首の動き、シワに影響する見落としがちな◯◯筋
広頸筋(Platysma)の解剖学
広頸筋は、首の前面に位置する薄い表在筋で、顔面表情筋群の一部としても機能します。広頸筋の役割は表情や皮膚の緊張に影響し、特に首や下顎の動きに関連しています。
• 起始: 広頸筋は、第2肋骨および肩の上部(鎖骨の下)あたりから起始します。
• 停止: 下顎骨の下側縁に付着し、さらに一部の線維は口角にまで達します。顔の下部の皮膚にも付着するため、顔の下半分や口角を下げる動作に寄与します。
• 支配神経: 顔面神経(第7脳神経)の頸枝によって支配されます。
• 血液供給: 顎下腺動脈や胸肩峰動脈などの血管から血液供給を受けます。

広頸筋の機能と運動学
1. 表情筋としての機能:
広頸筋は顔面筋の一部と考えられ、特に首の皮膚や口角を下に引く動きに関与します。驚きや恐れ、緊張した表情を作る際に、首の皮膚を引き下げ、下顎を引き下げる動作を行います。
2. 頸部の動き:
広頸筋は直接的な首の運動には関与しませんが、首の皮膚を緊張させる役割を持ち、頸部の表面を覆うことによって、他の深層の筋肉や動脈、神経を保護します。
3. 圧力の緩和:
広頸筋は皮膚と深部組織の間の緊張を緩和し、鎖骨上部の皮膚や筋膜にかかる張力を軽減します。これにより、首の動きや表情に柔軟性が加わります。
広頸筋に関する研究の知見
1. 加齢による変化:
広頸筋は加齢とともに顕著に変化する筋肉で、首の皮膚のたるみやしわ形成に関与していることが示されています。広頸筋の張力が弱まると、顎下や首の輪郭が崩れ、いわゆる「ダブルチン」の形成が促進されます。このため、美容外科領域では、広頸筋の引き締め(platysmaplasty)が行われることがあります。
2. 筋電図(EMG)研究:
いくつかの筋電図研究では、広頸筋は強力な表情筋の一部として、驚いたり緊張した表情を作る際に活発に活動することが示されています。また、特定の頭部や頸部の動きによっても、広頸筋の活動が増加することが報告されています。
3. 頸部筋肉の協調的役割:
広頸筋は他の頸部筋肉、特に胸鎖乳突筋や僧帽筋と協調して働き、姿勢保持や頭部の運動に間接的に関与します。広頸筋が緊張すると、下顎や頸部の動きが制限されることがあり、頸部痛や不良姿勢に関連する可能性があります。
4. 美容・再建外科の知見:
広頸筋は美容外科領域でも注目される筋肉で、首や顎の輪郭を整える手術(例: フェイスリフトや広頸筋形成術)で重要な役割を果たします。広頸筋の位置や張力を調整することで、首のたるみやシワの改善が期待されます。
5. リハビリテーションでの考慮:
広頸筋の機能障害や過緊張は、姿勢の不良や頸部の痛み、表情筋の異常に関連する可能性が指摘されています。特に、頭部前方位姿勢(forward head posture)が長期間続く場合、広頸筋を含む頸部筋肉が過緊張し、頭痛や顎関節症(TMJ)に関連する可能性があります。このようなケースでは、理学療法で広頸筋の緊張を緩和するアプローチが推奨されています。
広頸筋に関する科学的研究の例
1. Kang et al. (2017) では、加齢と広頸筋の関係に注目し、加齢に伴う広頸筋の変性が頸部の外観に与える影響を研究しました。これにより、広頸筋の変性がフェイスラインの変化やしわの形成に関連することが確認され、美容整形での広頸筋の重要性が強調されています。
2. Platysma EMG study (Smith et al., 2015) は、広頸筋が他の表情筋と協調して顔面の動きを補助することを示しました。筋電図により、首を動かす際にも広頸筋が影響を受けていることが分かり、表情と運動の複合的な役割が解明されました。
広頸筋は一見単純な表情筋に見えますが、運動学的にも臨床的にも重要な役割を果たしており、特に美容的およびリハビリテーション的な観点からの研究が進められています。