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【WHILL Model R 開発物語】メカ設計エンジニア吉田 -良い意味で "なにも感じず" 日々快適に移動するための工夫の細々 -

スマートになった歩道のスクーター WHILL Model Rは、行き届いた機能が心地よい製品として、市場に投入されました。

ものづくり全てに言えることですが、Model Rを通じて私たちが感じるその魅力や心地よさは、WHILL社が長年蓄積してきた技術力や緻密な計算と検証、試行錯誤による工夫の結果によって成立しています。

スペックや機能性はもちろん、ユーザーが自然と毎日乗りたいと感じていただけるような使い勝手の良さにもとことんこだわっています。

シリーズとして続く今回の開発物語では、乗り手が良い意味で "なにも感じることなく" ストレスフリーに移動するための細部に至る工夫について、ハンドルシャフト(車体と操作部をつなぐ、カラー部分)周りをメインに担当した吉田に聞きました。


吉田 克信(よしだ かつのぶ) プロフィール

東京電機大学工学部機械工学科を修了後、キヤノン関連会社に就職し、複写機・レーザープリンタの開発に従事。その後、カメラ部品サプライメーカーに転職し、カメラに目覚めたことがきっかけで株式会社リコーに転職、デジカメの開発に携わる。エンジニアとしてさらに成長を目指し、2022年にWHILL社に近距離モビリティのメカエンジニアとして入社。最初に手掛けたModel Rでは、ハンドルシャフト部分の機構設計を担当した。

ハンドル角度調整のレバー採用は実現難

Model Rでは、お客様の身体によりフィットした形で快適に運転できるようハンドル角度を調整する機能を取り入れています。

その調整も非常に簡単。レバー(取手のようなもの)上部の小さなフックを指で押さえながらレバーを外すだけ、片手動作で行え、ハンドルの角度を自分の好みに自在に変更することができます。

他のスクーター型でもハンドル角度を調整できるタイプはあります。しかし、ネジ式を採用している場合がほとんど。

イメージ画像。ダイヤルのようなネジ式が採用されるケースがほとんど

Model Rのように、レバー式を採用しているケースは類を見ないそうです。

ネジで締めることは日常でもさまざまな場面で採用されています。そのメリットは軽い力でも強くしっかりと固定ができるからです。原理を簡単に説明すると、ネジを回転させて締め付けると、被締結物には圧縮力(挟み込まれる力)、ねじには引張力(締結物から反発する力)がそれぞれかかります。この力が作用して強固な固定・強度につながり、軽い力だけで十分なのです。

ねじの締結の原理について、詳しくは以下もご参考ください。

一方、ネジ式だと、"ひねる(ネジを緩める・締める)"作業はやや時間がかかります。自分も試してみましたが、確かに、慣れない姿勢を取りながらネジを締め/緩め続ける、かつ最適な角度位置でハンドルなどを手で押さえながら、という動作はややつらいものがあります。

軽い力でも強度を発生させ、かつ片手で簡単にハンドル角度を調整できるようにするーー。

言うは易し。非常に難しいお題です。
しかし、WHILL社は実現。自社が誇る技術力で、これまで業界では成し得なかった実装に成功したのです。

すべては「ユーザーが最適な姿勢でウィルを操作できるように」との一心

一般的なネジ式ではなく、難しいお題ながらもレバー式をModel Rに採用した理由は、お客様が機体に座った状態で楽に調整できるようにしたかったからです。つまり、座った状態(運転する姿勢)でもハンドル角度を調整できるようにすることで、お客様がいつでもどんなタイミングでも、自分にとって心地よい最適な姿勢でウィルを運転できる状態を実現させたいという強い気持ちがありました。

力が強くなくても、片手の力でもレバーを動かせる絶妙な加減を模索しながらも、ハンドルがしっかり固定され動かない強度を保つのは至難の技でした。試作当初は非常に硬く力もかけないといけなかった状態だったのですが、何度も何度も試行錯誤と検証を繰り返し、今の形に至りました。

