
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