『遠野物語』評(下、弐)
ーイタコとのつながり
柳田国男著『遠野物語』を通じて知った蚕の神、オシラサマ。岩手県遠野市を中心に一部地域で崇められている神さまだ。インターネット検索すると、オシラサマにまつわる不思議な体験談やら、1000体もの神体を祀る野外博物館「伝承園」やら、さまざまな情報がヒットした。このうち、"口寄せ"の巫女として知られる「イタコ」とつながりがあると知って驚いた:「オシラサマとイタコの取り合わせって最恐じゃね」
最恐の取り合わせ
オシラサマに関しては、二足四足の動物の肉や卵を供えたり、一度拝むとずっと拝まなければならなかったりなど信仰にいろいろ禁忌があり、それを侵すと家族が祟られるという。その上、霊を自分に憑依し、霊の代わりにその意思などを語るイタコとも関係が深いらしい。そんなつながりに、どうしても怖さが膨らむ。
オシラサマの祭日は「命日」(旧暦の1月、3月、9月のそれぞれ16日)と呼び、その日は、本家の老婆が養蚕の由来を伝える祭文(オシラ祭文)を唱えたり、少女がオシラサマの神体を背負って"遊ばせたり"するそうだ。そこにイタコが参加することも多く、オシラサマに神寄せの経文を唱え、神体を手に持って祭文を唱えながら踊らせるという。
オシラサマの神体2体を使って遊ばせる場合は、オシラサマ一対を両手にとって打ち振り、憑依した状態になって託宣することが多いらしい。その様子はきっとカオスだ。頭で決して理解できず、当惑と混乱の渦に巻き込まれるに違いない。もっとも、かのオシラサマとイタコの取り合わせだ。さもありなんー。そう思わないわけでもない。
衰退する信仰
もっとも、オシラサマの信仰は、この先も安泰というわけには行かない。日本ビジネスグループが運営するインターネットメディア「JBpress(ジェービープレス)」によると、「家にオシラサマはあるが(命日に)どこに何を頼めば良いのか分からない所有者が増えている」という。神体があっても習わしが十分に引き継がれていないようだ。
伝統的な文化・風習の喪失ー。失ってしまうのは怖い。