箱の中の天使

毎朝一緒の車両、同じドアから乗ってくる
女の子がいる。
多分地毛であろう透き通るような茶色い髪
アーモンド色の綺麗な瞳
消えちゃいそうなくらい真っ白い肌
心を奪われるとはまさにこのことだと。


疲れ果てたサラリーマン、課題に追われる学生
朝の電車は日本の現状が徐に露われていると思う。

私は車窓からみえる景色が好きだ。
みな小さな画面に夢中になっており、景色を楽しむ人は0に近い。


箱の外の世界を客観的に眺めることができるんだ
畑仕事を頑張っているお婆さん
毎朝遅刻しそうになっている中学生の男の子
家のお庭でモーニングを楽しむ夫婦
小さい屋根の下で友達を待つ小学生の女の子

こういう日常を箱の中から座ってみるのが好きなのだ
映画みたいで 物語みたいで
想像をするのが楽しいのだ

もしかしたら、
毎朝小さい屋根の下で誰かを待っていると思われる
小学生の女の子は
友達ではなく彼氏と待ち合わせしている可能性もある。

こういう小さな想像が私を晴れやかな気持ちにさせる


そんな中毎朝同じ駅から乗ってくる天使がいる。

ちょうど私が座っている席から見える位置に
いつも乗ってくる。

灰色の箱の中、その子だけは色のない輝きを放っている

どちらかといえば可愛い顔つきなのだが、
私は綺麗だと最初に思った。

その子は小さい箱に囚われることなく
毎朝目の前を見据えている

彼女には箱の外がどう見えているのだろう
何を見ているのだろう
気になって仕方がない

箱の外に夢中だった私は
いつからか箱の中の天使に夢中になる


どうしてもその子の視界に入りたい
という想いが強くなり

私は自分磨きを始めた。

髪型を変え、眉毛を整え、軽いお化粧をする。
ダイエットも頑張ってスタイルも良くした。

周りからの目線、明らかに増えたナンパ
私は確信的な自信をつけてから勇気を出した。

まずは毎朝電車を降りる時、
私はあえてその子の目の前を通るようにした。
これで少なくとも視界には入っているはずと少ない望みを持ちながら、

そんな私にもついに願いが、想いが届く時がきたのだ。



「毎朝電車一緒ですよね!?可愛いなってずっと思っていましたよかったら仲良くして欲しいです。」

というなんとも嬉しすぎる文章と一緒に
インスタのフォローがきたのだ。

やっと天使の視界に入れたのだ。
私の努力はハグされたのだ。

私は天使に手を握られ、天国へ連れて行かれたんだと、
それくらい嬉しかった

それから毎朝私たちは
「おはよう」という素敵な言葉を交わすようになった。

天使と目が合う。天使が私に笑いかけてくれる。

私は上手に笑えているだろうか、
可愛い笑顔を作れているだろうか、
そんな不安もあるが、

天使の「おはよう」という声で
全てが吹き飛ぶんだ

なんて素敵な挨拶

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