見出し画像

[論考] 社会を前進させる健全な”逃避”

本Noteも気づけば10記事目となりました。
皆さんご覧いただき本当にありがとうございます。

現状、私の思考像やそれを構成する書評もごく一部に留まっていることもあり、ほぼステルス状態なのですが、今回は書評でなく、私の論考を書いてみようと思います。
(なお本論考は、昨日のMorning Page(書く瞑想)で自分の中で整理した内容ですので、まだまだ浅薄な部分もありますがご了承ください)



逃避は悪か?

誰しも一度は、環境やコミュニティ、特定の人間関係から逃げ出したいと感じたことがあるのではないでしょうか。あるいは、テスト勉強をしようと思ったのに気づけば部屋の掃除をしている、といった経験もあるかもしれません。

現代社会において、一般に「逃避」という言葉・行動は、単なる怠惰や弱さの表れとして捉えられがちです。むしろ、人々を現在の社会が望む「勤勉」に仕立て上げるため、そう意図的に思わされている、とさえ言えるかもしれません。

ただ、これまで本Noteでも触れてきているように、人生や認識は全て、内的自己(自身の価値観・世界観)と共同幻想(社会の求める価値観・世界観)の間に発生するものであり、これをふまえると、「逃避」あるいは「逃避したい気持ち」というのは、自己と他者の間の価値観の相違に起因するものであり、「内的自己」の幸せに繋がるための手段ともいえるかもしれません。

本記事では、「逃避」という感情・行動について深堀りしたうえで、「発達」 や「自己実現」 という観点を取り入れ、「自己中心的でない逃避」を「健全な逃避」と定義し、論考してみようと思います。

「逃避」に関する理論を読み解く ー 心の「防衛機制」

まず、「逃避」という気持ちがなぜ起こるのかを考えてみましょう。それは、自己と他者、つまり共同体における価値観に相違が生じたときに、そのズレを埋めるための対応策として発生します。つまり、無意識が自分の心を守るために、「逃避したい」という感情を生みだしているということです。

これをはじめに整理したのがフロイトと言われており、フロイトは「防衛機制」という言葉で、「逃避」を含め、心(無意識)が外部からのストレスや不安に対してどのように自己を守るのかを説明しました。有名な「投影」や「退行」などはこの中に含まれています。

それ以降も多くの研究がなされましたが、ハーバードの医学部教授であるジョージ・E・ヴァイラントは、こうした防衛機制を心の成長や成熟度によって4段階にレベル分けをしました。

3つの不健康的な防衛機制

不健康的な防衛機制は3つの段階に分けられ、1から順に自己中心的(子どもっぽい)反応の仕方といえます。それぞれの防衛機制について解説します。

  1. 病理的防衛 - 最も未熟な防衛機制であり、現実の歪曲・無視を伴います。これらの防衛は、現実を認識しがたいときに用いられます。

    • 否認: 受け入れがたい現実を拒絶すること。
      例: アルコール依存を否定して「自分は病気ではない」と思い込む。

    • 分裂: 物事を全て良いか悪いかで分ける傾向。
      例: 誰かを理想化し、欠点を全く見ないこと。

  2. 未熟な防衛 - 現実の苦痛を軽減した形で認識します。結果として、人間関係や社会生活に障害をもたらすこともあります。

    • 退行: 強いストレス下で、過去の幼い行動に戻ること。
      例: 失恋の際に部屋に閉じこもって泣く。

    • 投影: 自分の不安や否定的な感情を他人に押し付けること。
      例: 自分が他人を避けているのに「あの人は自分を避けている」と思い込む。

  3. 神経症的防衛 - 社会的適応と両立した感情処理をめざします。ただ、繰り返すことで自分の感情を適切に処理できなくなる可能性があります。

    • 抑圧: 不快な感情を無意識に押し込むこと。
      例: 本当はやりたかったけど何らかの理由(経済的事情など)でできなかったことを、やりたい気持ちを心の底にしまうことで、日常生活の中で意識しないようにする

