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「顧客体験価値ランキング2023」レポート  1位は帝国ホテル、2位はサイゼリヤ。

みなさんこんにちは。
マーケティングディレクター兼データサイエンティストのtohari.です。
今回は世界的なブランド専門会社の日本法人インターブランドジャパン社より、2023年6月22日に「顧客体験価値(CX)ランキング2023」が発表されましたので、その内容をレポートいたします。

「顧客体験価値(CX)ランキング」は、2015年よりUS/UKで始まり、日本でも2019年より実施され、今回で5回目になります(前回は2022年10月)。
この調査は、お客様の気持ちや求めることを「よく理解している」と感じる企業と「あまり理解していない」と感じる企業をそれぞれ1つずつ純粋想起であげてもらい、それぞれの企業に対してなぜそう思うかについて訊いた21の質問回答を元に、ランキングにしたものになります。

「顧客体験価値(CX)」をテーマにしたものなので、メーカーというより、飲食店や小売店、サービス企業が目立つ結果にはなっていますが、消費者の印象に残るブランドとその理由の一部が公表されていますので、共有していきたいと思います。


顧客体験価値ランキング2023、ハイブランドと低価格ブランドで1位2位を分ける。

「顧客体験価値ランキング2023」TOP10

出典:インターブランド社「顧客体験価値ランキング™︎報告書」

2023調査の1位は「帝国ホテル」で、2022調査の14位から大きくランクアップし初のトップに立っています。ついで2位は「サイゼリア(前回13位)」、3位は「ファンケル(前回36位)」という結果で、ともに前回調査から躍進しています。
ちなみに昨年の1位は丸亀製麺、一昨年の1位は「星野リゾート」でした。
 
この調査では顧客体験価値を5つの要素(指標)に分解し、計21の質問項目で評価しています。
5つの要素は以下の通りです。

出典:インターブランド社「顧客体験価値ランキング™︎報告書」


1位「帝国ホテル」の結果を見ると、5要素全てで一昨年トップの星野リゾートを上回っており、特に「OPENNESS」の評価が高いことがわかります。

出典:インターブランド社「顧客体験価値ランキング™︎報告書」

自由回答内容を見ると、「落ち着いていて配慮がいいのと、特に食事の面において損をすることはない。 食事の中でもかなり質のいい食事が用意されていて、女性同士で来たりするのも人気になっている。(20代女性、現ユーザー)」などの意見が挙がっています。

出典:インターブランド社「顧客体験価値ランキング™︎報告書」

ただし、回答者の6割が未利用者となっており、上の「自由回答意見」の内容にも「・・・しそう」といった意見が含まれています。

今回の調査は顧客体験価値の評価ではありますが、見聞きした情報によるイメージ評価(=期待価値)も含まれており、インターブランドジャパン社長兼CEOの並木将仁氏によると、未利用者を含めている理由について「メディアや実際に購入・利用した人の口コミを通じてブランド価値が未利用者にも伝わっていることは体験価値だと考えている。『フェラーリ』を挙げてくれてもいい。未利用でも想起されることに意味がある」と説明しているようです。

ですが個人的な意見としては、「百聞は一見にしかず」ともいうように、未利用者によるイメージ評価と利用者による実体験評価を同じに扱うのにはかなり無理があるように思います。
帝国ホテルが素晴らしいホテルの1つであることは事実だと思いますが、6割を超える未利用者の評価を含めての1位という結果には疑問も感じますし、前回13位から躍進している具体的な理由が公表データからは見えないのも残念です。

 
2位の「サイゼリヤ」の詳細結果は以下の通りです。

出典:インターブランド社「顧客体験価値ランキング™︎報告書」

5要素のうち、最も高く評価されたのは「RELEVANCE」で、評価理由には、「消費者の事情をくんで値上げをしない」など、「コストパフォーマンス」の良さに関連するものが多くあげられています。

給与自体は変わらないまま、ライフラインを含め様々な物価高が進む社会背景の中で評価されたものと推察できます。

出典:インターブランド社「顧客体験価値ランキング™︎報告書」


3位の「ファンケル」の詳細結果は以下の通りです。

出典:インターブランド社「顧客体験価値ランキング™︎報告書」

ファンケルは前回37位から3位へ大きく躍進したわけですが、5要素のすべての指標で評価が大きく向上しています。
 
自由回答を見ますと、ファンケルの「顧客の声」を真摯に聞き取り入れる姿勢が大きく評価されているのがわかります。

出典:インターブランド社「顧客体験価値ランキング™︎報告書」


ファンケルといえば、最近では「ファンケル銀座スクエア」が有名です。この施設は「美も、健康も、新しい体験。」というメッセージのもと、ファンケルの魅力全てを体験できる場所であり、ショップからギャラリー、レストラン、ビューティやヘルスをテーマとしたスタジオ、さらにゲーム感覚で無料健康チェックができる「元気ステーション」まで網羅されているブランド体験施設になっています(元気ステーションについては「<連載>国内外事例から読み解く、2023年オムニチャネル戦略論④」の中でもご紹介しています)。

