センダン巨木を高さ15mのまま残す要望書を提出
故郷・山口県田布施町にUターンして半年あまり。私が子どもの頃から毎日見てきた麻里府のセンダン巨木の伐採計画の記事を初めて書いてからも、半年あまり。そのセンダンの運命が、近いうちに決まろうとしています。
田布施町は、2023年6月にセンダンの伐採を中止すると発表したものの、その後は幹を高さ2mで切ることを検討してきたのは、前回記事で書いた通りです。その方針が、10月24日に開催された、田布施町(町長、副町長、各課長らが出席)と麻里府地域の7自治会長との意見交換会で、初めて公に述べられたそうです。しかし会場からは、それなら残す意味がないだろう、といった声があがったと聞いています。
いたってまっとうな反応と思います。伐採の賛否はあれど、残すなら大きく残さないと巨木の意味がないし、2mの切り株だけでは、残したのか伐採したのか、微妙すぎます。私もいろんな場所でこの “2m伐採問題” を話しましたが、多くの人が「は⁉」と驚くか、笑うかのどちらかで、とにかく仰天してしまうのです。
これまで地元の方にセンダン巨木の伐採が問題になっていることを話すと、
「あの木は切ったらいけないでしょ⁉」
「学校や保育園に通うときに毎日横を通る、好きな木だった」
「遺言だから、あの木は切らずに残してくれと町に伝えた」
といった言葉も聞かれました。多くの人がセンダンの巨木に思いを寄せていたことがわかりましたし、一方で「木のことは意識していなかった」「邪魔だから伐採は仕方ない」という人が一定数いることも知りました。
7月に開かれた最初の説明会では、副町長さんが「センダンの管理は自治会にお願いすることになる」と述べましたのが、10月には「センダンは町の財産なので町が管理する」という方針に変わりました。町の所有地なので当然のことですが、なぜ当初は地元自治会に管理が委ねられたのか、わかりません。自治会では管理できない → 巨木はいらない、という流れにもなったので、私たちは「センダンサポーターズ」という自主管理の有志を集めてきました。しかし、そのサポーターズの協力申し出に対しても明確に返答はないまま、すべてを町が管理することに決まっていました。
また、7月の説明会でセンダンを残す意義を発言した私は、会場で多くの批判的意見を受けたのですが、その方々のお宅を訪ね、直接お話しを聞いてきました。どなたもちゃんとお話のできる方で、これまで地域を支えてきた方々のお気持ち(高齢化で花だんの管理でさえ大変。決まったことを突然覆されて不快に思った、など)を伺うこともできました。
同時に、地元の植物やセンダンの巨木に関心をもっていただくために、私たちはセンダンの周辺で植物観察会や説明会を3回開催したほか、周囲の草刈りやゴミ拾いなどの活動も行ってきました。
そんな経緯を経て、11月17日に田布施町によるセンダン巨木の説明会が、麻里府公民館で開催されました。ただし、一般公開ではなく、案内状が出されたのは前回と同じ3団体(地域に密着した公民館を考える会、麻里府地域夢プラン検討会、麻里府地域自治会連合会)のみで、加えて、参加を要望していた私たちセンダンの会(麻里府のセンダン巨木を守る住民グループ)にも連絡をいただき、出席してきました。
まず、進行役の副町長さんから、「センダンを残してほしいという意見が多いようなので、いきなり2mで伐採すると取り返しがつかなくなるので、建物の高さと同じ6m程度で切るのはどうか?」と問いかけがありました。配布された平面図には、公民館建物の位置を約2mずらし、センダンの周囲に直径約6mのツリーサークルを設置した修正案が描かれていました。6mで切る提案も、平面図も、私たちは初めて知った案で、センダンを大きく残す方向に一歩あゆみ寄ったという意味では、ありがたい姿勢と感じました。
それに対し、参加者からは様々な意見があがりました。
「名木に選ばれているのに、切ると名木ではなくなるのでは?」
「建物の寿命は50年だがセンダンは数百年生きる。自然への敬意が大切」
「町や住民グループが本当に管理できるのか?」
「そもそも避難所なのだから木はいらない」
などなど、賛否はあれど、センダンについて熱心に考えている住民が増えた印象を受けました。
一通りの意見が出たタイミングで、私はセンダンの会としての提案を発言しました。幹は高さ15mのまま切らずに残し、建物側の横枝のみを切除する提案で、用意した写真と模型で詳しく説明しようとしましたが、会場から「それはここでやらずに町と話し合ってくれ」といったご指摘を受け、説明を中断しました。
結局、1時間あまりが経過したところで、説明会は打ち切られました。6mの高さで切る、という町の提案を中心に意見が飛び交いましたが、センダンの会としては6mで切ることに合意したわけではありませんし、この説明会は何か決を採るための会合ではなく、あくまで意見交換の場と、事前に総務課長から聞いていました。副町長さんは、「7mでも10mでも完全伐採でもいいし、何か要望があれば団体で要望書を12月初め頃までに提出して下さい」と述べて、閉会となりました。
