ひたすらアリの群れを見ていた休日
5~6歳の頃、当時住んでいたマンションの庭でアリを眺めるのが好きだった。
アリの行列を辿ってアリの巣を見つけ、次から次へと穴へ出入りするアリたちを見つめていた。
この子とこの子が仲良しで…
こっちの子はお姉ちゃんで…
とアリたちの関係性を想像して、会話をアフレコして楽しんだ。
真夏の日中、麦わら帽子を被って真っ黒に日焼けをしながらアリを見続けた。
あの頃は最高気温が30℃くらいだったから、じんわりと汗がにじむ程度だった。
小学3年生になると、国語の授業で「ありの行列」という作品を読んだ。
アリはほとんど目が見えない。それでも行列をつくって進めるのは、お尻から特殊な液体を出しながら歩き、仲間がそれを辿っていくからだということを知った。
ずっと眺めていたアリの秘密が分かり、もっとアリに夢中になった。
そのころには私は戸建てに引っ越していて、家の前には小さな公園があった。
台所からスプーン1杯の砂糖を持ち出して、公園の隅に盛る。
しばらくすると、アリが行列を作る。
教科書に書いてあったように、行列の途中に石を置いて邪魔をしても、すぐに別ルートでアリの道ができる。
「あれ?道がなくなっちゃった」
「こっちに道があるよ!」
小学3年生になってもアリたちの会話を想像するのは楽しかった。
いつ頃からだったかは分からないが、アリを眺めることはなくなっていった。
そして最近、家の中にアリが出るようになった。
床に落ちていたティッシュにアリが群がり、部屋の隅にアリの行列ができていた。
外で見ると愛着が湧くアリの行列も、家の中で見ると寒気がするくらい不快なものだった。
なんとかせねばと、夫がネットで調べてアリの撃退グッズを購入した。
その名も、「アリメツ」!!!!
ちょうど休みの日にこの「アリメツ」が届いたので、その効果を観察することにした。
薬液を容器に数滴垂らし、部屋の隅に置く。
しばらくすると、大量のアリが寄ってきた。
垂らした薬液の輪郭がくっきりわかるぐらいにアリが群がって、各々が一生懸命に薬液を吸っていた。
写真も撮ったが、あまりにもびっしりとアリが密集しているため、ここに載せるのは自粛しておく。
アリたちが入れ替わり立ち替わり「アリメツ」を吸っていく。
アリの密度のピークから3時間後には、だいぶアリの数は減ってきた。
そして設置から約8時間で、
アリ、滅!!!!!
「アリメツ」を設置してから終息まで、途中で食事や家事をしたり、スマホを見たりしながらもアリたちを観察した。
こんなに一生懸命にアリを見たのは、小学生以来。約20年ぶりだった。
もう、あのときのようにアリたちの関係性は見えてこなかったし、今の私の頭の中では、アリたちは会話をしなくなっていた。
私は回し者ではないけれど、とにかく「アリメツ」の効果はすごい。
アリとともに、私がかつて持っていた純粋な心も滅んでしまったのかもしれない。