科学と意味分節理論 -ある自己組織化するシステムを、他の自己組織化するシステムで"記述"する
1991年に刊行された中沢新一氏の著書『東方的』を読む。
現在は講談社学術文庫で読むことができる。
単行本も古書で多く流通しているようである。
さて、この『東方的』の単行本195ページには「脳とマンダラ」という論考を解説する不思議な図が掲載されている。
この図は、人間の心を含む生命体のシステムが「オートポイエーシス」のシステムとして「自己組織化」していく様を表している(『東方的』p.189)。
この図の中に記された〔 〕で囲まれた文字で表される「項」と、これらの項と項をむすぶ(=即ち、ある項を他の項とは異なるものととして区別しつつ、一つにつなぐ。二にして一とする)矢印の線が、物質的過程とい「心」的過程が一つになった生命システムの発生と分化を表している。
ここで中沢氏は、マンダラを意味分節システムの発生・創造のモデルとして読み解いているとも言える。
(この図の詳しい説明は『東方的』を読んでいただけると幸いです)
図の一番上に書かれている「プライマルな知性体」が「差異を見分ける原初的な」働きを動かし始める。この差異化する動き、分節化する動きが、いくつも反復され、重なり合い、連なることで、図の下の方に向かって生命体の個々の細胞、器官、身体が形成されていく。生命体はまた自身の身体を形成するだけでなく、その身体の活動によって周囲の環境に様々な物質的な動静双方のシステムを作り出す。その一つが人間の言語のシステムである。
口と耳の間の空気の振動として始まった人間の「言語」もまた、生命体がその周囲の環境に作り出した物質的パターンとしてのシステムであるという点がおもしろい。
生命体の神経系のシステムに由来する意識分節=存在分節の動きと、その動きの痕跡として形をなす身体外の物質のパターンからなる象徴と象徴の分節と結合のシステム(意味分節システム)の動態と静態を一貫して一連の差異化・分化のプロセスと捉えること。これは井筒俊彦氏の深層意味論の主題でもある。
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言語を分化と発生のプロセスにある、記号と記号の関係からなる分節システムとして考える立場は神経人類学者のテレンス・ディーコン氏の説とも通じるものがある。
テレンス・ディーコン著
『ヒトはいかにして人となったか -言語と脳の共進化』 p.87
科学とマンダラ・モデル
『東方的』で中沢氏は、この自己組織化するオートポイエティックなシステムの分化と結合の運動をモデル化したものが「マンダラ」であるとする。
そして、マンダラのようなモデルで、一から多が結びつきつつ分化し、複雑なシステムを発生させていくプロセスを思考することが今日の科学にとって極めて重要であると指摘する。
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