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仮名や英字、奇妙な図形や流線が節操ない色で光り踊る、夜。 郁にすれば、異星の街。 その店の硝子扉をひらく。 幾何学模様のモザイク壁、艶めく橙の革椅子……最奥には、ピアノ。 客はスーツの膨らんだ男ばかり。煙草と酒に澱む彼等には、乳白の地にあわく杜若の咲く袷を着た清らな訪問者は、それこそ異星人に映ったろう。 店にもう独り、又別の星からの女。 ピアノに撓だれる歌。数多のカラーピンで纏められた要塞の如き黒髪、ゴールドのコンタクトの眼、裸より淫靡なスパンコールドレス…… ……そし
(読了目安2分/約1,200字+α) 眠る彼を起こさないよう、そっと起き上がる。空が白みだしている。 鏡に映る顔には、目の下に隈がある。ほうれい線も目立ってきた。二十代の終わりに差し掛かり、明らかに年齢が表れている。私は顔を洗い、メイクをする。 コーヒーメーカーに三杯分の水を注ぐ。朝一番に彼はコーヒーを飲む。 ウインナーをボイルし、スクランブルエッグを作る。スライスしたライ麦パン。これらはすべて一人分。 皿に盛りつけテーブルに置くと、マグカップに自分のコー
数十年ぶりに刑務所から出ると世の中は様変わりしていた。 車が空を飛んでいたり、アンドロイドが普通に歩いていたりして唖然とする。 「おつとめご苦労さん。」 門の前で古い友人が待っていた。 「とんでもねえ世の中だな。」 「こんなん序の口よ。まずは飯でも食おう。」 無人運転のバスに乗り込む直前、友人が青白く光る小さなモニターに手のひらをかざすと「ピポン」と軽快な音がした。新時代のマナーか何かかと思ってまねすると、けたたましくブザーが鳴った。 「何なんだこれは。」 「そうか。