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【読書記録】世界(2022年1月号) / 岩波書店
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ケアに関する4つの論稿が収められています。
最近、フェミニズムに端を発した倫理(ケアの倫理)や正義論に興味がある。この倫理の根底には、愛情や精神的抱擁みたいな価値観がある気がする。
以下、自分用の学習記録として要約。
1つ目 は難しかった・・・。ケアの本質を探究する哲学的な硬派な考察で、情報量の多さ、抽象度の高さ、議論の階層の多さなどからしてもきちんと理解するには苦労した。
■1.ケア/ジェンダー/民主主義 (岡野八代)
(1).ケアとは
①.食事や身の回りの世話など、生きるために必要なニーズを満たすこと。
②.不必要な痛みや苦しみを避けたり、緩和すること。
③.基本的な潜在能力を発展させたり、維持すること。
(2).ケア労働の特徴
a.ケアの受け手と与え手の心理的な関係性(親密さや敬意など)を必要とする。
b.ケアの受け手の生物学的な個別性や社会的な個別性(人格や個人史、価値観など)により、そのニーズの個別性も高く、細部までマニュアル化できない。
①.a&bより、ケア労働は、ケアの受け手への強い人間的関心が必要であり、また労働集約的であるため、効率化や機械化に馴染まない。
c.ケア労働が生み出すものは、ケアの受け手の福祉であり、抽象的にしか捉えられない。
d.他の財やサービスと異なり、ケアの受け手が、直接的にその対価を支払うわけではない。
②.c&dより、現在の資本主義経済の価値基準では、ケア労働を正当に評価することが難しい。
③.①&②より、ケア労働の報酬水準は低く、ケア労働者は誰かに経済的な依存(二次的依存)をせざるを得ない。
(3).ケア労働者と民主主義
これまで私たちは、ケアと女性らしさを強く結び付けて女性をケア要員としてとらえてきたし、近年においては外国人をケア労働者としてあてがったり、歴史を遡れば奴隷をケア労働者として扱ってきた。
これは、前述の特徴から、ケア労働者は二次的依存(経済的な依存)をせざる得ないため、社会的な立場や政治的な影響力も弱く、社会や政治の辺縁に置かれてきたことと無関係ではない。
人は、誰もがケアを受けている。自分がケアとは関係ないと思える人がいるならば、それはその人が自立した存在であるからではなく、誰かがケアを担ってくれていることに気が付いていないだけだ。
民主主義がもし「あらゆる者に関わることは、それに関わるすべての人が、その決定に等しく関わる」ことであるとするならば、ケアを政治の辺縁から中心へと移し、二次的依存をせざるを得ないケア労働を、社会全体で支える仕組みを考えなければならない。
■2.ケアから社会を組み立てる(村上靖彦)
代表制や多数決に重きを置く現制度下では、隙間に置かれた少数派(生活困難家庭など)を捨て去る事態が発生する。このような社会のオルタナティブとして、一人ひとりの声を聴き、誰も取り残されない民主主義社会を提案する。必要なものは以下。
(1).トップダウン的な取り組み
①教育や福祉に関する既存制度の改善
②(政治や社会が)社会的包摂を土台とした社会を希求すること
③ケア労働に関する価値観の逆転
(2.)ボトムアップ的な取り組み
①無条件に存在が肯定され、また社会との接点ともなる「居場所」を地域 社会に複数つくる
②生活困難者などを見つけるための「アウトリーチ」を重層的につくる
■3.グローバルなケアの分断 (定松文)
途上国農村部の女性が、自分の家族を故郷に残し、途上国都市部や先進国でケア労働を提供している。
この構造は、故郷に残された家族からケアを搾取するものである。さらに、ケア労働者の待遇は一般的に良いとは言えず、家族とも離れて暮らすことになるため、ケア労働者自身の物質的および精神的幸福も害している。
日本における外国人家事支援事業等も、ジェンダーとエスニシティ(民族性)の分業を意図的に創り出すものであり、それはレイシズムを助長する可能性がある。
■4.保育問題を無視してきた政治家たち(エミリー・ペック)
他の先進国と異なり、米国には公的な保育制度がない。
保育所や託児所の利益は、子どもたちや保護者、さらには社会全体で共 有されているため、他の生産活動とは異なる基準で評価される必要がある。それにも関わらず、保育の存在を既存経済システムの辺縁に置き、軽視してきた。
その歪みが新型コロナのパンデミックで浮き彫りになったため、バイデン政権が福祉政策を転換しようとしている。