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演劇と音楽の狭間で 二人の音楽家の奮闘記
ある日、レコーディングをしていると久しぶりの後輩ミュージシャンから連絡があった。
相談がある、とのこと。
相談されても「死ななければ大体OK」ですませるこの私に相談とは何事・・・
壺か?壺を売りつけられるのか?
おそるおそる話を聞いてみる。
後輩の友人が所属する劇団が今回の公演で楽器を演奏するらしく、その指導者を探しているとのこと。
オーダーはパフォーマンスと演奏を見てほしいそうだ。
壺じゃなかった。
初日は9月末(この時9月初旬)
え、もうすぐじゃん。
そういうのって前もって探しとくもんじゃないの?
という疑問が持ち上がった。
でもやぶさかではないので「全然いいよー!」と返事をした。
このタイミングで発注されるってことは現場は相当火の車なのかも知れない。
演者の勘と初日の近さが全てを物語っている。
最後にその後輩から「ちょっとクセの強い劇団なので無茶を言われたらごめんなさい」とクギを刺された。
クセの強くない劇団なんてこの世にあるのだろうか?と思ったが改めて言われるってことはそこそこクセが強いのであろう。
パクチー以上、ドリアン未満と想定する。
こちとら20年以上現場で揉まれてるのだ。
感情EDと言っても過言じゃない。
クセが少々強かろうと滅多なことじゃ勃起しない。
「なんて劇団?」
「劇団鹿殺しって言うんだけど」
たしかにクセが強そうだ。
妖怪アンテナもビンビンに勃起している。
ドリアン以上、シュールストレミング(世界一匂う缶詰)未満に上方修正。
人や鹿のハラワタが撒き散らされる舞台だったらどうしようとあらぬ想像をしてしまう。
まだ会ったこともない劇団に少し恐れをいだきながらレコーディング業務に戻る。
しばらく作業に没頭していると、和田充弘から着信。
ご存知、わだきゅん。
我が楽団Choro'n'POW!の主席トロンボーン奏者だ。
頼れる相棒であり、良き友人なのだがこやつから連絡がある時はロクなことがない。
やれ
ダブルブッキングした、だの。
終電がなくなった、だの。
息子の運動会に代わりに出ろ、だの。
一緒に花火を見ようと、だの。←これはいいじゃん
枚挙にいとまがない。
今回はなんだ?と思いながら電話に出る。
「今自分が曲をアレンジしている劇団があるんだけど、劇中のアレンジ聞いて欲しい」だって。
なんかまともなことを言ってんな。
ん?劇団?
なんかその案件聞いたことあるぞ。
「あー、そうなんだ。聞くから音源送ってー。つーかなんて劇団?」
「(それには答えず)ありがとうー、演者さんが演奏するからどのくらいの難しさにしたらいいのかわからなくて。助かるー」
「まぁさすがに我々が普段やってるようなやつは難しいよね。つーか、なんて劇団なの?」
「「言いにくそうに)劇団鹿殺し」
まじか!知ってるよ!その劇団。
いや、知らないけど。
こんなことってあります?
全然別の人から同じことを頼まれるって。
謎のシンクロニシティに恐れを抱きながら劇団の制作の方と連絡を取り、翌日の稽古から合流することに。
とにかく早く来てくれ!感が伝わった。
けど翌日って。
どんだけ切羽詰まってるんだ。
PCR検査も受け、なにも分からず現場入りしてみる。
久しぶりの芝居の稽古場。
そうそう、この空気!って感慨に耽る間もなく感じた。
「どうしてもっと早く来ないんだ!」
医者ならそう叫ぶであろう事態が目の前に広がっていた。
これは困難な道のりである。
しかし!そんなこと言ってられない。
プロの演奏者を育てたいわけじゃない。
私の使命はこの2週間で彼らを一人前にすること。
それまでも分からないなりに必死に練習していたのだろう。
打てば響くという感じで次々とアドバイスを吸収していく弟子たち。
さすがは役者さんというか。
飲み込みは早くて少しのアドバイスで驚きの白さ、じゃなくて変わりようである。
こんなに変わるのか!と感動することも何度もあった。
教育者冥利につきる瞬間だ。
こうなったらもう気分は3年B組である。
荒川の土手で叫びたい。
そして集まってきた生徒にもみくちゃにされたい。
火事場のなんとやらで謎の連帯感というか結束を生みつつ、髪がない金八(みたに)と髪がふさふさの金八(わだ)が稽古場に通う日々が始まった。
まずは楽器のチューニングと音作り。
これだけで全然違う。
弟子たちも「こんなに叩きやすくなるんだ!」と驚いていた。
素直でかわいい。
太鼓の皮がヘタっていたのですぐにJPCへ連絡して皮の手配。
この辺も抜かりはない。
そして譜面を見るのをやめさせた。
「我が流派では譜面など必要ないのじゃ!」
そう。
わだくんが一生懸命書いた譜面を外させたのだ。
どうせ本番は見ないんだし。
「譜面を捨てよ町へ出よう」と寺山修司先生も言っている。
っていうかヤツはChoro'n'POW!や他の現場でも私に譜面なんか一切渡したことないのに、彼らには丁寧に何回も何回も書き直していた。
特に女の子に丁寧にやってた。
言わなかったけど心の中で憤慨してた。
なんなんだ、この差は!
