『遠野物語』評(下、壱)
ー続・オシラサマ
柳田国男著『遠野物語』に登場する蚕の神、オシラサマ。その口伝や伝承は、今なお引き継がれ、それに関連した新たな逸話、背筋がヒヤッとする体験談が次々と生まれている。オシラサマにまつわるエピソードは、忘れ去られるどころか、112年前の1910年に発表されたこの作品が起点になり、時代に沿った形で更新されているようで怖い。この本を通じ、いろんな神さまや、そこに付随する習慣や風習などについて知れたことはありがたい。この先、いろんな場面で話のネタになりそうだ。
二体一対
実のところ、オシラサマについてはほぼ知らなかった。『遠野物語』は過去に読んだことがあったが、まったく記憶に残っておらず。当時、この作品の歴史的仮名遣いにやられて、途中で放り出したのかも知れない。わが事ながら、実にありえそうな話だ。不甲斐ないやら情けないやらで困る。
オシラサマは蚕の神、農業の神、馬の神とされている。神体の多くは、桑の木で作った1尺(30cm)程度の棒の先に男女の顔や馬の顔を書いたり彫ったりしたもので、布きれで作った衣を多数重ねて着せてあるという。男と女、馬と娘、馬と男など、二体一対で祀られることが多いそうだ。
ぶっ飛んだ話
由来はどこかもの哀しい。ある農家に娘がおり、家の飼い馬と仲が良く、ついには夫婦になったとか。これに怒った娘の父親は、馬を殺して木に吊り下げた。すがりついて泣く娘を見てさらに怒り、今度は馬の首をはねると、その首に娘が飛び乗り、そのまま空に昇ってオシラサマになったらしい。
飼っている馬と夫婦になるとか、娘の夫である馬を殺して木に吊り下げ、さらにその首を斬るとか、随分とエキセントリックな父娘だ。馬の生首が娘を乗せて空を飛び、そのまま神さまになったというのも、ぶっ飛んでいて面白い。ただ、それがどういうわけか地域の神さまとして根付いている。
そこに至るまでにどんな経緯があったのかー。興味が湧く。