中村正憲

漁労、採集、焚き火好き。イタリアワインと欧州サッカーファン。時々チャリダー、放浪癖あり…

中村正憲

漁労、採集、焚き火好き。イタリアワインと欧州サッカーファン。時々チャリダー、放浪癖あり。長崎出身

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熱血作文教室、出版しました

 実はこの手の本を書くことを、正直、ためらっていた。斎藤美奈子の「文章読本さん江」(ちくま文庫)を、読んでしまったからだ。「教えたがりのおじさんたち」が、上から目線で訓を垂れる文章指南書の数々を、斎藤は分析し、批評した。谷崎潤一郎であれ、丸谷才一であれ、本多勝一であれ、大御所たちの「痛いところ」を小気味よく俎上に乗せて、実におもしろい。  斎藤によれば、こうした文章読本は4桁の大台に乗るほど出版されているという。「ワシの説」の開示に熱中するさまは、美声を聞かせようとカラオケ

    • 赤島に渡る(下)

       14年前に亡くなった父親は、五島の赤島についてあまり多くのことを語らなかった。  父は、19歳で陸軍の特別幹部候補生の試験を受けた矢先、結核で長崎医科大の病院に入院させられた。昭和20年春、転地療養を薦められ、赤島に渡った。五島の福江島は長崎市から西へ100キロ、赤島はそこからさらに12キロ離れた孤島である。不遇をかこった辺境の名もない島での療養生活だ。子に語るような誇れる話は何もなかったに違いない。  だが、父に聞いた三つの出来事を僕は覚えていた。  代用教員を務め

      • 赤島に渡る(上)

         「長崎原爆の日」には、ある離れ小島のことをいつも思い浮かべる。何十年も空想してきたから、島のイメージは妙にクリアだ。ごつごつした磯を見下ろす台地に建つ木造校舎。赤茶けた土の校庭。眼下に波が打ち寄せる。視線を上げれば大海原を白いウサギが跳ねている。国民服を着た100人ほどの小学生が校庭に整列し、若い男の先生の話を聞いていた。  島の名前は赤島。長崎県の五島列島の南に、誤ってこぼした墨の一滴のように浮かんでいる。周囲は5キロほど、1時間余りで島を一周できる。道があれば、の話だ

        • 映画オッペンハイマー鑑賞談

           「原爆の父」と呼ばれたオッペンハイマー。 祖父母はじめ身内に被爆者がいる長崎出身の私が見ても、不快感は抱かなかった。よく出来た映画である。  確かに、作品の中でヒロシマナガサキに落とした原爆のニュース映像ぐらいは使って欲しいと思った。だが、「原爆が戦争終結を早め、多くのアメリカ人の命を救った」という単一思考から抜け出せない核大国アメリカで制作された事情に鑑みると、そこが限界なのだろう。  しかし、ノンフィクションのエンタメ映画として「原爆製造」の負の側面に、これほど光を

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        熱血作文教室、出版しました

          もしもパスポを失くしたら(完結編)

          7月10日、首都ウランバートルでは、夏の祭典ナーダムが始まった。京都の祇園祭さながらに、目抜き通りを様々な民族衣装の人たちが行進していた。この日は前夜祭の宵山みたいなもの。町は浮かれているが、私の心は沈んだままだ。  パスポートを手に入れなければ、日本に帰れない。   警察署から戻ったホテルで、ポーズ(包子)を食べながら、旅アプリ「スカイスキャナー」と格闘した。日付と行きたい場所を入力すれば、格安航空券が安い順番に並ぶ。明日には帰れるだろうと踏んで、11日の帰国便を

          もしもパスポを失くしたら(完結編)

          もしもパスポを失くしたら(中編)

          帰国の朝、ウランバートルでパスポートを失くした。空港まで行ったが、どうにもならなかった。 街は、明日(11日)から始まるモンゴルの夏の祭典「ナーダム」の看板であふれていた。この期間、ホテルは満室、飛行機は満席、15日まで全ての公共機関が休みに入るという。 やっば! 今日中に再発行の手続きを踏まないと、帰国は相当先になる。 救世主が現れた。慰霊団に同行していた在大阪モンゴル総領事館のTさんが、日本に留学経験のある弟のDさんに電話を入れて、午前中だけアテンドを

          もしもパスポを失くしたら(中編)

          もしもパスポを失くしたら(前編)

          海外旅行中、言葉が通じない国でパスポートを失くしたら路頭に迷います。間違いありません。その状態は、茫然自失、顔面蒼白、孤立無援という四文字熟語がよく似合います。私がそうでしたから、確信を持ってこれは断言できます。  早く日本に帰りたいと思うなら、最初にすることは三つ。 1 探すのをあきらめる(これがなかなか難しい) 2 大使館か領事館に電話する(日本語を話せる人がいます) 3 必要書類を集める 最も難易度が高いのが3です。 必要書類は以下の通り。 A 現地の警察

          もしもパスポを失くしたら(前編)

          さまようダイオキシンの行き場

           26年前の4月16日、大阪市内のメルパルクホールで記者会見が開かれた。大阪府能勢町と豊能町の町長が、ある数字を発表した。両町が運営する焼却場近くの池の泥から、1グラム当たり23000ピコグラムのダイオキシンが検出されたと言った。その時から、ダイオキシンという物質の毒性が、全国に知れ渡ることになる。  四半世紀が過ぎて、ようやくダイオキシン汚染物の処理場所が決まったと24年3月5日、各紙が報じていた。いったい、なぜ、こんなに時を要したのか。発覚当時から2年にわたり、能勢町へ

          さまようダイオキシンの行き場