みたにも女子に譜面を書いてあげたかった。
次にやったことは“簡単なリズムを刻みながら会話する”という自分のワークショップでもよくやる導入。
これができるようになると一定のリズムを刻みながらそのテンポとは関係なく会話ができるようになってくる。
すると視線が下がらずに顔が上げられるようになってくる。
そうなってくると自然と“耳が開く”のだ。
“耳が開く”どうなるかって言うのは長くなるから書かないけど、ものすごく簡単に言うと余裕が生まれるんです。
今回、彼らはただ楽器を演奏するのではなく役の上で演奏します。
これがまた難しくて。
普通に演奏するよりひとつ乗っかっているのだ。
間違えたり、次なんだっけ?ってなると思わず素に戻ってしまう。
だからなにより“心の余裕”が必要なんですね。
大変だったと思う。
まずは楽器に慣れること。
そしてとにかくリズムというのは動きの中にあるということを伝えた。
彼ら的には基礎練習とか叩き方とか聞きたかったはずなのだけど、自分が伝えたかったのは舞台での演奏の仕方。
試合で使うものではなく、本当の実戦で使える極意を伝えたつもり。
最初は「なんか変なのキター!」って戸惑ったはずだけど、コチラの意図を汲み取ってくれて文句も言わずに練習してくれました。
彼らと接しているうちに演劇と音楽に共通していることって多いなぁと感じました。
たとえば“間”です。
タイミングと言ってもいいかもしれません。
“間”の使い方で台詞やフレーズの意味合いがまったく変わってしまうこと。
フレーズの発音の仕方、呼吸、スピード感、音色、タイミング。
これは言葉で発するのも楽器で発するのも一緒なんだなと改めて気づかされました。
そして逆に演劇人と音楽人の違いにも驚かされました。
それは時間感覚。
彼らは朝10時から夜10時まで一ヶ月の間、毎日稽古をする。
密度が違う。
びっしりしてる。
音楽家的に毎日同じメンツと顔を合わせるっていうのがあんまりないんですね(仕事によってはある)
下手したら10月ぐらいで「今年も会うの最後かな?良いお年をー」とか言ってる気がする。
アーティストさんのツアーや某夢の国ではリハーサルを重ねますけどもこの量はやらない。
彼らの時間軸がどれぐらいかと言うと稽古場に2日間顔を出さないと「お久しぶりですっ!」と言われるぐらいだ。
これはイヤミで言われてるのではない。
(え、イヤミじゃないよ・・・ね?)
