AIと対話してみる
Midjourneyであるとか、下記のDreamのような画像を生成するAIが話題になっているが、文字列を生成するAIにも大変なものが登場している。
今回は上の記事にも登場するOpenAIの文字列生成AIで遊んでみよう。
上記リンク先からPlaygroundに入ると、試してみて、ということで「アイスクリームショップのためのタグラインを書いて」という指示例が書かれていたため、まずそれを入れてみる。
もし仮に、大手広告代理店に勤務するコピーライターの知人に300万円払ってこれがクリエイティブとして納品されたら…(以下略
いや、いまはAIである。グリーンのマーカーでハイライトされているところが、AIの書いた文章である。これをベースに人があつまってわいわいとブレストするなら十分ありなのではないか?!
1.「生」の意味の言い換えを試す
というわけで、このAIが「けっこういけそうだ」ということがわかったので、まず次のように問うてみた。
これに対するAIの応答は以下の通りである。
生きることの意味とは、自分の人生を楽しんで、豊かな人生を送って。
なんというか、実にまっとうな応答ではないだろうか。
2.死の意味の言い換えを試す
次に、質問を変えてみる。
ここで「死」という恐ろしげなことを持ち出したのは、これが「生」に対立する概念だと(私が)思うからである。
生/死
AIの答えはつぎのとおりである。
人生は一度きり、それを大切にして楽しむ。
そしてその楽しみな人生もまた「終わりを迎える」ことを受け入れ、そこから転じて一度きりの人生をより創造的に生きよう。
なんというかAIが人間を全面的に応援してくれているような言葉が並び安心した。
死に対して、なにかゾッとするような応答が出てくるのではとハラハラしたが、出てきた答えはこれまたまっとうだ。
* *
AIもなかなか的確なアドバイスができていいな、という話で終わりにしても良いのだが、こちらはなんといっても本を読みすぎの人間である。
”人生” = ”全力楽しむこと”
○ = ●
という一組の”言い換え”で”二項関係を立てた”ところでは、まだ意味するということについての問いを終わることはできない。
(このあたりの詳しいことは下記の記事に書いているのでぜひご参考に)
◇
そこで質問フェーズを上げて次のように問う。
3.生/死 どちら側に振り分けるか?
ここで何を問うているかと言うと、つまりAIに対して、あなたは”非-Aの意味”について語っていると言いますが、それは”Aの意味”ですよね?”非-Aの意味ではない"ですよね?とやっているのである。
これに対して、AIはすかさず切り返してくる。
この返しが実にうまい。
正しいです。
正しいです!!!
この返しはうまい。
このAIは「会話」「チャット」用のAIにも使えそうである。
人間同士の会話では、言葉の意味内容もまあちょっとは大事だが、なんというか「口のききかた」「ものごし」的なことも求められるのである。
例えばビジネスの現場でも、生産性を上げる素晴らしいアイディアを滔々と説明している人に対して、「その言い方は…」「その態度はなんだ!」といった反応が向けられることは非常に多い。
クレーマー感のある質問を投げつけられたときにも、(「こいつ!」と心に思いつつも、表向きは笑顔で)「正しいです!」と言い、まずは相手が口にしていることを肯定する。というか、真剣に聞いていますよ、真剣にとりあっていますよ、という感じをだす。
これはビジネス上の会話でも重要なスキルである。
また学術の対話の場面でも基本これと同じような応答がその後の会話を楽しく豊かなものにしてくれる。ただし学術では、いきなり「正しいです!」などと同意してしまうのは火に油を注ぐリスクがあるのでやめておくことをおススメする。せいぜい「たいへん重要な論点を頂戴しました。まずは先生に深謝いたします。」というくらいに留めておいたほうがいい。
*
中身にもどろう。
こちらが発した「死に向けて生きることの意味」という言葉の方へ振ってくる。こちらが発した「死に向けて生きることの意味」という文字列の方へ、これまでにAI氏が発した文字列たちとその仲間たち(「人生」「有意義」「生きる意味」「受け入れる」)を、続々と接続してきているようである。
と、ここでなんとなくこのAIの手の内が見えてきたように思う。
あなたは”非-Aの意味”について語っていると言いますが、それは”Aの意味”ですよね?と尋ねたことに対して、”はい、おっしゃる通り、Aの意味の方の話をしています”と返してくる。
A / 非A
・・どっち??
