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文化人類学がおもしろい

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わたくしコミュニケーションを専門とする博士(学術)の筆者が”複数の他者のあいだのコミュニケーションを記述すること”という切り口から文化人類学の文献を読んで行きます。 わたしは文…
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2020年9月の記事一覧

対立関係とその調停に注意を向ける神話的思考

(この記事は有料設定ですが、さいごまで試し読みできます) 神話の研究で知られるクロード・レヴィ=ストロース。 その著書『神話論理』は一生に一度は読みたい人類の知性のひとつの極みである。 ※ レヴィ=ストロースによれば、神話の語りというのは、対立関係を調停する操作である。 太陽と月とか、老人と若者とか、水と火とか、男と女とか、酒と泪とか(?)、何でも良いのだが、古来から人間が日常的に経験できるものごとの中には、同じような部類の事柄でありながら、違いがあり、互いにペアに

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「因幡の白兎」にみる神話的思考:レヴィ=ストロース『月の裏側』より

レヴィ=ストロースにによる神話研究の話をすると、しばしばたずねられるのが「日本の神話」はどうなのかということである。ここで参考になるのが、レヴィ=ストロースが日本の神話について論じている一冊『月の裏側』である。 月の裏側、おもしろい表題である。 月は太陽と対立関係にあり、裏側は表側と対立関係にある。 月の裏側という言葉は、すぐさま太陽の表側、という言葉を思い起こさせる。 さて、日本の神話といえば日本書紀であり古事記である。 記紀が「神話」だとして、その「神話」をレヴ

「万物はそれぞれに自分自身を描いた画なのだ」ー岩田慶治『アニミズム時代』を読む

岩田慶治氏の『アニミズム時代』を読んでいる。 岩田慶治氏は文化人類学者であり、この『アニミズム時代』も岩田氏ご自身が調査した東南アジアの稲作農耕民族のアニミズム的な信仰や儀式のお話である。 天と地を媒介する儀式『アニミズム時代』の最初の方に「魂のトポロジー」という節がある。 そこでは「凧揚げ」「竜船競漕」「産髪」を残すこと、根を切った竹や樹木などを空に向けて立てることなどなど、いずれも、天と地を上下に分離しつつ結びつけ、自分たちの文化の世界とそれとは異なる遠方の世界を分

「起源」を考えることの深い意味 ―ダニエル・L・エヴェレット著『言語の起源』(2)

ダニエル・エヴェレット氏の『言語の起源』について、こちらのnoteの続きである。 『言語の起源』は言語がいつどのように始まったのか、という問いを問う一冊である。 この問いを問うにあたり、一番の難しいのは「言語」とはなにか??ということである。 特に「起源」を問う場合、世界最初の「言語」と今現在の「言語」が完全一致で全く同じものなのか?それとも違いがあるのか?という所も問題になる。 例えば「世界初のiPhone」であれば、開発途中のプロトタイプから、量産試作機、あるいは

コミュニケーションの観点からみる狩猟民と農耕民、縄文と弥生の接点

『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリは狩猟採集民の世界と農耕牧畜定住民の世界を鮮やかに対比させる。 ホモ・サピエンスにはおよそ7万年ほどの歴史があるとして、農耕牧畜が開始された「農業革命」は1万2千年前の出来事である。 ということはつまり、農業革命以前、私たちホモ・サピエンスは5万年以上の間、狩猟採集民として生活し世代を継いできたわけである。その暮らし方の中で、自分たちの文化的特質と生命体としての特質のハイブリッドシステムを進化させてきた、ということになる。 日々