説明会でうまく発言できなかったことは、私にとって大きな失敗でした。
こうした地域の会合に参加した経験がほとんどなく、雰囲気や流れもよくわかっていませんでした。発言者の中で、いつも私が最年少。発言中に大きな声でヤジを飛ばす人もいれば、拍手や「そうだ!」のかけ声で賛同する人もいます。
このような場で、Uターンしたばかりの若輩者が出しゃばるのは難しいと感じましたし、若い人や女性がこの場にほとんどいない、発言しない理由もわかりました。これは私が知らなかった地域の現実であり、もったいないとも思いました。
今冬の造成工事や剪定作業に向けて、もう時間がありません。そこで私たちは、提案内容を要望書にまとめて、町に出すことにしました。半年前から助言をいただいてきた樹木医さんをはじめ、3名の樹木医さんに内容を確認してもらいつつ、どこで切るとどういう樹形になるか、シミュレーション図も作成しました。
また、大木がある公共施設の事例約10カ所(沖縄県今泊公民館のコバテイシ、山口県周南市役所のクスノキ、高知県いの町神谷小学校のセンダン、島根県松江市玉湯のセンダンなど)に取材を行いました。その結果、田布施町役場や住民代表者らが懸念する、落枝事故や責任問題はどこでも起きておらず、特別な台風対策を行っている例もありませんでした。その代わり、樹木医や職員が日常点検を行っているとのことです。
私の予想通りではありましたが、実際に確認することで大きな安心材料になりました。逆に、電話口の担当者から聞かれたのは、
「緑があれば四季が感じられるし、心も安まりますから」
「もし事故が起きたら、と言っていたら木は1本も残せませんよ」
「勝手に木を切るとお叱りを受けるので、むしろそっちに神経をつかいます」
「木があることも台風が来ることも当たり前。頑張って下さい」
といった言葉で、樹木を管理する公務員の方々に励ましてもいただき、心が温まりました。
田布施町でも、大きな変化を感じつつあります。
まず、センダンを完全に伐採する予定だったのが、センダンを「田布施の名木」に選定した植物研究者・南敦さんの呼びかけもあり、中止になりました。私たちがセンダンの価値を説明するパンフレットを全戸配布すると、多くの住民がそれを読んで下さり、
「そんな問題が起きていたとは知らなかった」
「巨木の価値がわかった」
「それほどの名木なら大きく残した方がいい」
といった意見をあちこちで耳にし、住民の関心がどんどん高まっていることも感じます。この問題を知った中学生が、夏休みの自由研究のテーマに選んだり、伐採問題を取り上げた中国新聞の記事が、子ども向けの新聞記事として公開されたり、若い世代にも関心が広がっていると聞いています。
行政側も、完全伐採 → 2mで切る → 6mで切る → ? と、センダンを残す方向に少しずつ検討して下さっており、副町長さんも総務課も建設課の方々も、私たちの意見に丁寧に耳を傾けてくれるようになりました。こうした対応は、お互いの顔が見える小さな町ならではでもあり、評価すべき柔軟性と感じています。
11月30日、私たちはセンダンの会としての要望書を田布施町役場に提出しました。内容は記事の最後に掲載した通りで、剪定、設計、施工、管理の面から具体的に提案しました。
対応した総務課長さんによると、現在、町で考えている剪定方法は、幹を高さ6mで切り、その後に伸びる枝も6m以下で剪定し続けるという方法でした(下図参照)。これは想像と違って驚きました。
高さ6mで幹を切れば当然、多数の枝が萌芽するので、樹高10mぐらいになることを私はイメージしていましたが、6mで剪定し続けるとなると、電線や建造物に囲まれた街路樹でよく見られる、典型的な見すぼらしい姿になってしまいます。剪定の頻度を高める必要もあり、センダン(根も切られるのでダメージが大きい)が枯死するリスクも高まります。その手法を、こんなに広い公民館の敷地で、しかも郷土景観の中心的存在である巨木に対して行う合理性は見出せませんし、美しいまちづくり推進条例とも相いれません。
私はそうした意見をお伝えし、要望書を読んでしっかり再検討していただくようお願いしました。意見は食い違いますが、私たちは対立したい訳ではなく、行政や地元の方々とともに、より魅力ある町にしていきたい思いは同じなのです。
この要望書は、地元3団体の代表者や各自治会長にも届けています。9月に作成したパンフレットと合わせてを読んでいただいた上で、田布施町と地元の方々が下す判断を待ちたいと思います。あとは、関係者の方々の英断を願うばかりです。
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