辞めたいのに辞められなかった剣道②

4年目の中頃に2度目の退会意思を母に伝え、玉砕し、失意の中惰性だけで剣道を続けていたのだが

5年目で少しモチベーションの上がる出来事が起こった

遠隔地から転校してきた同級生も剣道を始めたのだが、彼とは不思議と馬が合ったのだ

元々剣道を習っていた彼はスポ少の中でも高い実力を身に付けていたのだが、底辺レベルの実力しかない俺にも分け隔てなく接してくれたし

ゲームが好きだと言う共通点で会話がしやすかった

そんな友達が今度は剣道を続ける理由の一角に上がってきたのだ

自発的に剣道を続けることに曲がりなりにも再び理由を見つけてしまったお陰で小学5・6年と続けられてしまっていた


その傍ら、同級生以外の部分から疎外感を覚えるようになっていた

スポ少の保護者会。要は入会している子供たちの親だ

大会があるとなれば彼ら(主に母親たち)が、選手として参加する子供たちのサポートに回ったのだが

試合では補欠に甘んじる事が多い上に、出場してもほとんど勝てない俺を見る目は冷ややかに見えた

地元では良い意味でも悪い意味でも有名だった我が家なので元々目立つ存在だったのだろうが

それに輪を掛けて
『試合に出しても使えない雑魚』
『何の為にここにいるのか分からないヤツ』
『チームに貢献出来ない存在』

のような属性まで付与されたのだから格好の差別対象となった

俺が用事があって声を掛けたときに機嫌悪そうにぞんざいに返事するくせに他の子が声をかけると普通に穏やかにやり取りしたり

いきなり後ろから「オラ、邪魔だ」肩を引っ張り押しのけられたりと邪険にされることはもちろん

穏やかに対応してくれる人でも

「あっ、戻ってきたの。はい、お昼ご飯だよ」と俺に弁当を差し出したくせに、その直後、後からやってきた子に

「ほら〇〇君これ!」と言って持っていた弁当を横にスライドさせその子に渡し、それに続いた他の子たちに続々と弁当を渡し続けて

一番乗りだったはずなのになぜか一番最後に回された挙げ句に弁当の数が合わなくて結局俺の分の弁当が無かったなど

今考えれば明らかに『もし自分の子供がこんな目に遭っていたら抗議しに行きたくなる』状態だったことを覚えている

自分の親はこうした場にほとんど顔を出さなかったので、その場で味方に立ってくれる人は居なかった

おそらく親が居た場合は俺に対しても当たり障りの無い対応をしていたのだろうとは察しが付く

『この大人たちはおかしいのかもしれない』という気持ちを『子供は大人の所有物だから仕方ない』で圧し殺すしかなかった

自分の親以外で、保護者会にいた親たちの中で一番信頼出来たのはやはり転校してきた同級生の親御さんだったのだが

そういう人に限って大会関係に顔を出す事が少なかった

うちの親同様、他所から引っ越してきたという事で保護者会の中ではハブられる事が多かったのかも知れない

うちの母親とも仲良くさせて貰っていたので、あの鬱屈とした小学校のPTAの中でも母にとっては貴重な、安心して接することが出来る人だったと言っていた


そういった別角度からの『居づらさ』も生まれていたため、中学に上がると同時に辞めようかと思案していた頃だった

親戚のとある人が自宅に訪れていた

親戚と言ってもその人は【母方の祖母の姉妹の夫】という遠めの親戚なのだ

その人からしてみれば俺の家など【妻の姉妹の娘の嫁ぎ先の家】なのだが何故かそこにいた

とは言え、知らない人が祖父の客として家に上がって来るなどよくある事だったので、言うほど不自然な事でも無かったのかも知れない

その人は市内では名前の知れた市議会議員だったのだ

ちょうど日曜の剣道の練習からの帰宅時だったので、道着姿で挨拶を交わした時だった

「中学になっても剣道続けろよ、辞めたら殴るからなww」

と笑いながら言われたのだ

この頃、冗談の概念についての理解が自分の中で追い付いておらず、本気だと思ってしまった俺は「はい」と答えてしまった

これが大きなブレーキを掛けてしまった

なんと〔コイツ〕は市議会議員を務める傍ら、市内の剣道連盟の重役も務めるほどに剣道熱心な人でもあった

ハッキリ言えば

脅されたと思った

もし辞めでもすれば、どこからかその話を聞き付けて本当に殴りに来ると思った

親戚関係な上に、現に家もバレている

連盟の重役であれば誰が剣道を始めた・辞めたことくらいすぐに分かってしまう。と、当時は思ってしまった



それに輪を掛け、小学校卒業直前の練習最終日のこと

剣道の先生が皆の前で「中学に上がっても剣道を続けようと思う人手を上げて?」

と尋ねてきた

スポ少の方は小学生が対象の団体なので、卒業したらもう終わりなのだが(たまに練習に来るOB中学生も居たが)

中学には剣道部が存在していたので半数以上の人はエスカレーター式に剣道部に入っていた

先生の問いかけに対して、この時点で【辞めたら殴られる】と思っていた俺は真っ先に手を上げた

それに続いて、卒業生である同学年の面々全員が挙手をした

今まで面倒を見てくれた先生の前で挙手した以上、もう後に戻れない。辞めるわけには行かない

そう思った


翌月、中学校の剣道部の練習場に行くと、卒業したのはスポ少のメンバーは俺を含めて6人だったはずなのだが5人しか居なかった

居なくなった1人に後日会い、何故剣道部に入らなかったのか聞いたところ

「いやぁ バレーやりたくなったんだ」

とあっさり返されてしまった

「え~ 裏切り者ー」

と当時はぼやいてしまったが、本来ならばこういう決断を下せることこそが当たり前なのである

自分のやりたいものを選んでやる

剣道を辞め、自分のやりたいことを選んで行けるくらいに心に束縛が無かった彼が二重の意味で羨ましかった


蛇足になるが、子供に向かって冗談を言う人間には絶対になりたくないと思っている

そもそも、【冗談】とは【嘘】である

即座に嘘であると白状する、もしくは信頼関係が出来ていなければ成立しないものだ

子供に対して「【嘘】はいけないよ」などと教育しておきながら【冗談】という形で平気な顔をして【嘘】をつく

そんな汚い大人になって恥ずかしくないのだろうか

ああ、【嘘】まみれの世界で生きてきた人だからそういう感覚が麻痺してるんですかね?

あの親戚様()は

この事件については未だに母と意見が対立しているのだが、その事についてはまた別の機会に話そうと思う



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