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文化人類学がおもしろい

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わたくしコミュニケーションを専門とする博士(学術)の筆者が”複数の他者のあいだのコミュニケーションを記述すること”という切り口から文化人類学の文献を読んで行きます。 わたしは文…
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2020年7月の記事一覧

文化人類学がおもしろい -存在論的転回と”関係論的"存在論

この数年、人類学(文化人類学)が盛り上がっている。 読んでおもしろい本が続々と発表されているのである。 この「おもしろさ」の肝は人類学の「存在論的転回」にある、と個人的には思っている。そこでは物事を考える時の基本的な「議論の組み立て方」がぐるりと「転回」する。 例えば「ある」と「ない」。 あるいは「はじめからあるもの」と「あとから出てくるもの」。 私たちの日常の意識や思考や行動は、二極を分別することに多くのことを負っている。 明るい/暗い かたい/やわらかい 重い/軽

¥320

ブルーノ・ラトゥールのアクターネットワーク理論(ANT)とは? ー中間項と媒介子、二項対立をその発生へと回帰させる

※ (このnoteは有料に設定していますが、最後まで無料でお読み頂けます) ブリュノ・ラトゥール著『社会的なものを組み直す』を読む。 この本では「アクターネットワーク理論(ANT)」の全貌が詳細に明らかにされていく。 ラトゥール氏は2021年に京都賞も受賞されている。 上記の京都賞のWebサイトには、ラトゥール氏の取り組みのエッセンスが次のように記されている。 人類の活動に応答して地球環境は破壊的ともいえる変化を見せつつある。 しかし、我々人類は、自分たちの日々

¥240

ブルーノ・ラトゥールのアクターネットワーク理論(ANT)を読む(2) <厳然たる事実> と <議論を呼ぶ事実>

(この記事は有料に設定していますが、全文"立ち読み"できます!) ※ ブルーノ・ラトゥールのアクターネットワーク理論(略してANT)は、異なる二つの世界、異なる二つの意味作用を生きる、複数の人間、複数の生命、そして複数の「モノ」の関係を理解する手がかりとなる。 ブルーノ・ラトゥールのアクターネットワーク理論とは何か? これについてはこちらのnoteで解説をしているが、今回は特にラトゥールを理解する鍵となる「もの」の概念に注目して『社会的なものを組み直す』を読んでみよう

¥200

変身あるいは真似 「呪術」としての意味 ー安藤礼二『列島祝祭論』p.8より

安藤礼二氏の『列島祝祭論』を読み直しはじめた。 最初からページをめくっていくと、7ページ「翁の変容」から本論がはじまる。はじまる、というか、目が覚めたらすでに始まっているところに立っていた、というくらいの急転直下である。 「翁」が「変容」するというだけで、これはもうただならぬフィールドである。 推理小説なら大ドンデン返しをしているど真ん中にいきなり飛び込むようである。善と悪の区別がつかなくなり、味方が敵で、敵が味方で。しかも最終的に、主人公と敵役のどちらかが善にどちらか

「暗黒時代」は誰にとっての「暗黒」時代か―ジェームズ・C・スコット『反穀物の人類史』を読む(1)

ジェームズ・C・スコット著『反穀物の人類史 〜国家誕生のディープヒストリー』を読む。 「穀物」と「国家」から人類史を論じる一冊である。 [国家] 対 [反-国家] [穀物] 対 [反-穀物] 今日の私たちは、「国家」の存在も、「穀物」の存在も、当たり前だと思って生きている。 「日本人なら朝ごはんはお米だわ」 などと、さも当然のように言えるところまで来ている。 ところが、穀物はもちろん、国家も、人類の歴史の中で見れば、最近登場した新しいアクターである。国家も穀物もな

¥130

「AI」と「人間」の関係を、アクターネットワーク理論で紐解く   ―久保明教著『機械カニバリズム』より「カニバリズム」について

(本記事は有料に設定していますが、最後まで無料で読めます) ◇ 人類学者久保明教氏の『機械カニバリズム』を参考に、人間と機械の関係を「カニバリズム」的関係として記述するという話を前にこちらのnoteに書いた。 カニバリズム的関係として記述するとは、要するに人間と機械が二つでありながら一つであるという関係として記述する、ということである。 久保氏によれば、人間と機械の関係は「この世界に存在するものについて異なる見解をもつ存在者同士の相互作用」として理解できる。 この相

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アクターネットワークとはなにか? - アクターネットワーク理論(ANT)は記述するコトバを媒介子にする

(本記事は有料に設定していますが、最後まで無料で読めます) * * ブルーノ・ラトゥール氏の『社会的なものを組み直す』は、「アクターネットワーク理論(ANT)」の本である。 ラトゥール氏の著作は他にもいろいろあり、たとえば『近代の<物神事実>崇拝について―ならびに「聖像衝突」』などもとてもおもしろいが、アクターネットワーク理論について知りたいという場合は、この『社会的なものを組み直す』をまずは読んで見るのがよいかもしれない。 アクターネットワークとはそれぞれのコトバの

¥100

関係論的存在論はダイナミック(動き)である ―文化人類学がおもしろい(2)

科学が行う区別前のnoteで人類学の「存在論的転回」について書いた。このあたりの話は個人的にとても面白いと思うので、続けてみる。 「自然」対「人間」であるとか、「客観」対「主観」であるとか、近代の科学が知の出発点に設定した大区分がある。 こうした区分はそれ自体として「ある」ものではなくて、「人間」が「行っている」ことである、というのが関係的存在論の考え方であった。 人間が区別をする。近代の大区分も、そうした人間が行う区別のやり方のひとつのパターンである。 科学にとって

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「AI」と「人間」の関係を、アクターネットワーク理論で紐解く ―自分は他者であり他者が自分である

(このnoteは有料に設定していますが、最後まで無料でお読み頂けます) ◇ 以前こちらのnoteで、ブルーノ・ラトゥール氏のアクターネットワーク理論(ANT)について書いたことがあるのだけれども、そのアクターネットワーク理論を用いると、「人間」と「機械」の関係も"いくつものアクターが次々と意味を変換していく行為の連鎖"として記述されることになる。 いわゆる、今話題の人間とAIの関係のようなものも、人間というものAIというモノの「本質」を予め設定して固めた後から無理にくっ

¥240