wenry

脳神経内科医/感染症内科医です。一番苦手だった神経内科の道に入り、その後一番好きだった感染症内科医として勤務していました。2022年度からは神経内科所属に戻り、脳神経内科/感染症内科として勤務中です。日々学んだ事や神経所見の個人的な備忘録です。

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脳神経内科医/感染症内科医です。一番苦手だった神経内科の道に入り、その後一番好きだった感染症内科医として勤務していました。2022年度からは神経内科所属に戻り、脳神経内科/感染症内科として勤務中です。日々学んだ事や神経所見の個人的な備忘録です。

最近の記事

髄膜炎とカルバペネム系抗菌薬

  髄膜炎の初期治療にカルバペネム系抗菌薬は妥当か?この議論で必ずと言っていいほど話題にあがるのが、日本神経学会が出している「細菌性髄膜炎診療ガイドラン2014」である。今回は神経内科医ではなく、感染症内科医の立場から少しこの問題を掘り下げてみる。 細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014  まずは、一つ一つ問題を整理していく。このガイドラインで、免疫能が正常と考えられる16-50歳未満の項目に、「日本における肺炎球菌の耐性化率は高く、肺炎球菌性髄膜炎成人例の8割がペニシリン非

    • 日々是神経診察 -Hoover test-

      器質性片麻痺と心因性片麻痺の鑑別として有名な所見である(連合運動の見ている)。 患者にベッド上仰臥位となってもらい、一方の下肢を伸展挙上してもらう。検者の一方の手を挙上下肢を抑えるのに、もう一方の手を挙上しない方の踵の下に置く。 ①器質性片麻痺がある患者 健側下肢を挙上させた際に麻痺側踵に加わる力 < 麻痺側下肢を挙上させた際に健側踵に加わる力 ②心因性片麻痺が疑われる患者 健側下肢を挙上させた際に麻痺側踵に加わる力 > 麻痺側下肢を挙上させた際に健側踵に加わる力  

      • 日々是神経診察 -Marie-Foix屈曲退避反射-

        Marie-Foix区局退避反射は、集合屈曲反射や病的短縮反射とも呼ばれる。 防衛反射の一つで、臨床的意義は2つ挙げられる。①脊髄横断病変のレベルを推測と②対麻痺の予後判定である。足背皮膚の疼痛刺激より誘発閾値の低い検査とされる。 脊髄錐体路障害により高度の痙性下肢対麻痺、片麻痺で、下肢が著しい伸展位をとり関節屈曲が困難な患者において、拇趾を除く4足趾を検者が他動的に持続屈曲すると、拇趾と足が背屈して膝、股関節の2関節が屈曲する(triple flexion reflex

        • 日々是神経診察 -口蓋振戦-

          以前は口蓋ミオクローヌス(palatal myoclonus)を呼ばれていたが、ミオクローヌスの特徴である瞬発性運動ではなく、律動的であることから現在は口蓋振戦(palatal tremor)と呼ばれる。 3Hz前後の律動的な口蓋帆の不随意な挙上運動で、発話時などには一時的に停止するため、自覚症状はないのが普通とされる。また、他の振戦と異なり睡眠中でも持続する点が特徴。どのような動きか一度動画で見ておくといいと思います。 ギラン・モラレ三角(Guillain-Mollar

          日々是神経診察 -Miller Fisherの上肢協調運動-

           まず初めに私が何回も何回もボロボロになるまで読んでいる神経診察の本がある。それが、『神経診察の極意(廣瀬源二郎 著)』である。神経所見の本で、専門医受験の際にほぼ全員目を通しているのは『ベッドサイドの神経の診かた』だと思われるが、私はこの小さくてコンパクトなのにギッシリと詰まった神経所見のエッセンスが大変気に入っている。ぜひ興味があれば手にとってみて欲しい。 さて、今日はその中の一つのエッセンスを紹介しよう。上肢及び下肢の麻痺のない状態での協調運動 coordinatio

