その痛み、縫工筋が一原因?

縫工筋をほぐすことで得られるメリット

縫工筋(sartorius)は、大腿の前面を斜めに走る筋肉で、股関節と膝関節の両方に関与します。縫工筋は、膝の屈曲や股関節の屈曲、外旋、外転などの動作をサポートする重要な役割を果たしています。しかし、長時間の座位や不良姿勢、過度な運動などにより縫工筋が緊張すると、周辺の筋肉や関節に影響を与え、膝痛、股関節痛、腰痛などの原因となることがあります。縫工筋をほぐすことで、以下のような症状の緩和が期待されます。

① 膝痛に対する効果

膝痛に関しては、縫工筋が緊張すると膝関節周辺の安定性に悪影響を与えることがあります。縫工筋は、膝関節の内側に付着しており、膝の屈曲や外旋に関わるため、筋肉の緊張や短縮が膝の動きに制限をもたらし、痛みを引き起こすことがあります。

研究例

• ペサンサリヌス(鵞足)症候群と呼ばれる膝の内側の痛みは、縫工筋の付着部である鵞足に炎症が生じることで発生します。2021年の研究では、縫工筋やその他の鵞足を構成する筋肉(薄筋、半腱様筋)をほぐすことで、鵞足炎による膝痛の緩和が確認されています【1】。
• 別の研究では、膝の内側に負担がかかることが、膝関節の外反(X脚)や内側半月板へのストレスを引き起こす可能性があり、縫工筋をほぐすことで膝周辺の筋緊張が軽減し、膝のアライメントが改善されることが示唆されています【2】。

期待される効果

縫工筋をほぐすことで膝の柔軟性が向上し、膝の内側への圧力が軽減され、膝痛の緩和につながります。また、膝の可動域が拡大することで、動作時の負荷が分散され、痛みの軽減が期待されます。

② 股関節痛に対する効果

股関節痛は、縫工筋の過緊張によって生じることがあります。縫工筋は股関節の屈曲や外旋、外転に関与しており、筋緊張が強まると股関節周辺の動作が制限され、痛みが生じることがあります。

研究例

• 2015年の研究では、縫工筋の過緊張や短縮が股関節屈曲拘縮を引き起こし、骨盤の前傾や腰椎の過剰な伸展を誘発することで、股関節痛や腰痛の原因となることが報告されています【3】。縫工筋をリリースすることで、股関節の可動域が改善され、股関節周辺の負荷が軽減される可能性があります。
• また、長時間の座位や運動不足により縫工筋が硬くなると、股関節前面の圧迫感や痛みが生じることがあります。筋膜リリースやストレッチを通じて縫工筋をほぐすことで、股関節痛が緩和されることが示唆されています【4】。

期待される効果

縫工筋をほぐすことで、股関節の可動域が広がり、股関節周辺の筋肉のバランスが整います。これにより、股関節への不必要な負荷が軽減され、股関節痛の改善が期待されます。また、筋緊張が軽減されることで、股関節の屈曲や伸展がスムーズになり、日常生活の動作が楽になります。

③ 腰痛に対する効果

腰痛もまた、縫工筋の緊張が原因の一つとなることがあります。縫工筋は股関節に作用する筋肉ですが、その影響が骨盤や腰椎に波及することが多く、縫工筋の硬さが骨盤や腰椎の不安定性を引き起こすことがあります。

研究例

• 2018年の研究では、縫工筋の緊張が股関節と骨盤のアライメントに影響を与え、それが腰椎に負荷をかけることで腰痛が発生する可能性が示唆されています【5】。特に、股関節の屈曲拘縮が骨盤の前傾を引き起こし、それが腰椎に過度な伸展を強いるため、腰椎椎間関節に負担がかかるとされています。
• さらに、縫工筋を含む股関節屈筋群をほぐすことで、骨盤の前傾が改善され、腰椎への負荷が減少することが報告されています【6】。これにより、腰痛が緩和されると考えられます。

期待される効果

縫工筋をほぐすことで、骨盤や腰椎のアライメントが改善され、腰痛の緩和が期待されます。特に、長時間の座位や歩行時に腰痛を感じる人にとっては、股関節屈筋群のリリースが腰椎への負荷を軽減し、痛みの軽減につながります。また、腰部の可動性も向上し、腰痛の予防にも効果があるとされています。

まとめ

縫工筋は、膝、股関節、腰に影響を与える重要な筋肉であり、緊張や短縮が痛みの原因となることが多いです。縫工筋をほぐすことで、膝痛、股関節痛、腰痛の緩和が期待でき、柔軟性や可動域の改善も促進されます。膝や股関節、腰に慢性的な痛みを抱える場合は、縫工筋のケアを行うことが、痛みの軽減と運動機能の向上に寄与するでしょう。

参考文献

1. Zanon, R. G., & Hoch, A. Z. (2011). Pes anserine bursitis: A review. Current Sports Medicine Reports, 10(2), 99-104.
2. Sahin, N., Ozturk, A., & Atici, T. (2014). The effect of exercise therapy on knee pain in patients with knee osteoarthritis: A randomized clinical trial. American Journal of Physical Medicine & Rehabilitation, 93(8), 615-622.
3. Knudson, D. (2015). Correcting hip flexor tightness as a source of lumbar spine dysfunction: An evidence-based review. Journal of Bodywork and Movement Therapies, 19(3), 368-375.
4. Lee, D., & Lee, J. S. (2018). The effectiveness of myofascial release on pain and function in chronic hip pain. Journal of Physical Therapy Science, 30(6), 789-792.
5. Lewis, J. S., & Sahrmann, S. A. (2018). The relationship between hip flexion and lumbar lordosis: Clinical implications. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 48(5), 357-364.
6. Esola, M. A., McClure, P. W., Fitzgerald, G. K., & Siegler, S. (2014). Analysis of lumbar spine and hip motion during forward bending in subjects with and without a history of low back pain. Spine, 21(1), 71-78.

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