小説・「塔とパイン」 #21
「おはよう」
スマホに届いたメッセージで、まどろみから抜け出した。そうだった。昨日の夜、ベッドの上でスマホ片手に彼女ととりとめのないメッセージのやり取りをいくつか交わしてしていたはずだった。
いつの間にか、眠りについていたらしい。
スマホの電池表示が62%を示している。使い切ったわけでもなく、かといってこの残量では、一日を乗り切ることもできない。一喜一憂せず、快適に過ごすのなら、補給が必要だ。
「人間と、同じだなぁ・・・」
僕たちもエネルギーが足りないと、辛い。一日快適に過ごすなら、エネルギーを注入しないとうまく頭も体も働かない。栄養を取ることは大切なことだ。
人間とスマホが少し違うのは、栄養だけでは快適に過ごすことはできない。適度な栄養と、休息、そして、心にも栄養が必要だ。
「ごめん、寝てたよ。おはよう!」「今日も頑張ろう!」あまり上手とは言えないメッセージをスマホアプリに返して、インターフェイスの画面を暗転させた。
「人間と、同じだよ」
さっき「違う」ということを認識したばかりなのに「同じだ」と呟いた。人間というのは複雑なもので、客観的な事実を認識していても、「違う」と思いたいこともあるみたいだ。
朝から、無駄なことを考えながら、今日も甘いにおいとバニラの香り、粉まみれになりながらの奮闘を夢想して、朝の身支度を開始した。
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