また、レバーを締め上げる際、滑らかに動く感覚が最初にあるのですが、実は、少しでも力を入れやすく、そして楽にレバーを押して固定しやすくするための工夫なんです。

何気なくこれまでレバーを動かしてきましたが、その場で改めて触ってみました。

レバーを上から下に引っ張るのは割と簡単ですが、いざ下から上に押し上げるにはグッと力を込めたくなります。最初の滑らかな動きがアシストしてくれるので、そのまま勢いで締めやすくなっているのがわかりました。

細部のこだわりまで、考え設計されていることに感動を覚えます。

物の入れやすさと強度の両立は、バスケット裏と底のさりげない「リブ」がカギ

「ウィルを生活に取り入れたのは、日常のお買い物に使いたいから」
お客様のご購入の理由の大きな一つで、バスケット(カゴ)は購入品やバッグを入れるのに便利な要素です。

Model Rにはシート下のバスケットのほか、オプションでフロントにもバスケットをつけることができ、たくさんお買い物をしても安心の大容量を誇ります。吉田は前カゴの開発にも携わっており、ここにも、さりげないこだわりが光っていました。

フロントバスケットはシャフトの一部に取り付けられますが、それゆえ負荷がその一面に集中し、カゴの弛み(たゆみ)や変形の原因にもなってしまいます。
そこで大事な働きをするのがリブです。

リブとは、本体の強度を上げたり変形されないようにする加工。リブをつけることにより、本体に厚みを持たさずに強度を保つことができます。

強度とともに、洗練されたデザインを維持するためには、リブを施す場所が非常に重要でした。また、お客様がモノを入れやすいようにすることも考慮すべき重要な要素でした。

シャフト部分だけで固定するとなると、反対側の面に負担がかかり変形や弛みの原因になることを解説中の吉田。

試行錯誤、緻密な計算、検証などを経て、Model Rのカゴのリブは、底のカーブ部分のところに短めにさりげなく、そしてシャフトカバー接地面側のカゴ外側に配置することにしました。

リブは長い方が強度が保たれますが、例えば底のリブをそのようにしてしまうと、突起が邪魔になり荷物を入れにくくなってしまいます。毎日乗るお客様の使い勝手をできる限り良くしたいと、強度を担保できる短さを模索し続けました。

底のリブは確かに短い

カゴの外側にあえてリブを施したのも、中に突起を作らないことで荷物の出し入れをしやすくしたり、引っ掛かりを少なくしたりするためです。強度は維持しながら同時に、見た目的にも違和感がないよう、悪目立ちしないよう、リブの幅や配置を設計しました。

製品を通じて、お客様への想いが受け取れます。

行き届いた配慮や細かいこだわりが、乗り手が良い意味で "なにも感じることなく" ストレスフリーにウィルを使える状態につながるーー。

吉田が教えてくれた開発の裏側から窺い知ることができます。吉田は最後にUSBポートのカバーの弾性についても紹介してくれました。

これはうまくいったなぁと感じる部分の一つなのですが、すごく簡単に優しい力だけで誰もがカバーの出し入れができるようになっています。

「誰もができる」ということがポイントなんです。

どうしたらお客様にとって使い勝手が良くなるか、より心地よく乗ってもらえるか。

インタビューで聞いた吉田の言葉ひとつひとつから、日々その問いに向き合ってきた軌跡が感じ取ることができました。

終わりに

カタログやHPでは載せきれない開発プロセスのあれこれ。

当たり前のようにUSBポートのタグをめくる、何も考えずにハンドル固定レバーを引く、無意識にバスケットに物をぽんと入れるーー。

この、誰もが「当たり前に」「何も考えずに」「無意識に」できることが、一番実現が難しいものの、私たちが毎日使いたいと思える必須要素だと考えます。

背景には、何度も何度もトライアンドエラーを繰り返して最適解を見出したエンジニアらの見えない努力の結晶がある。

ウィルに限らず、この世に存在するすべてのモノに当てはまること。そんな思いを巡らせながら、WHILL社のプロダクトの奥深い魅力までを知ってもらえる一助に、Model Rを手元に迎える人や場所が増えたらいいなと期待します。

YouTube動画

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