「さよなら、高知」
ーオレとアチキの西方漫遊記(33)
「折角ここまで来たのだから」は実に強力な殺し文句だ。旅行中、この先は余裕を持って行動しようとどんなに固く誓っても、この言葉を思い浮かべると、どうしても決意が揺らいでしまう。厄介なことに、普段生活している場所から遠く離れるほど、この言葉の威力は増す。そのせいで、高知市内に思わぬ長居をすることになる。
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「もったいない」
坂本龍馬がこよなく愛したとされる高知県高知市の景勝地・桂浜。そこから京都府内に予約した宿までは、クルマで約5時間の距離。ただ、東京から倍以上の時間をかけてやって来たため、愚かにも、そのときはどうしても遠くに感じられなかった。
「このまま高知を去るのはもったいない」ー。降り出した雨を避けるため、桂浜の最寄りにあるショッピングセンターでお土産を物色しているとき、こんな言葉が口を衝いた。この浜への期待度が個人的に高過ぎて、幾らか物足りない気分だった。
一方、奥さんはそこそこ満足したらしい。NHK大河ドラマ『龍馬伝』(主演・福山雅治)の舞台だったことが大きそうだ。奥さんは大のNHK大河ファン。その上、はっきりとは言わないが、福山の大ファンでもある。これで喜ばないはずがない。
疲労感
「この後、高知城に寄り道しよう」ー。心の中にある物足りなさを埋めるため、奥さんにこう声をかける。高知城は高知を代表する観光名所。さらに江戸時代、この城の主だった山内一豊の妻・千代(見性院)は、NHK大河『功名が辻』(主演・仲間由紀恵)の主人公だ。ノリノリの返事を期待する。
ところが意外なことに、このときの奥さんの反応はそれほど良いものではなかった。「どっちでもいい」と興味なさそうに一言。実のところ、この城がNHK大河の舞台になったことは、城内を見学するまですっかり忘れていたらしい。福山不在も大きく響いていそうだ。
雨が降りしきる中、存分に高知城を見学。疲労感が桂浜の物足りなさを埋めてくれた。城を後にし、いよいよ京都に向かう。車内の時計を見やると、すでに16時近くになっていた。やがて助手席で爆睡する奥さん。「内助の功」で知られる山内一豊の妻の生き様は、まったく心に響いていないらしい。
「さよなら、高知」ー。県境を越え、万感の思いを込めて独りつぶやく。(続く)
(写真〈上から順に〉:高知城の天守閣から見下ろすと山内一豊の気分を味わえる=りす、NHK大河ドラマ『龍馬伝』に主演した福山雅治=Pinterest、同『功名が辻』の仲間由紀恵は山内一豊の妻・千代役=2ちゃんねる)