『闇の奥』 (岩波文庫 赤 248-1) ジョセフ・コンラッド著 中野好夫訳。別の小説にコンラッドが登場人物として出てきてしまったで、急いで読んでみた。
『闇の奥』 (岩波文庫 赤 248-1) 文庫 – 1958/1/25
J.(ジョセフ) コンラッド (著), 中野 好夫 (翻訳)
Amazon内容紹介
まず、読んだ岩波文庫の紹介
いまひとつ分かりにくい。ので新訳で最近出た新潮文庫のほうのAmazon紹介
もひとつ、光文社古典新訳文庫の
ここから僕の感想
この小説は、コッポラの名作映画「地獄の黙示録」の原作として有名なんだけれど、今回読んだのは、コロンビアの現代作家、ファン・ガブリエル・バスケスの『コスタグアナ秘史』という小説を読み始めたらば、その小説の主人公というのが、勝手にコンラッドのことを魂の双子、運命で結ばれた片割れと思い込んで、自分とコンラッドの関係を語っていく、というお話なんだわ。で、コンラッドの小説のことはみんな知ってるよね、当然、常識だよね、というふうに語っていくわけ。中でも代表作のこの『闇の奥』については登場人物も名セリフも、当然知っている前提で楽しく語っていくのだな、主人公は。
はじめのうちは『コスタグアナ秘史』を読み終わってから『闇の奥』を読めばいいか、後から確認すればいいかと思ったのだけれど、あんまりにも「知ってる前提」表現が頻発するので、全体の1/3くらい読んだところで「ええい、だめだ」ということで、先に『闇の奥』を読むことにしたというわけだ。
前に読んで長い感想文を書いたマリオ・バルガス・リョサの『ケルト人の夢』にもコンラッドは登場してきて、そっちのほうの主人公は実在人物ロジャー・ケイスメントという人で、史実としてもコンラッドとケースメントは本当に船乗り時代にコンゴで出会って、生涯,交流があったのである。そっちの本を読んだときに、コンゴを舞台にしたコンラッドの小説として『闇の奥』を読もうと思って買ったのだが、読まずに積読状態だったのだ。で、本棚をひっかきまわして探したらあった。あった。よかった。
薄いので、本文200頁くらいの中編なので、すぐに読めちゃったのだが、これがなかなか。いやたしかに地獄の黙示録だった。あたりまえか。
コンゴでの本当の地獄、西欧人が植民地支配でどれだけひどいことをしたかは、バルガス・リョサの『ケルト人の夢』の方が正確、克明なのだ。ベルギーのレオポルド二世と言うめちゃくちゃな王様が、国としての植民地ではなくても個人の王様私有地として、ゴム農園と象牙の収集のためにもう残虐非道の限りを尽くした、そのことを告発したのがロジャー・ケイスメントなのだな。そのことを描いたのが『ケルト人の夢』。
一方、『闇の奥』は、その時代に、象牙収拾の現地責任者で・コンゴ川奥地に原住民の王のように君臨した謎の人物クルツに、コンラッドを投影した主人公の船乗りが会いに行くという話。それは人道的な意味での現地人迫害という「悪」ということではなくて、人の心の闇の奥に入って行ってしまった人物クルツ、心の闇の奥の境地に行ってしまった人物に出会う、ということを描いた小説なのだな。なんだかね、不思議な小説でした。いや、面白かったけど。
それにしても、あっちこっちの小説にコンラッド自身が登場するし、『闇の奥』は読書人の基礎教養みたいだし、「地獄の黙示録」原作だし、どうもつまり、『闇の奥』コンラッドは、お時間あれば読んでおくことおすすめです。いや、それなりに面白かったし。
ということで、無事、『闇の奥』を読み終えたので、『コスタグアナ秘史』の読書に戻るのである。こっちの著者のファン・ガブリエル・バスケスは、ガルシア・マルケスの後継者と言われるだけあってときどきすごくふざけるのである。嘘八百を創作しながら、コロンビアの歴史の裏側を語る名手なのである。(この小説はパナマ運河が作られるときの話なんだな)。
『コスタグアナ秘史』フアン・ガブリエル・バスケス (著)久野 量一 (訳)。いやもう、面白かったけど。コロンビアの社会、歴史の重さが詰まっていて、はじめ軽妙な語り口が、最後の方でどんどん重く暗く超ヘビー級になっていきます。 #note #読書感想文 https://note.com/waterplanet/n/nb0e942ee25c8