          日々是神経診察 -Miller Fisherの上肢協調運動-

          日々是神経診察 -Adie瞳孔-

          強直性瞳孔や瞳孔緊張症とも呼ばれる。障害部位は、毛様体神経核とその神経核より抹消の神経繊維(毛様体神経節)やその後の短毛様体神経の障害による副交感神経の障害とされるが、発生機序には諸説ある。 ・輻輳および調節の経路(脊椎脊髄 2015;28 ⑷:344-346より) この図では、視蓋前野(前域)を通っているように見えるが、Argyll-Robertson瞳孔でも見た通り、輻輳反射の経路は視蓋前域の腹側を通ることによって、対光反射と近見反応の解離が起こるとされる。 毛様体神

          日々是神経診察 -Adie瞳孔-

          日々是神経診察 -Argyll Robertson瞳孔-

          先日Marcus Gunn瞳孔を記載した際に、ちょっとだけ紹介したお師匠のArgyll先生の名前がついた所見です。脊髄癆(tabes dorsalis)を主体とする神経梅毒の徴候として有名ですが、多発性硬化症、中脳水道近傍の腫瘍、脳炎など他の原因でも起こることがあります。 病巣は正確にはわかっていませんが、視蓋前域が責任病相部位であると言われており、対光反射の経路が選択的に両側性に傷害されて起こるとされる。 ※視蓋前域:中脳上丘のレベルで対光反射に関与している領域 さて

          日々是神経診察 -Argyll Robertson瞳孔-

          日々是神経診察 -Marcus Gunn瞳孔-

          視神経求心路の障害を示唆健側眼に光を数秒当てた後に観側眼に光を当てることを交互に繰り返す(swinging-flashlight test)と、患側眼に光を当てた際、わずかに収縮した後に散瞳が起こる。 元々対光反射は、直接対抗反射(direct light reflex; DLR)に比べて間接対光反射(indirect light reflex; IDLR)の縮瞳が弱いらしい。 そこで、この原理を理解するには次の例がわかりやすい(個人的に)。DLRを100%、IDLRが9

          日々是神経診察 -Marcus Gunn瞳孔-

          日々是神経診察 -Beevor徴候-

          下部胸髄(Th10-11)の髄節徴候腹筋は臍を境に、上はTh8-9、下はTh10-11(12と書いている文献もある)の脊髄髄節から支配を受けている。通常、部分的に動かすことはできない。 Th10-11の髄節が傷害されると、臍下腹部の随意筋の収縮ができなくなるため、臥位から座位に患者を起きあがらせようとした際に(腕組み腹筋のような形)腹筋上部のみが収縮して、臍が上方に引っ張られて動く。 Neurology 2016;86;e250-e251

          日々是神経診察 -Beevor徴候-

          脳卒中治療ガイドライン2021での変更点(急性期線溶療法・血管内治療、内服抗血小板・抗凝固)

          脳卒中治療ガイドラインが改定されました。今回は『脳梗塞・TIA一般』の変更点の一部。今回のガイドラインでは部分的にクリニカルクエスチョン方式が導入されていますが、メインは従来の推奨文方式となっています。急性期線溶療法や血管内治療に関して前版より推奨内容が詳しくなっています。 脳梗塞急性期● 線溶療法と血管内治療 経静脈的線溶療法と経動脈的血行再建療法の2項目へ分けて記載。 □ 発症早期の脳梗塞で、下記を全て満たす症例は、rt-PAを含む内科治療に追加して、発症から6時間以

          脳卒中治療ガイドライン2021での変更点(急性期線溶療法・血管内治療、内服抗血小板・抗凝固)

          傍腫瘍性神経症候群(PNS)の診断基準update

          傍腫瘍性神経症候群(Paraneoplastic Neurologic Syndrome:PNS)、いわゆるパラネオと言われているものですが、診断基準が16年ぶりにUpdateされました(提言)。Neurologyからopen accessでフリーで閲覧可能です(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34006622/)。簡単に変更点をまとめました。 ●旧診断基準(2004年)今までは、2004年のPNS Euronetworkの臨床診断基準を用い

          傍腫瘍性神経症候群(PNS)の診断基準update