こちらが、非AではなくAの方について言及しているのだと判別すると、Aの方を言い換える文字列に絞ってくる。
2'.死の意味 2回目
もう一度、「死の意味」について問うてみる。
この答えは先ほどの2.死の意味に対する回答と同じである。
生きながら、生が終わることを認め、受け入れ、悲しまない。
生の側からみた、生の内部における”死というコトバ”についての意味づけ=言葉の言い換えを提示している。
このAIは、質問者(わたし)が意識的にせよ無意識的にせよ立てている二項対立関係の対立関係(四項関係)を学習して、その四項関係を言葉と言葉のの線形の置き換え=言い換えとして配列しているようにみえる。
このことを確かめるため、次のように質問する。
3'質問者が発する任意の文字列Xを、二項対立のどちらの項の側を選択してつなぐか
「はい、正しいです」に”ロボットと喋っている感”が漂っているが気にしない。
ここで私が繰り返し尋ねていることはすべて3の質問の変奏である。
質問者である私は、下記のような二項対立を立てつつ、執拗に質問を繰り返している。
a生 / ¬a 非-生
||
a1 生について問うこと / ¬a1 非-生について問うこと
||
a2 死について問うこと / ¬a2 非-死について問うこと
||
a3 意味を問うこと / ¬a3 非-意味を問うこと
||
a4 言葉で問うこと / ¬a4 非-言葉で問うこと
こちらが行ったaからa1,…,a4への置き換えを、AIはそのまま学習して、再現している。
こちらが言いそうなこと、こちらがやりそうな置き換えを、先回りしてシミュレートしているようである。
◇ / □
ここでかなり意地悪な(だと人間の私が勝手に思っているだけの)質問をしてみる。
5.AIも両義的にいける
死そのものは、生そのものである。
死は生である。
生と死が、経験的にたがいに相容れない、排除し合う二項関係だということを知っている人間からすると、このふたつを短絡して直接言い換えてしまうことは、現実についての伝達報告の道具としての言語という点ではまったく意味を成していない。
強いて言えば「男は女であり、女は男である」とか「闇は光であり、光は闇である」といった言葉たちと同じような、ロゴス的ではなくレンマ的、日常の意味に少し疲れてしまったひとをしてハッとさせるためにあえて言われた意味深な言葉として、その存在意義を認められる言い方ということになろうか。
こういう生=死、a=非a、1=0という配列に対して、1でなければ0、0でなければ1なデジタルコンピュータに生きるAIは、一体どう反応するのだろう??
その答えはこれである↓
「そうです」と来た。
さらに「死そのものは、生そのものであり」とくる!
死 即 生
これだけみると、なにやらこのAIは大変な賢者なのではないか?!とさえ思いたくなるが、別にそうではない。
これをみて1でなければ0、0でなければ1なデジタルコンピュータが1=0をやった!と驚いてみたくもなるのだが、実はそれは人間が、私が(いかにも人間らしく)論理回路の1または0の二項対立と、生と死という二項対立を、勝手に同じようなものとみなして重ね合わせているだけである。
このAIはただ、私がもともと「死そのもの、などという言い方からして、生そのものである」と文字列を配列したものを、そのまま繰り返しているようだ。
ここでさらに、AIが二項対立関係がどう扱っている(ように人間に見える)のか、調べてみる。
まず
言語内 / 言語外
という対立関係を入れている。
その上で、
「言語外などというのは、言語内の出来事」という文字列を入れてみる。
するとまた、そっくりこのまま「はい、正しいです。言語外などというのは、言語内の出来事であり」と返してくる。
しかも「言語内と言語外は、必ずしも対立するものではありません」と置いてくる。
言語外と言語内は対立するものではない!
さらに「言語内の出来事は、言語外の出来事と結びついて統合されている」ともいう。
なんとこのAIは、二即一、一即二のようなことを言おうとしている!
