寒冷暴露で私たちの身体で何が起こっているのか?
今回は専門的なので、インストラクターを目指している人以外は知らなくてもいい内容です。
私の勉強のメモだと思ってください。
いずれ高校生でも分かるように図を使って説明したいと思っています。
【脂肪細胞は2種類 白色と褐色】
まず、脂肪と言っても2種類あることを確認しておきましょう。
・白色脂肪細胞white adipose tissue
余ったエネルギーを貯蔵する事と、身体の断熱材となること
・褐色脂肪細胞Brown adipose tissue
脂肪を燃やして熱産生すること
体温は熱産生と放熱のバランスで決まりますが、脂肪細胞というのは白色と褐色では、そもそも発生からして違います。ただ、熱を産生するエネルギー源になる白色脂肪細胞 熱産生する褐色脂肪細胞、その熱を外に放散させないように白色脂肪細胞が断熱材になったり、2種類の脂肪細胞は協力して、体温の維持に関わる仕事をしています。
褐色脂肪細胞が多い赤ちゃんは脂肪で断熱されていないのに、熱産生が多いため、体温は高めに保たれています。
逆に高齢者では褐色脂肪細胞は少なく、熱産生が少ないので、体温は低めになっている事があります。
赤ちゃんも高齢者も筋肉量が少ないので、褐色脂肪細胞の熱産生がとても重要になってきます。
褐色脂肪細胞は肩甲骨の周り・腋窩・腎臓の周りにしかありません。褐色脂肪細胞の中にはミトコンドリアが多く、脂肪滴があることも特徴です。
組織学のプレパート見ると核より少し小さく脂肪滴が細胞内にたくさんあり、泡のように白く抜けて見えます。
ちなみに、ミトコンドリアは免疫染色したり、電子顕微鏡を使わないと見えません。
【褐色脂肪細胞のミトコンドリアはちょっと違う】
通常、ミトコンドリアは電子伝達系による酸化的リン酸化により、アデノシン二リン酸(ADP)とリン酸Piからアデノシン三リン酸(ATP)を合成しますが、褐色細胞のミトコンドリアでは、ATPの代わりに熱を生み出します。
この熱産生でキーとなる物質が脱共役タンパク質
(UCP,un-coupling protein)
UCPは5つに分類されますが、
UCP1は褐色脂肪細胞
UCP2は褐色脂肪細胞と骨格筋
(Demine 2019, Cells, 8,pi: E795.)
【脱共役とは?】
ミトコンドリアの外膜と内膜との間の空間に、電子伝達系の複合体1から4の働きにより増加したプロトン(H+)は通常、電子伝達系の複合体5の経路を通じて、元に戻り電気的に中和されていきます。
電子伝達系の複合体5の経路を使ってATP合成をするのが共役(これが以前から知られていた経路)、それに対して、プロトンが他の経路を通過するのが脱共役
脱共役経路を担っているのがUCP1
脱共役タンパク質をプロトンが通過する時に、熱産生が起こる!
ベージュ細胞
褐色脂肪細胞と同じような働きをする(米代2017)
ベージュ細胞にも細胞内にはたくさんのミトコンドリアと脂肪滴があります。
見た目も機能もほとんど褐色脂肪なのですが、褐色脂肪はMyf5発現前駆細胞という骨格筋と同じ前駆細胞から分化するのに対して、
ベージュ細胞は白色脂肪細胞と同じ、前駆脂肪細胞から分化します。
ベージュ細胞にはUCP1が発現していて、熱産生をしています。
【寒冷暴露で私たちの身体で起こっていること】
寒さに順応していくのは、このベージュ細胞が増えて熱を生み出すためと考えられています。
つまり、寒いところにいる、冷たい水に浸かるなど、寒さを体験した(寒冷暴露した)分だけベージュ細胞が増えて、熱を生み出し、寒さに順応してゆきます。やった分だけ成果があるのはランニング・水泳などに似てますね。
米代武司,棍村真吾(2017)褐色脂肪細胞及びベージュ脂肪細胞の制御機構と臨床的意義. 生化学,89: 917-920.
UCP-1についての最新の知見
New Advances in Adaptive Thermogenesis: UCP1 and Beyond https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S155041311830679X
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