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片恋の終わり

「○○くんと□□ちゃん、付き合い始めたらしいよ」


突然打ち明けられた秘密に、電車に撥ねられたような衝撃を覚えた。


私には1年半片想いしている人がいる。どれだけ苦しくて忘れようとしても、会う度に好きにさせてくるような、そんなずるい人。彼が、同じ部活内の、美人でしっかりした女の子とついこの間付き合い始めたのだと友達は言う。確かに前々からお似合いだとは思っていたけれど、そういう関係にはならないだろう、と高を括っていた。むしろ他の女の子、例えば今打ち明けてきた友達なんかの方が彼と付き合ってしまわないかとよっぽど警戒していた。だから、この予想外の報告に言い表せないような驚きを感じてしまった。


実はこの前日は終電帰りでもともと朝から頭痛と吐き気が激しかった。その上ミスタードーナツの食べ放題に行った後だった。元からコンディションの悪い体調に追い打ちをかけてくるかのように、友達の報告が胸に突き刺さった。必死に得も言われぬ吐き気と衝撃を隠し、わざと過ぎるほどに上げたテンションで「えー!お似合いじゃーん!」と上辺だけの祝福の言葉を口にした。苦しかった。吐きそうだった。けど何とかこの空笑いで乗り切れたように思う。友達と別れた後はこんな状態で家に帰れるわけがなく、あまり泣かないようにと3時間外を歩き、それでもマスクの下で密かに泣いてはこの胸やけをどうにかして取り去ろうとしていた。


本当はこの春休みに告白してしまうつもりだった。今考えればそんなにいきなり告白なんてするもんじゃないとは思うが、モチベーションとしては良かったんじゃないだろうか。私はずっと、彼とは何年か後にでも付き合えればそれでいいや、と思っていた。いや、むしろ、彼とあわよくば結婚したい、とさえ考えていた。だが、春休みが始まる少し前に、彼が彼女を欲しがっていることを聞き、このままじゃ何もないまま彼が恋人を作ってしまう、そうすればその恋人と長く付き合ってしまうかも知れない、彼とは一生恋愛関係になれないかも知れない、とようやく焦り始め、満足できる位ダイエットが出来たら彼に告白しようと決意した。期限は春休みが終わるまでの約2ヶ月。経験上、私の場合は食事制限が一番痩せるのを知っていたため、食事量を大幅に減らすことにした。食べることが生きがいともいえるほど大好きだった私にとってはものすごく苦渋の日々だった。一か月は何とか続いた。が、停滞期もあってその後は食べ放題に行ったり、家で過食したりして、後から後悔する、ということを繰り返していた。これだけの我慢と苦痛に耐えぬいた末、一度も彼に会うことなく失恋したのだ。笑えるだろ?何のための努力だったんだ。自分一人舞い上がって、勝手に苦労して、しまいにはストレスで元通り、だ。馬鹿馬鹿しいにも程があると思わないか?


私は彼を忘れるために色んな男の人と会った。


そんなことをして何をやっているんだって、普通の人なら考えるだろう。絶対後で後悔するぞ、馬鹿なんじゃないの、って誰だって言うだろう。でも、人生で一番、誰よりも何よりも大好きだった人のことをそんなに簡単に忘れられるわけないでしょう?知らない人と付き合っているならまだ耐えられた。顔も知らない彼女と、知らないところでイチャイチャしているんなら。でも、彼が付き合ったのは、私が彼のことを好きだったって知っているすごく近い関係の女の子だった。私はこれからどんな風に彼女と関わったらいい?このまま君のこと好きで居続けたら気まずくならないはずがない。ちょっとでも反応にボロが出れば、彼女に気づかれてしまうかも知れない。だから一刻も早く彼を忘れなきゃいけない、ということしか考えられなかった。

その日の夜には、とりあえず近くに住んでいる、別に顔も何もタイプでもない男の家に、まだ治らない胃もたれに苦しみながら行った。誰でも良かった。この寂しさを埋めてくれるのなら。


ある日、アプリで出会って仲良くなった子の部屋に行った。バイト終わりにお疲れ、と言って小走りで駅まで迎えに来てくれた。すごくすごく優しい子だった。だからこそ君を忘れるためには最適だと思っていた。でも、君はもうすでに私の心の大部分を蝕んでしまっていた。


信号待ちをしている時に優しい笑顔で「ん?」と言って手を差し伸べてくるのも、絡めた手を「寒いね」と言いながらブンブン振り回すのも、テレビを見ている時に後ろからぎゅっと引き寄せてくれるのも、「おいで」と言って両腕を広げて抱きしめてくれるのも、全部全部、君だったなら。そう思いながら私はまだ会って2回目の年下の男の子と唇を重ねる。あの子は君にこんな優しい目を向けてもらっているのだろうか。君はこんな風にあの子の顔を手で優しく包んで「可愛い」と笑いかけるのだろうか。君はあの子を膝の上にのせて「他の男にはこんなキスしちゃだめだからね」って囁いているのだろうか。この男の子と私の行動すべてを、君とあの子に当てはめてしまわずにはいられなかった。


君はこうして無意識のうちに何人の女の子を泣かせてきたの?

私が君のこと好きだってこと、ちょっとは気づいてたよね?

なのになんで何とも思ってないような私にまであんなに優しくしてくれたの?


こんなこと死んでも聞けない。だってもう君は他の人のものだから。好きでいちゃいけない人だから。これからは君のこと、なるべく早く忘れられるように頑張るね。


さようなら。私を一番苦しめてきた、でも一番大好きだった君へ。

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