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振り返られなかったものがひとを動かす

行ってまいりました、渋谷区立松濤美術館
須田氏の作品は、以前に超絶技巧をテーマにした別会場で目にしたことがありましたが、やはり作家個人の展覧会ですとそれ独特のムードがあってよろしいですね。
今回は、この趣ある建物自体とコラボしたような展示でした。
各所に大きな鏡やソファが据えられてある非日常の空間でして、ゆったりと思索にふけることができそうな設えです。
こぢんまりとした円形の会場の中庭には、美しい噴水があります。

須田氏の木彫作品は、写実性が高いという言葉をとっくに通り越した、ほとんど本物です。この会場の中で、氏が思うところに自由に作品を配置しています。

《雑草》1995、2024年、木に彩色
《雑草》2002年、木に彩色
《雑草》2020年、木に彩色
《雑草》2024年、木に彩色
《ドクダミ》2024年、木に彩色

会場を進んでいると「おおっこんなところに人が!蹴らなくてよかった」というような位置でしゃがんで写真を撮られている方にでくわしたりします。
わたくしが特に惹かれたのは下記のムードでした。

《朝顔》2024年、木に彩色
本当に蔓が生えているような角度

ダークブラウンと青紫のコントラストに、細い繊細な蔦。まるで日本画から飛び出してきたような一場面。
そう、現実には、こんなに美しい角度と必要部分の植物だけを空間に切り取ることは不可能ですが、インスタレーションだから、それが叶うのです。

《スズメウリ》2024年、木に彩色

まるで一輪挿しのように、空間を相手に生け花をしているようです。
会場のそれぞれの部分が、まるで茶室の中のようなムードでした。
照明と、陰も作品です。

《コブシ》1994 年頃、木に彩色

たったひとつの作品で、静謐な空気が生まれる。
しかも、それを特別でないどころか、雑草と呼ばれる草花で現してみせるのが、氏の狙いだったのか結果としてそうなったのか。
いずれにしても、鑑賞者のひとびとは地べたの作品に接近して熱中されておりました。

《朴の木》1992年、ミクストメディア

細長いブースの大型インスタレーションもありましたが、やはり今回はこの建物に直に命をふきこんだ作品群が、心に残りました。あちらこちらの会場に移動できない、空気感まるごとの芸術です。

《ガーベラ》1998年以降、水彩、鉛筆、紙
《ガーベラ》1997年、木に彩色

乱暴にひとを驚かせるようなやり方ではなく、静かに見つめさせる作品群に、品を感じます。

壁面にあった遊び心

近年は、古美術品の欠損をその木彫り技術で補う補作活動もされているようです。ああ、確かに、誰もがお願いしたくなるでしょう。

《春日若宮神鹿像》《五髷文殊菩薩掛仏》鎌倉時代、須田悦弘補作:角・榊・鞍・瑞雲

会場の場所柄なのか、わりと若めの男性がひとりで案内図を見ながら
「どこだ、ここ、19番?」などとつぶやいていたり
唇を尖らせ、頷きながら作品を離れたり、それぞれ係員に話しかけていたりと、静かながらも明るい雰囲気の観賞スタイルでした。良いですね。
この館自体も、魅力的です。
また折々に訪れたいと感じました。


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