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抱きしめるのは罪滅ぼしか

肩をトントン、と、たたかれて、振り返ったら、娘が私を見つめて、大粒の涙を流して泣いていた。

えっ?!どうした?何があった?って声をかけたら、尚更泣いた。大きく口をあけて、「うわあああん」って、まるで漫画みたいにわんわん泣いた。

その時の私は、無印の人がダメになるソファで、その名の通りダメになっていて、ソファに同化しそうなぐらいぐだぐだとしながら、テレビを見てた。なので、振り返りざまの大粒涙は、とんでもなく面食らった。その前にすこし、自分のことは完全に棚に上げて「そろそろダラダラするのやめてペットのインコを寝かす準備をしなさい」と小言を言ったけど、そこまで泣かれるほどのことでもなかったし、本当に大粒涙の理由が浮かばない。

こっちおいでと娘を引き寄せて抱っこしたら、また泣き声に拍車がかかった。寝っ転がったまま娘を引き寄せたので娘の重みが胸にのしかかる。嗚呼でかくなったなと瞬間的に思いながら、赤ちゃんの頃と同じように背中をトントンしたら、ひっくひっくと声をなんとか絞り出しながら娘が言った。

「ママが、   また、   いなくなっちゃうかと、   思って」

丁度1ヶ月前くらいの週末。土日の2泊3日だけ夫に娘を任せて、ビジネスホテルに籠もった。誰にも会わず、ひとりで。ほぼずっと娘とふたりで家にいる生活を続けて、どうしても煮詰まってしまった。その土曜も、もう今となっては理由も覚えていないけどなにやら1日中娘とうまくいかず、ああ、このままじゃだめだ、と育児をはじめて約10年で初めて、夫に任せて、ひとりで逃げた。

そのことはnoteにも書いた。

あれから1ヶ月。この逃避行期間のことは別にタブーでもなく、たまに話題に登ると、わたしもどういうご飯を食べたか、何をしてたかっていう話を娘にもしていたし、娘も、「ママがいなかったとき、パパとね・・・」と話してくれたりしてた。帰ってきた日も少し私に言いにくそうに、「さみしかったけど、実はパパと過ごすのちょっと楽しかった」と言っていたので、パパとの時間もそれなりに楽しんでくれたんだろうと思ってた。いや、楽しんだことは嘘じゃないんだと思う。実際とても楽しそうに何をしたか話してくれたし。


兎にも角にも、1ヶ月の間、1度も、この話で娘が泣くようなことはなかった。


なので青天の霹靂。突然の滝のような涙を見て、「ママが本当に帰ってこないことがある」っていう事実は娘にとって相当な衝撃だったってことが、身にしみた。申し訳ない。だけど、あの日、煮詰まり過ぎてもうどうしようもなくなった空気のまま過ごしたほうがよかったのかはわからない。いや、絶対にあのままじゃ駄目だった。でも、正解なんてあのときも、今となっても、誰も知らない。娘も、私も。


心が痛い。ものすごく痛い。

その時々で最善だと思うことをするしかないのだ、育児ってやつは。

難しい。


実は、今日は娘にとってはおそらく最大のサプライズを用意してある。昨日娘が泣いたから、というわけではなくて、会社の休みをとって、何日も前から計画してたこと。

今日は早起きして、勉強をサクっと済ませてね、朝から会社に連れて行くからと言ってある。(娘は休校中なので自宅学習
。わたしは基本在宅なんだけど、会社にはたまに同伴出勤してわたしが仕事している間、娘はオフィスの隣の部屋で遊んでる。)なので娘は6時に起きて、今日の勉強を済ませることになってる。私も勉強の手伝いをして、準備して、そして、あたかも会社へ行くように、車に乗り込むつもり。

でも本当の行き先は、会社のある原宿ではなく、娘がどこよりなにより大好きな、山の中の動物園。2日に1度はこの動物園の話をする娘。昨日の晩も、いかにこの動物園が最高か、興奮気味に熱く語ってた。

どの時点で気づくだろう。いつもの会社への道と違う道路を走っていることに気づくかな。途中で眠ってしまって、到着してから「はい、着いたよ」って起こすのも面白そうだ。「え?!え???なに?!えええええええええええ?!?!?!?!」って鼻の穴を広げて叫ぶ娘の顔が目に浮かぶ。


計画、しておいてよかった。私が気づかない間に心のなかに溜め込んでる大粒涙も、少しは乾いてくれるといいなと思う。なんだか、罪滅ぼし小旅行みたいで、また、心が痛いけど。


最近読んだせきしろさんと又吉さんの自由律俳句集「カキフライが無いなら来なかった」に

「押すのか引くのかスライドかそもそもドアではないのか」

というせきしろさんの句がある。

これを読んだときその情景を思い浮かべてクスっと笑った。でもよく考えたら今この句がわたしの今の育児に当てはまる。


押すべきなのか引くべきなのか、そもそも、根本的に違うのか。

あってるのかな、わからない。

でも、やってみるしかない。


この状況を、クスッと笑える余裕は私にはまだないけれど。


さて、そろそろ娘を起こします。午前6時。

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