・・・ように人間の私には見える、というのが肝である。
このAIは、質問者である私が入力している文字列から、私がやっている言葉と言葉の置き換え関係のパターンを学習して、それを真似ているように見える。
その時に、ロゴス的に矛盾しているかどうかは特に考慮していない。
文字列を並べる順番を計算しているのであろうが、その際に論理的・ロゴス的な意味の無矛盾性みたいなものは考慮の外にある。
しかしそうであればこそ、機械的ではなく、まるで人間と会話しているかのような、人間の自然な知的な言葉のような印象を与える文字列を生成することができる。
人間は知性と霊性、ロゴスとレンマ、意識と無意識、表層と深層、二即一にして一即二の生き物なのである。
最後に改めて確かめてみよう。
5.ダメ押し
上でいう「統合」を、私なら「二即一、一即二」と(過激に)言い換えてみたいと思うところだが、AIならなんと言い換えるのか、興味があって尋ねてみた。
異なることを異なったまま同じひとつのことに結びつける言い換えこそが、人間の言語の呪術的で象徴的、三摩耶的な動きの核心である。
(この辺りについては下記の記事をご参考にどうぞ)
*
期待を大にして待っていると、かえってきた言い換え候補は「言語統合」であった。
ちょっとがっかりであるが、このくらいがよいのかもしれない。
言語も統合も、私が打ち込んだ文字列である。
これまでの文字列の配列の中で連結器のような役割を果たしている”言語”という文字列と”統合”という文字列を、最短距離で並べてみたということであろうか。
そこでまたダメ押し。
といれてみる。
それに対する答えはまた「はい」である。ノーと言えないのだろうか・・・。
「言語統合を曼荼羅と呼ぶこともできます」
このAI、あいかわらずすごいことをいっている!(ようにみえる)
さらに曼荼羅は「複雑な文脈の中で、いろいろな視点から一つの文脈を統合する意味で、言語統合という考え方に近い」という言い換えまでしてくれる。
まとめ
このAI、まず受け答えのスムーズさ、生成される文字列の「それらしさ」ゆえに、ビジネス的、社会的に、いろいろな応用可能性がありそうである。
今日のいわゆるAI(人工知能)といえば、ある画像を犬か猫か判別したり、
ある自然言語Aの配列に対応する別の自然言語Bの配列を判別したりと、データの配列をそのパターンのちがいに応じて振り分ける技術として利用されてている。
ある目標とするデータのパターン / それ以外のパターン
正解 / 不正解
あらかじめ正解が決まっていること、例えばある画像が「猫」の画像かどうか、といった問いが予め論理的に固定されており、正解も決まっている事柄について、AIは教師データを用いて高速に「学習」し、人間よりも速く大量に疲れ知らずで散漫になることもなく、正解側に振り分けられるデータと、正解側に振り分けられないデータ(不正解側に振り分けられるデータ)とを、二つに判別しつづけることができる。
いま(いろいろな意味で)人類の役に立っているAIは、この正解と不正解とを二つに判別するものである。
*
それとは別に、私の個人的関心から言えば、このAIに回答文の文字列を線形に出力させるのではなく、質問者が入力した言葉たちの置き換え関係を二項対立関係の対立関係の対立関係としての八項関係として描画するようにアレンジすると、深層意味論、意味分節理論の研究ツールとしても使えるのではないか、ということである。
こういうの↓とか
こういうの↓とか
こういうの↓である。
人間がやっている、言葉と言葉の置き換えのパターンを学習し、学習したものとよく似たパターンを計算して出力する、このAIはなかなかすごい。
ここで人間がやっている言葉と言葉の置き換えパターンが、線形に見えるがじつは線形ではなく、外へ向かって分かれつつ、内に向かって収縮しようとする力が均衡した二重の四項関係として記述できること、だとすれば・・。
つまり人間の言葉は
○=○=○=○=○=○=○=○=○=○ (線形、一列に並ぶ)
に見えるが、これは音を発する口腔の都合でこういうふうに出力されているだけであり、実は言語のパターン入力によって訓練された脳(?)では、以下のように、二重の四項関係として動いているのだとすれば…。
そうだとすれば、ニューラルネットワークで深層学習するAIもまた線形配列を人間っぽくすることを直接目指すのではなく、まずは二重の四項関係を学習し、学習した二重の四項関係の部分としての二項関係を選んで配列してくような仕組みにすれば、もっと人間みたいになる”可能性がある。このあたり、どなたか多額の研究予算を持っている方とコラボしてみたいところである。
二項関係ではなく、八項関係を学習できてしまうAIなんて、それは怖いんじゃないか、まずいんじゃないか、という気がしないでもないが、人間/機械、人間/非-人間の区別、分節、二項対立もまた、ある八項関係の中の二項だけが全面化して固まった何かなのであるとすれば…。
@ @