『遠野物語』評(中)
ーオシラサマ
柳田国男著『遠野物語』ー。内容はあまり難しくない。いわゆる怪談と心得て読むと、たとえ歴史的仮名遣い(旧仮名遣い)だとしても、決して読みこなせないわけではない。また、おどろおどろしい話をまとめてあるものの、それほど怖くない。口伝、伝承と分かっているので、フィクションとして楽しめる。『四谷怪談』『番町皿屋敷』など、古典の怪談を読んでいる感覚とちょうど同じだ。ただ、どうも"一癖"ある。
"一癖"
この作品に収録されている119編は、いずれもあまり怖くない。話の出所が確かではないフィクションの類いだと認識して読んでいるところが大きい。匿名掲示板サイト「2チャンネル(2ch、現5ch)」に投稿された怖い話をまとめて配信している動画がユーチューブ(YouTube)にあるが、内容そのものについては、ユーチューブの方が怖いくらいだ。
「願はくは之を語りて平地人を戦慄せしめよ」ー。柳田国男はこの作品の序文でこんな風に記したが、とても戦慄するほどではない。だからといって、まったく怖くないと言えば嘘になる。というのは、この作品には一癖あって、『遠野物語』が起点になり、今なお、この作品に関連した新たな怖い体験談を生みだしているからだ。こうした話は現実味があって侮れない。
伝承園
例えば、オシラサマ。この神さまは一般に蚕の神、農業の神、馬の神とされている。信仰にたくさんの禁忌があり、二足四足の動物の肉や卵を供えると大病を患ったり祟りで顔が曲がったりするとか。家人が肉を食べても祟りで顔が曲がるそうだ。一度拝むとずっと拝まなければならないとされていて、拝むのをやめたり祀り方が粗末だったりすると家族に祟りがあるらしい。
岩手県遠野市にある野外博物館「伝承園」には、オシラサマ約1000体を安置する「御蚕神堂」がある。あるとき、そこを訪れて圧倒された男女2人が見学後、ファミリーレストランに立ち寄ると、2人だったにもかかわらず、スタッフからご来店は3人ですねと念押しされる。2人のほかに、子どもの姿が一緒にあったらしい。オシラサマは子どもと女性の守り神でもあるそう。
オシラサマが付いてきたかもしれないという割と最近の不思議な話。
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