サウンドインスタレーションを、立体音響を、もっと身近にしたい体験記 アイディアのタネ#14
もっとたくさんの人にサウンドインスタレーションや空間を活用した立体音響の魅力を届けたいし、各地区の図書館にひとつくらいそういう設備のある空間ができたら私はハッピーだなぁということを伝えたくてこのnoteを書いています。
いつか書こうと思って体験した内容が、いやまだ文章にする自信がないなぁと、随分と積み重なってきてしまったので、長文になってしまいました。
「サウンドインスタレーション」の魅力への目覚め
「2121年 Futures In-Sight」展での衝撃的出会い
そう、それは21_21 DESIGN SIGHTで行われた「2121年 Futures In-Sight」展という展示での出来事です。
もともと松島倫明さんという、私のオールタイムベストである「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」を日本にもたらした憧れの編集者さんで『WIRED』日本版の編集長でもある方が展覧会ディレクターを務める展示でした。
アート方面のセンスに信頼のおける友人から、私ならきっと気に入るはずと言われて仕事終わりにふらりと立ち寄ってみたのです。
展示はふんふんふんふむふむふむとみていったのですが、最後に“最新鋭の立体音響システムを使用した空間音響インスタレーション最新作『-a』”を展示される真っ暗な部屋に通されました。
この時の衝撃は忘れられません。
歩き回ると鬱蒼とした森の中や南国の砂浜を歩いているかのように音が移り変わり、立ち止まると四方八方から異なる音が飛び込んできます。何も見えないのに、映像で見るよりもリアルな手触り感があるというか。
考えさせられるとか、そういう次元を超えた、耳から全身がしびれるような、世界が広がるような体験。
私はその部屋から動けなくなって1時間くらい佇んでいました。
絶対に無理だけど、どうにかしてこの空間ごと真空パックにして持ち帰れないものかと思いました。
いわゆる現代アートみたいなものって、その表現自体が直接五感に訴えかけてくるようなことは、私にとっては稀なことで。おそらくその日、そこに至るまでの展示ではずっと個々の作品が「未来」をテーマに届けたいメッセージとは何なのか?を考え続けて脳が疲れてきていました。
だからこそ余計に心動かされたのかもしれません。
庭園美術館で新作を見る
あまりに素晴らしかったのでそのクリエイターのevalaさんのInstagramをフォローしたところ、さらに庭園美術館で新たなサウンドインスタレーションがあることを知り、次は彼の展示目当てで足を運びました。
展示全体のテーマは「旅と想像/創造」。
インスタレーションでは、風が個々の地域の空気や自然を震わせて引き起こされる音、異国の言葉が異国の建築物に反響してあふれかえる雑踏の音、さあ飛びたたんとする緊張感あふれる飛行機内の音など、ここでないどこか、旅の途中で出会うかもしれない音たちが、臨場感たっぷりに響き渡ります。
実際、私の数少ない海外旅行を振り返っても、異国にきたなとまず思うのは音からだった、ということが思い出されます。
旅先できく音それ自体よりも、その音の印象を深めたみたいなノスタルジーを感じるサウンドなので、よりかつての旅の1シーンが喚起されたのかもしれません。
そしてまたしても私は、その場から動けなくなってしまいました。
何分くらいの作品だったのかはわからないけれど、1周では足りなくて3回くらい同じサウンドをループしました。ほとんど誰もいない淡い光のさす空間で、音だけに耳を傾ける体験、なんて贅沢なんだろうと、周りに宣伝したいけれども、誰にも言いたくないような気持ちになりました。
evalaさんの世界をもっと
それから改めて、直近のevalaさんのインタビューを読み、サウンドの技術的なことは何もわからないけれど、まさにあれらは「耳で視る」体験だったなぁと思いました。
最近はevalaさんのサウンドインスタレーションの初期の作品がきけるNTT ICCの展示にいき、1枠で1曲しかきけないので長いものから3曲を、通いながら聞きました。できれば全部ききたいと思っています。
ところで立体音響って何?
こうして体験を重ねてきて、これが一体なんなのか、どうしてこんなすごいものが全然知られてないのか、不思議に思えてきました。
どうやら立体音響というものらしいけれど、それは一体何?
Dolby AtmosやIMAXみたいな映画館の特別な音響設備、あれは立体音響なの?