あんな満面の笑顔でイヤミをぶつけてくるなんてアカデミー助演男優賞ものだ。
とにもかくにも時間軸が違うのです。
まさに竜宮城なのである。
稽古をしてるとあっという間に5時間ぐらい経ってる。
次の仕事に遅れそうになったのも一度や二度ではない。
竜宮城でも現実世界でもタイムキープは自分でするのだ。
自・己・責・任。
人は体感時間で年を取るというが、ココにいたら年を取らないんじゃないかと錯覚するほど。
しかし、年齢は重ねなくても疲労は重なる。
日に日に疲労が濃くなっていく弟子たち。
楽隊のみんなは朝からみっちり芝居の稽古をした後に楽器の練習をしていた。
そして早出をしたりして、稽古場が空いてる時に自主的に練習も。
そんな姿を見ていたら・・・
こちらも本気になります。
容赦なくダメを出される彼らを見て「彼らはよくやってますよ!」と髪のない金八は演出家に言ってやり・・・たかった。
怖くて言えなかった。
その代わり「お前らはよくやってる、よくやってるよぉ!」と心の中でなんど抱きしめたことか。
稽古場に通うようになって数日が経ちまして。
数日とはいえ、レッスン内容や時間で言えばヤマハ音楽教室の2年分に相当する濃い時間を過ごしている。
まさに精神と時の部屋である。
そんな密な時間を過ごすうちに彼らとの間に妙な連帯感というか結束力が生まれてきた。
トクン、トクン。
なんだろ、この感じ。
これは・・・そうバンド感だ。
こんな短期間でバンド感が生まれるなんて。
ハッピーバースデー Dear バンド感。
ちょっと感動しました。
そして頼りなかった彼らも楽器を持つ姿が様になってきた。
楽器を持つという“非日常”がいかに“日常”になるか。
こればっかりは教えられない。
これがレッスンやワークショップでもお伝えする時に苦労するところなのだ。
板に付くという言葉があるが、これは“時間”がそうさせるのだ。
稽古中の思い出は色々ありますけど。
個人的に一番辛かったのが演出家のちょびさんに「師匠、お願いします!」と言われて何度も何度もお手本を見せなければならなかったこと。
これがねぇ。
イヤで、イヤで笑
太鼓のパートは3つあるから三回やるんですよ・・・
もちろん毎回本意気でやらないとだし。
手癖的にやると「そんなのできない!」ってなるだろうし。
現になってた(ごめんよ)
そしてあまりに手加減すると「なんだ師匠全然叩けないじゃんか」ってなる可能性もある。
一度「フリーソロやってくれ」と言われてやったら「師匠のはなんかアフリカっぽい」って当たらずも遠からずな指摘をされてわだくんと苦笑いした。
雰囲気もなんかオーディションみたいだし、毎回ビデオ撮られるし、無言のプレッシャーあるしほんとキツいんですよ!
ちなみにヤツは一回も見本で吹かなかったはずだ。
まぁでも今回はわだくんと一緒で本当に助かったし、向こうもそう思ってることでしょう笑
本当におつかれ、相棒。
あとちょびさんのオーダーがナガシマ的と言うか。
ほとんど擬音なんですね。
「もっとズゥルアン!ってやつでぇ、うわぁ!って感じにしたい」ってのが
「あー、ロールで盛り上げたいのね」ってなるまで結構時間かかった。
でもみんな、真剣で、本気で、必死で。
それに応えたいと思った。
だから和田くんと私は毎日必死になって伝えた。
「いや、これ俺らでもようできん」と思ったのも一度ではないし、最後の方なんて日常自分に言い聞かせてるぐらいのレベルの話をしていた。
日に日に頼もしくなる弟子たち。
初日から比べると別人28号だ。
稽古場での通し稽古を経て、小屋入りする頃にはもう言うことはなくなっていた。
でも弟子たちが「来てくれると安心する」と言うならば行かないわけには行かない。
あとは自信を持ってやるだけ。
「大丈夫、大丈夫!」と言い続けた。
人の前に立って“なにか”を表現するのってほんとに大変なことだと思う。
だから尊いのだけれど。
そしてその“なにか”を伝えるのは技術だけではなく最終的には“気持ち”なんだ、と彼らは教えてくれました。
先日、本番を見せていただいて。
楽隊のみんなが最初に舞台に出てきた時は本当に涙が出た。
会場にトランペットの音が響き渡った瞬間、鳥肌が立った。
全然泣くシーンじゃなかったから涙を流してたのは会場で自分一人だけだっただろう。
でもちょっと危なっかしい所があって、すぐ涙が引っ込んだ笑
それでも本番を重ねて少し見ない間に立派になったみんながキラキラ眩しくて。
頼もしいのと同時に我々の手を離れて飛び立ったさみしさを感じました。
最後のドラムソロでシンバルが決まった時、客席でガッツポーズしました。
オトナが、本気で、エンタメをやる。
その熱量の中に少しでも関われたことを誇りに思いながらカーテンコールで劇団鹿殺しの皆さんに拍手を送り続けました。
今日が東京千秋楽。
素晴らしい舞台になるに決まってる。
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