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得るものと同等の代価

ーオレとアチキの西方漫遊記(37)

「何かを得るためには、同等の代価が必要となる」ー。漫画『鋼の錬金術師』で、主人公のエドワード・エルリックはいう。なるほど、人は何かの犠牲なしに何も得ることはできないと言いたいわけだ。つまり、等価交換。言い得て妙。ただ、これを真理というには、いささか乱暴に過ぎる。奥さんの快気祝いを兼ねた今回の旅行中、それにあらためて気付く。そこで、この一言を付け加えたい:「得るはずの何かと、そのために払う犠牲、あるいは代価が、果たして同等なのかを見極めるのは非常に難しい」

前回のお話:「"神の見えざる手"」/これまでのお話:「INDEX

納得できない人

そもそも目に見えないものの価値を正しく判断するのは容易くない。例えば、錬金術を手に入れるには、半生を犠牲にする必要があると言われ、納得する人もいればそうでない人もいる。十人十色だ。そして、納得できない人はその後、同等な代価が何なのか、ひたすら悩むことになるだろう。ちょうど京都・嵯峨野めぐりのコースに頭を抱えた今回の旅行に自分のように。

ふさわしい犠牲

トロッコ嵯峨駅

急に話のスケールが小さくなったことはさておき、場所はトロッコ嵯峨駅(京都市右京区)の構内。案内板を睨みながら、嵯峨野巡りのコースに悩んでいた。行きはトロッコ電車に乗ることで決まりだが、帰りは保津川下りを利用するか、あるいはJR嵯峨野線を使うかで、なかなか答えが見つからなかった。両方ともに一長一短がある。

夕方までに京都を発たねばならない制約がある中、保津川下りコースを選べば、再びトロッコ嵯峨駅に戻ってくるのに費用は大体1万円、時間は少なくとも3時間半かかる。こちらを選べば、昼食抜きでこの地を去ることになるだろう。楽しみにしていた京料理ランチを味わえない奥さんの曇った表情が目に浮かぶ。ただ一方で、嵯峨野の風情は満喫できる。

帰りにJR嵯峨野線を使うコースにすれば、費用は2000円を超えず、時間も1時間程度を見込むだけで良い。京料理ランチも楽しめる。ただ、話のネタになるはずの保津川下りは体験できない。次に夫婦揃って京都を訪れるのもいつになるやら。再び寂しげな奥さんの姿が頭をよぎる。旅行の思い出を得るのにふさわしい犠牲は何かー。すっかり分からなくなっていた。

ぶらり亀岡001

とりあえず決断

そんな時に「次のトロッコ電車に乗る方はチケット購入をお急ぎください」と駅員の声が響く。こちらを見やり、焦る奥さん。「(切符を買い求める列に)並んでおくから早く決めてね」と、足早に列の方に向かう。いきなり丸投げされた判断。のしかかる重い責任。思わず、仰け反りそうになる。

拙速も巧遅も尊ぶつもりはないので、そう易々と判断できない。列の最後尾だったはずの奥さんは、あっという間に列の中腹、さらに購入窓口が目前に迫った。とりあえず決断。選ばないまま、並んでいた奥さんを呼び戻し、こう告げる:「約1時間後に出発する次のトロッコ電車に乗ろう」

レトロモダンな廣瀬珈琲店

呆れた表情を浮かべる奥さん。ただ、そこで言葉を止めず、近くの喫茶店でケーキを食べようと誘う。すると、今度は笑顔。突然の丸投げに即応できなかった誹りを受け入れる代わりに、奥さんの機嫌を整えるこの等価交換は上手くいったようだ。チョロい。得た教訓:

難問は先送りするに限る。(続く)

(写真〈上から順に〉:人気アニメ『鋼の錬金術師』の主人公、エドワード・エルリック〈写真中央〉=Getwallpapers.com、トロッコ嵯峨駅の乗車券売り場前=りす、保津川下り=ぶらり亀岡、駅そばにあるレトロモダンな佇まいの喫茶店でケーキに舌鼓=りす)

関連リンク(前回の話):

「オレとアチキの西方漫遊記」シリーズ:


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りす=ハードボイルド
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