このようなファンケルのモノ売りだけでない幅広い取り組みが、今回の調査結果にも反映されたのではないかと思われます。

 

「顧客体験価値ランキング2023」TOP50

TOP50の順位はこちらです。

出典:インターブランド社「顧客体験価値ランキング™︎報告書」


このランキングをみて個人的に少し意外に感じたのは、ハイエンドブランドやエンターテイメントブランドの数が思ったより少ないということです。

例えばルイビトンやディズニー、伊勢丹、レクサスなど、人を楽しませたり、ホスピタリー性に優れたブランドが顧客体験価値の高いブランドとしてもっと多くのランクインしているのか思っていたら意外と身近なブランドが多くを占めています。

その理由は今回のレポートからは読み取れませんが、少なくとも言えるのは、絶対値の高いホスピタリティ性やエンターテイメント性だけが社会的に評価される訳ではないということであり、価格の多寡や利用形態、業種に関わらず、それぞれのブランド性にあった「体験価値づくりのあり方が存在する」ということです。
 
そしてもう1つ気になるのが、「日清食品(7位)」「味の素(8位)」「小林製薬(11位)」「サントリー(12位)」「花王(15位)」などメーカーが数社ランクインしていますが、顧客接点を持たないメーカーがどのように顧客体験価値を提供しているのか、ということです。
これについても今回のレポートからは読み取れませんが、個人的に興味がありますので、各社の最近の取り組みを調べその内容を別の機会にでも考察できたらと思います。
 
 

CXスコアの上昇幅ランキング

次に前回調査からスコアを大きく伸ばしランキングを見て行きたいと思います。

出典:インターブランド社「顧客体験価値ランキング™︎報告書」

ここで1位となっているのが「ローソン」で、コンビニの中で唯一ランクインしています。

コンビニの顧客体験づくりと言いますと一見難しそうにも思えますが、主な自由意見を見てみますと、コンビニスイーツなど各種PB商品や新商品に関する「商品施策」やローソンアプリやぽん活などの「プロモーション施策」、丁寧な「施客」などが相まって「元気にしてくれる」という価値づくりに寄与している様子が伺えます。

出典:インターブランド社「顧客体験価値ランキング™︎報告書」


「元気にしてくれる」という意味では、昨年の「濃密カヌレ」の大ヒットや今年に入ってからは「47%盛りすぎチャレンジ」と題したキャンペーンが3週にわたって実施され一部品切れになる人気になりましたが、こうした印象に残る商品やキャンペーンからもこの結果を裏付けることができます。

 「顧客体験」というと少し難しく感じますが、商品であれ、プロモーションであれ、接客であれ、何かしらの「サプライズづくり」と考えれば様々なアイデアも浮かびやすいかもしれませんね。
 

考察・まとめ

今回は「顧客体験価値(CX)ランキング2023」の内容についてご紹介させていただきました。

今回の内容から感じたこととして、まず、調査方法や評価方法について一部疑問な部分があったとともに、評価につながる理由が少しばかりの自由意見からしか読み取ることができず、世界的なブランディング専門会社のレポートとしては少し残念な部分がありました。
 
一方で今回の結果からの学びとして、以下のようなことを感じることができました。

TOP50の紹介パートでも述べた通り、ハイエンドブランドやエンターテイメントブランドというより身近の大衆ブランドが多く含まれており、大衆ブランドがハイエンドブランドを上回る状況が存在しています。このことから顧客体験価値とホスピタリティ性やエンターテイメント性とは必ずしもイコールではなく、低価格ブランドや直接的な顧客接点を持ちづらいメーカーであっても社会的に評価される顧客体験づくりを行える、ということが言えると思います。

その一端として挙げられるのが、サイゼリアやローソンのような事例ですが、そこから直接的に考えると大衆ブランドの顧客体験づくりのポイントは「コストパフォーマンス性」ということになるとおもます。

ですが個人的にはそれは1つの打ち手に過ぎず、重要なのは「期待値を超えるサプライズ性」ではないかと推察します。

高級ブランドにしても、低価格ブランドにしても、それぞれ期待値が異なります。高級ブランドにはそれに見合った期待値がありますし、低価格ブランドに対しても同じです。一方、体験価値を別の言い方をすればおそらく「サプライズ性」であり、サプライズ性は期待値に対して生まれます

つまり、ブランドが持つそれぞれのこれまでの印象や特徴を超えた何かしらのサプライズ性を生み出すことができれば、その度合いによって大衆ブランドであってもハイエンドブランドに勝つことが可能になるとともに、コストパフォーマンスの高さでなくても高い顧客体験価値づくりを行えるはずです。

工夫すべきは期待値を前提としたサプライズの作り方、ということかと思います。
今回の発表ではその作り方のヒントまでを得ることはできませんが、また別の機会にその可能性を考察してみたいと思います。
 
 
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