『遠野物語』評(上)
ー歴史的仮名遣い
柳田国男著『遠野物語』は、現在の岩手県遠野市の周辺に伝わっている逸話・伝承などを記載した説話集。柳田国男が、遠野市出身の作家・佐々木喜善から聞いたおどろおどろしい話をまとめた作品。今から112年前の1910年に発表。全119編から成っている。歴史的仮名遣い(旧仮名遣い)で書かれていて、現代仮名遣い、あるいはライトノベルにあるような新しい言葉の使い方にどっぷり浸った生活を送っていると、読みこなすのはやや難しい。もっとも、内容はそれほど難しくない。
大きな影響力
この本は112年も前に書かれた作品にもかかわらず、今なお大きな影響力を持っているところは驚きだ。この作品や著者らに関する記念イベントなどをはじめ、この本に登場する天狗や河童、座敷童といった怪異にちなんだ場所などは、多くが遠野市の観光の目玉になっている。
カクラサマ、ゴンゲサマ、オクナイサマ、オシラサマといったこの土地の神さま、さらに、それにまつわる文化・風習についても同様。遠野物語という作品そのもの、登場するキャラクターそのものが地域資源としてしっかり機能し、この町の活性化に貢献しているところが素晴らしい。
さまざまな分析
読みこなすのになかなか苦労させられた旧仮名遣い。遠野物語を解説したあるユーチューブ(YouTube)によると、実のところ、柳田国男がこの作品を発表した1910年時点で、旧仮名遣いはすでにそれほど使われていない古くさい言い回しだったという。むしろ、意図的に使ったと見ているようだ。
背筋がどこかヒヤッとするような不思議な話を集めているため、柳田国男の頭の中に、旧仮名遣いの方がより臨場感が出るといった思いがあったのではと話している。また、柳田国男がインタビューした佐々木喜善が、東北訛りが強くて聞き取りにくく、それも表現しているのではと分析していた。
読みやすさを犠牲にしてまですることかとも思うが、どうだろう。