「しぶい」効き方をする「強心薬」
ここまで、ほぼ触れてこなかった、心収縮能と、「強心薬の立ち位置」について話します。ぶっちゃけていえば、「強心薬は渋い効き方をする」のです。特に研修医の先生が「思っていたほど派手じゃない」と感じるタイプのお薬です。
強心薬は、「心拍出量」を増やして「循環」を改善させる
ポイントは、血圧を上げるとか、そういう「見た目にすぐ分かる」ハデな効き方をしない、ということです。「循環が良くなる」とはどういうことか?「循環が悪い」とはどういうことか?が分かっていないと、効き目が理解できない薬です。だからこそ、この「しぶい」薬について学んで欲しいと思います。
おさらい 〜前負荷と後負荷〜
まず、一回拍出量を規定する因子のうち、前負荷と後負荷について軽く復習しましょう。
前負荷(おさらい)
フランク・スターリングの曲線を通じて、前負荷と1回拍出量との関係について話してきました。
前負荷を増やす方法は
❶血管収縮薬
❷補液
でした。
前負荷を減らす方法はその逆ですね。
血管拡張薬
利尿薬
です。
後負荷(おさらい)
血管拡張薬・血管収縮薬は血圧にダイレクトに作用するので、後負荷にも関係しました。血圧は、組織灌流を維持するために最低限必要です。
一方、心機能が悪い患者さんでは不必要に血圧を高くしすぎないことも大事です。
心収縮能(心拍出量を規定する3つめの因子)
これが循環で意識する3つめの要素です。心臓そのものの収縮特性です。「引き延ばされれば引き延ばされるほど、しっかり心拍出でき」るかどうか?の指標です。
心収縮能の保たれた、つまり、正常な心臓であれば、前負荷「↑」に対し、素直に心拍出量を増やすことができます。もちろん、多少後負荷が高まっていても、打ち負けることなく心拍出できます。
この収縮能は、疾患のある心臓ではやはり低下しています。すると急性期の循環管理が難しくなってしまいます。「前負荷を増やしても、思ったように全身の循環が良くならない」わけです。
循環管理において、「前負荷」「後負荷」をうまくコントロールしても循環が維持できない場合、心収縮能を上げる必要があります。そのための手段が「強心薬」です。具体的なイメージは以下の図をご覧ください。
強心薬の立ち位置
強心薬を使用すると、フランク・スターリングの曲線そのものがパワーアップします(青矢印)。その分、静脈うっ血も起こりにくくなるため余計な肺水腫などの過剰輸液の害も減ります(青矢印)。
代表的な強心薬はドブタミン・ミルリノン
ノルアドレナリンやドパミン、アドレナリンなどにも強心作用がありますが、これは「オマケ」と考えましょう。他の作用がメインだからです。
強心作用をメインに使用したければドブタミン・ミルリノンを選択しましょう。
「循環を改善」する強心薬
実際に臨床で強心薬を使用するとどんな実感があるでしょうか。これは非常に実感しにくいです。昇圧薬が、血圧(というわかりやすい数値)を上げてくれるのに対し、強心薬の作用は、「循環動態の改善」で判断しなければいけないからです。循環の改善とは
①組織灌流の改善(血圧の上昇)
②酸素運搬の改善
の2点です。
①血圧が維持されていても②酸素運搬が悪いことはある、と述べていました(下のリンク参照してください)。そんなときに、何を観察するのでしたっけ?
バイタルサインに加えて、皮膚、尿量、意識でしたね。
皮膚の冷感や網状皮斑が消失し、尿量が改善し(希釈尿が十分出る)、興奮していた患者さんが落ち着く。そんな効き方をします。静脈圧が低下することで、肺水腫が改善すると、呼吸状態も安定します。呼吸数が減るでしょう。呼吸努力も改善するでしょう。あとは「動脈血ガスの乳酸値が低下してくる」、というのが何よりうれしい反応でしょうか。
「しぶい」効き方をする強心薬
さあ、いかに「しぶい」効き方をするか感じてもらえましたか?裏を返せば、強心薬を使いこなせるようになることは、循環を理解する近道でもあります。
研修医は積極的に使用したり調整したりする立場にないかも知れませんが、是非、使用されている患者さんを一緒に担当することがあれば、どう効いているのか?を実感するためにしっかり患者さんを観察してみてください。
もちろん高流量で使用すると「不整脈」が出てしまってかえって循環動態を悪くすることもありますので、注意が必要です。
強心薬だけで粘るな!
そのため、強心薬を高流量必要とするような心原性ショックでは、「機械的補助」に頼った方が良いです。代表的なものがIABP(通称バルパン)ですね。これはまた別の記事にしましょう。今回は強心薬のしぶさを理解してもらえたら良いかなと思います。