    • 合理化: 自分の行動や失敗を理屈付けて納得させること。
      例: 失敗を「自分にとってその出来事は重要ではない」と正当化する。

ここまで見てきたように、不健康な防衛機制は、社会、あるいは自身の何かを犠牲にし、自己を守っていることがわかります。

第四の健康的な防衛機制

一方で、ヴァイラントは、4形態目として「成熟した防衛機制」を挙げ、ストレスを前向きに、つまり自身及び社会の双方に意味ある形で処理する概念を提唱しています。

成熟した防衛 - 自己の成長を促し、社会的に受け入れられる形でストレスに対処する防衛機制です。

  • 昇華: 不快な感情や欲求を建設的な行動に変換すること。
    例: 怒りを創造的なプロジェクトや仕事に活かす。

  • ユーモア: ストレスの元となる出来事を笑いに変えることで、心理的な距離を取ること

  • 抑制: 感情を完全に押し殺すのではなく、適切な場面で表出するように意識すること。
    例: 緊張を抑えながらプレゼンに集中する。

これらの成熟した防衛機制は、豊かな人生を送るために意識的に活用すべきものであり、感情を押し込めるのではなく、健康的な形で表現し、適応することが特徴です。

健全な逃避は"自己の純度"を高め、より良い社会を創る

ここで、私が考える「健全な逃避」についてご紹介していこうと思います。
基本的には、防衛機制における「昇華」の一つの派生形と捉えています。

「健全な逃避」 
自分のやりたいこと(価値観)・成し遂げたいこと(世界観)の純度を高めるために、環境を変える・コントロールすること

言うまでもなく、我々は他者を変えることはできません。変えられるのは「自分のあり方」のみです。

そして、「逃避」というのが内的自己と共同幻想の衝突によって起こるとするならば、その「逃避」を引き起こしたポイントは、自分のあり方(価値観・世界観)に起因しているはずです。

その裏にある価値観・世界観を言語化し、それが「真・善・美」の観点で妥当だと考えるのであれば、それは自己中心的な動機ではなく、自己実現、あるいは自己超越的な価値観だといえます。

人類はこうした自己実現・自己超越的な価値観を表明し、それを通じて共同幻想としての社会の価値観をリニューアルすることで、社会を変化・前進させてきました。

つまり、この場合における「逃避」とは、自己の掲げる価値観・世界観をより強く(純度高く)表現できる場へシフトし、社会を前進させる取り組みと言えるのではないでしょうか。


「健全な逃避」のためのチェックリスト

ここでは、上述の「健全な逃避」であるかどうかを自問するための3つ質問を紹介します。

  1. 自分の心身に危機はないか?
    現在の環境にいることで心身に危機がある場合は、健全であるかどうかに関係なく、すぐに環境を変えるべきです。

  2. 現環境における対立構造はどの程度硬直的か?
    人間は他者を変えられませんが、対話したり働きかけることはできます。今の環境は、そうした対話や働きかけを通じて解消できそうでしょうか?
    対立が深刻であったり、社会的立場(株主や経営者など)による制約がある、経路依存性が高い(雁字搦めで変革には大きな痛みが伴う)ような場合、その環境に留まっても、社会を前進させる自己実現・自己超越は難しいかもしれません。

  3. その「逃避」は真・善・美の観点から妥当か?
    現環境での実践が難しい場合は、「健全な逃避」をすべき局面かもしれません。
    ただし、人間の意識は心を守るために誤魔化す機構を有しています
    自分の逃避が単なる言い訳や自己正当化になっていないかを自問し、それが「真・善・美」の観点で妥当かどうか考えてみましょう。
    この際、信頼できる人に相談したり、ChatGPTを用いて検証するのも有効な手段です。


おわりに

「逃避」という言葉には、どうしてもネガティブなイメージがつきまといます。
場合によっては、現在の社会の仕組みや特定の共同体を守るために、逃げることを極端に非難するような共同体さえ存在するでしょう(戦争における敵前逃亡などはその最たる例です)。

しかし、自分の考えるより良い世界の実現のために、それをより実践しやすい場へシフトすることは、「健全な逃避」と言えるのではないでしょうか。

もし今、あなたが自分の置かれた状況に苦しんでいるのなら、それは単なる怠惰や無責任ではなく、健全な変化を求めるシグナルかもしれません。

そのシグナルに正直になり、より良い未来のために、自分自身で選択をしてみてください。それが健全な逃避であるなら、あなたはきっと、より自分らしく、充実した日々を送ることができるでしょう。


おしまい。

本noteは全記事無料で提供しております。
私の気づきが、少しでも皆さんの幸福に繋がれば幸いです。

これまでのキャリア経験(大企業・戦略コンサル・スタートアップ)を通じた示唆や、性格理論・成人発達理論・自己実現・自己超越などの知見をもとに、キャリア・ライフコーチングを行っています。
人生・人間関係・キャリア・成長・成熟など、お悩みの際はいつでもご相談ください!ご相談はこちらから。
https://note.com/wellbeinglibrary/n/na756d1a160db

また、ご支援してもいいよ、という方いらっしゃいましたら、「サポートする」ボタンかこちらの投げ銭ページをご利用くださいませ!
https://note.com/wellbeinglibrary/n/n5bd31e600ce1


いいなと思ったら応援しよう!