最近の音響設備の進化やそれらの違いについても気になり始めました。
そもそも左右二つのスピーカーで音が変わるものが最初の立体音響であり、それが進化して前後左右の概念が加わったり、バイノーラル録音で【普段人間が鼓膜からダイレクトに感じている音を再現するために、「ダミーヘッドマイク」と呼ばれる人の頭部を模して両耳部分にあたる箇所が集音マイクとなっている機材で録音】することで360度全方位からきこえるような感覚が体感できるような仕組みができたりしていったのが進化の過程のようです。
む、むずかしい。
ただ、意外と立体音響の原点は私たちにとって身近なものだというのと、音を録音するときに人間の耳での反響などを考慮するとより立体感を感じられる音になるということはなんとなくわかりました。
先に挙げたDolby AtmosシアターやVRゲーム、ASMR動画などにも、立体音響が活用されているのだそうです。
つまり、私がいいなと思ったものと普段きいている音の違いってなんだろうと、さらにもう少し調べてみます。
技術的なことは私がここにかいても正確にかけないと思うので、詳しくは触れないですが、②は立体音響を疑似的に再現するようなもので、①は空間に複数のスピーカーを設置して、実際に立体的な音響として耳に届けられるもののようです。
つまり私が直観的にいいなと思ったのは①のほうだということです。
他の立体音響もきいてみたい
[Cube: Immersive]にいってみる
こういう空間で立体的に音を流して耳に届けてもらうっていう体験をもっとしてみたいと思って、SNSを通じて知ったのがこの【8chキューブでの立体音響作品鑑賞会 [Cube: Immersive]】でした。
15分の枠を1人ずつ予約する形式(そういうつくりだからだけどやっぱり贅沢)でなんと無料。
本来は立体音響作品の制作に携わる方向けの取り組みだと思うので、最初は私のような何の知識もない人が行っていいのかな?と遠慮し続けていたのですが、年内最後でしかも土日開催!ということで、勇気を出して参加してみました。
御茶ノ水駅から徒歩3分の立地。ギター屋さん立ち並ぶエリアにこんな場所があるんですね。
地下一階。階段を降りたところが受付です。
少し早く着きましたが、前の方が早く終わったみたいですぐに中に入れてもらえました。
もっと立体音響関連の機器とかを展示するショールーム的なスペースの先でこの8chキューブの空間があるのかと思ったのですが、扉入ってすぐ右手に、NTT ICCの無響室を思い出すような、スピーカーに椅子が置いてある、音を聴くためだけの空間がありました。
おおお。写真でみた部屋だ。
静かに興奮する私。
思わず涙腺にくるような音
NTT ICCの時のように、いくつかの曲目の中からききたいものを1つ選ぶ形式。
evalaさんの曲で無響室での体験と聴き比べるというのもありかと思いましたが、私がそんな繊細に音を聴き分けられるとも思えなかったので、別の形式の立体音響を体感しようと【#2 《To Waters of Lethe》 岡田拓郎, 葛西敏彦, 香田悠真, 細井美裕】を選びました。
椅子に座るとすーっと暗くなり、すぐに音楽が始まります。
evalaさんのこれまできいたサウンドが頭の中がざわめいて恍惚とする感じだとすると、こちらは旋律のある音楽なので一気に涙腺にくるような感情の揺さぶられ方。
リアルなサウンドということでいうと、目の前で行われるピアノのリサイタルやオーケストラのような生演奏のような音をきくようなものなのかと思ったのですが、それとも違っていて。
他の音が遮断され、この椅子に座る人のために向けられたスピーカーから出る音だからなのか、この違いがなにからくるのかわからないのですが、生演奏よりも「近い」感じ。骨に響く感じ。うーんいい言葉が出てこない。
音の立体感って結局なんなんだろうっていうことの謎は解けないままでしたが、とっておきの体験ができました。
リアルな立体音響を体験できる空間をもっと
私はevalaさんの作品に出会うまで「サウンドインスタレーション」というものの存在を知りませんでした。
でも、今年アバター2をみて、3D映像の進化を感じてすごいなぁと思ったのですが、最先端の立体音響には、それを超えるような没入感があるように思うんです。
空間にあわせて立体的なサウンドをつくるという技術がこれほど唯一無二の体験なんだということはもっとたくさんの人に知ってほしいと思いました。
もしこういう体験ができる場所が増えて、作品が増えたら、アートの1ジャンルであり、何かを体験するためのメディアの1つにもなりうる可能性をとっても感じています。
あとこれは余談ですが、年をとって家から動けないくらい身体が弱ったら本を読んで妄想しながら生活しようと思っていたけれど、それすらままならない可能性があった場合はどうしようかと、密かに心配していました。その時はAudibleかなーなんて思ったりして。
でももしサウンドインスタレーション的なものがきける部屋が家にあったら、家にいながらにして、世界中を旅するような、あるいはすばらしい演奏会をききにいったような感覚が得られて最高なんじゃないかと想像が膨らみます。
ひとまず今後も少ないながら、立体音響がきけるイベントの予定がきけたので、引き続き楽しみたいと思います。
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