店・粋雨 ➁【1分マガジン・ショートショート400文字】
「いらっしゃい」
日がな一日、待つともなしに人を待ちながらの、迎えの挨拶。
これを繰り返しつつの年月は、幾たびか。
そろそろ、潮時かもしれない。
だって、明け方、亭主が夢枕にたったから。
「わかったよ、そろそろいくさ」
さてと、この店はどうするかな。
この身ひとつのこのわたし。
遺すものなどありゃしない、この店とガラス瓶以外にはさ。
誰もかれもが過ぎ去っていったけれど、あの目、あの後ろ姿だけは目に残っている。
あの子、今はどうしているかねぇ。
「わたし微熱があるんです。効く小瓶はありますか?」
「どんな微熱なのかね?」
「ひとが恋しいときの微熱です」
だから、青いリンドウの小瓶を選び、
「リンドウの花言葉はね」
と言いかけたら
「あなたの悲しみによりそう、ですよね」
と続けた。
あぁ、あの子にだったら、ここを任せられるんだけどね。
店の扉が開く。
「いらしゃい」
低い声で迎える。
「また微熱になりました。リンドウの小瓶はありますか?」
了
・・・・・
小牧さん、もうひとつ参加させていただきます。
よろしくおねがいします。
今回は、微熱さんの Instagram のイラストを使わせていただきました。
ありがとうございました!
微熱さん、応援しています!
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もしよかったら、こちらも。
どちらも、どーなつ。さんのスピンオフ作品です。
またまた、ありがとう。
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