
ジャークチキンと黄金旅程
春は出会いと別れの季節。だんだんと暖かくなって春めいてきた今日この頃、なんとなく感傷に浸ってしまうのです。
先日、職場で次年度の体制について説明があった。しかし、今の上司の名前が体制のどこにも無かった。この3月末で会社を辞めて個人事業主になるということだった。その上司は、なんでもこなせて顧客の信頼も厚い人だ。部下の目から見ても凄い人だった。
時が流れるのは早いもので、自分も新卒で入社してから10数年が経った。今の会社に就職を決めた理由は色々あったが、採用ページにあった「希望があれば、社内ベンチャーを支援する。」という言葉も理由の1つだったりした。入社してから聞いた話によると、どうやらその言葉は当時の社長の思いだったらしい。自分が入社する頃には社長も変わり、その後、社内ベンチャーを起こしたなんて話も全く聞かない。
入社を決めた10数年前の自分は、社内ベンチャーを立ち上げ、入社10年目くらいに独立するなんて、そんな野心も抱いていた。が、今ではすっかりそんな野心の牙も抜かれ、給与もそこそこで、人付き合いで無駄なストレスを感じることも無い、今の環境をすっかり気に入っている。
自分が10数年前に抱いていた野心のきっかけの1つになったのが、ジャークチキンとの出会いだったりする。
先日、テレビでジャマイカへの旅番組を観て、思い出の味だという話をしたのをきっかけに、妻が作ってくれた。
ジャークチキンとの出会いは、夏の海辺だった。
大学3回生の自分。自分は一浪していたので就活はこれからだったが、大学4回生になる友人は、就活の真っ只中だった。リーマンショックの影響も鮮明だったその頃、就活は大変だった。そんな就活の気晴らしもあったのか、友人とは、よく夜な夜な出掛けて遊んでいた。
ある日、夏なので花火でもしようということで、海辺に行った。遅い時間ということもあり、浜辺にいる人の数はまばらだった。そんな浜辺でいい匂いを漂わせているキッチンカーがあった。そこで売っていたのがジャークチキンだ。
匂いにつられジャークチキンを買い、店長さんと長話をした。その店長さんは、脱サラをしてキッチンカーをやっているらしい。脱ラサして、自分探しにジャマイカへ行き、そこでジャークチキンと出会った、、、みたいな話だったのかはもう忘れてしまったが、1度限りの人生だし自分の好きなことをしてみたいと脱サラしたみたいな話だったと思う。
そんな店長さんの話を聞き、リーマンショックで大企業だろうと安定しないこんな時代、何が起きても自分で生き抜ける力を身に着けて、自分の好きなように生きる人生はとても魅力的に思えた。
しかし、コロナ禍を過ごしながらの自分は全く逆のことを思っていた。組織に属しているというのは、色々なしがらみはあれど、やっぱり安心感がある。結婚をし子どももまだ小さい今現在、自分の野心が復活することは当分無いような気がしていた。
が、会社を辞めて、個人事業主になるらしい上司の姿を見て、少しモヤモヤもした。
そんな感じで、時々野心が芽生えるときはありつつも、今のところ無難な人生を過ごす自分が憧れる競走馬がいる。
黄金旅程、ステイゴールドだ。
ステイゴールドは、善戦こそするもののなかなか勝てない馬だった。そんなステイゴールドだからこそ、勝って欲しいと願うファンも多く人気者だったのだと思う。年齢を重ね、ドバイに香港と遠く異国の地で勝利するその姿には感動した。
大敗とまではいかないものの、勝利とも呼べない自分の人生にも、ステイゴールドのように転機とともに勝利を掴むときがきたりしないだろうかと、ステイゴールドにはつい憧れを抱いてしまう。
ステイゴールドと同じく先日ドバイを制したイクイノックスのような天才には自分は到底なれる気がしない。そんな自分にもステイゴールドは夢を抱かせてくれる。とは言いつつ、ステイゴールドも父は日本競馬を変えた種牡馬サンデーサイレンスで母もテンポイントの再来とまで言われた名馬サッカーボーイの兄妹だったりする訳で、おこがましい憧れなのかもしれない。
「憧れるのをやめましょう」はWBCでの大谷翔平の名言だが、無いものねだりをしても、過去を悔やんでもしょうがない訳で、まぁその時々の自分なりにがんばっていくしかないのかなとは思うのである。
ちなみに、「憧れるのをやめましょう」という言葉を最初に聞いたのは、WBCのタイミングでは無いような気がしていた。さっき調べてみたら自分の既視感は黒子のバスケからのようだ。
しかし、今ではすっかり大谷翔平の言葉である。やっぱり、勝者の言葉というのは重みが違うのだ。
浜辺でジャークチキンを売っていた店長さんの話は今でも記憶に残っているが、就活で聞いた先輩社員の話みたいなのは今となっては全く覚えていない。せっかくの1度限りの人生、やっぱり自分も誰かの記憶に残るような勝者になってみたいとは思ってしまうのである。
さて、自分の仕事内容も次年度から少しばかり変わるらしく、企画と名のつく部署と兼務になるらしい。野心の牙を取り戻すチャンスなのかもなとも思いつつ、まぁ、まだまだ長い人生をのんびり歩んでいこうかなとも思ったりする。そんな私のハルウララ。